理想はやはり標準体重を目指すべき
2016/02/13 17:45:58 |
お勉強 |
コメント:6件
先日、立って活動すると効率が良いという話を致しましたが、
標準体重よりも大きい人生をずっと歩み続けている私の実体験から考えると、
同じ立って活動し続ける状況においても、立っている時間が長くなってくれば標準体重の人と比べると不利だと感じます。
立っている状態を支えるには重力に抗する筋力が必要ですが、
重力によって生じる力は質量に比例します。従って体重が重い人ほど大きな力を自分の筋力で保持しなければならない事になります。
数時間の立ち飲みくらいでは大差は感じないかもしれませんが、例えば登山の時などにはその差は歴然と感じます。
実は私足腰には自信がある方で、レッグプレスというジムの器具で200kgの重さでも難なく挙げられる下肢筋力はあるのですが、
それでも山登りをするとなると相当しんどくて、一緒に参加している標準体重の友人に大分遅れをとってしまう事もこれまでに多々ありました。
一方で、皆さんはアリが石垣を昇っている様子を見た事があるでしょうか。
見たことがある人はわかりますが、それはもうものすごいスピードでタカタカタカ~っと駆け上っていきます。
ヒトで考えると、ものすごい断崖絶壁を駆け上っているような状況になりますが、それは決してアリが強靭な筋力を持っているからではないですよね。
アリの体重がものすごく小さいために、重力によって及ぼされる力も小さいから、小さい筋力でもそのように簡単に石垣を駆け上る事ができるわけです。
私のように高度肥満状態から糖質制限を開始した人は、
糖質制限し始めの頃はスムーズに減量が進みます。私も10ヵ月で30kgの減量を苦もなく達成する事ができました。
しかしその体重減少は残念ながら必ずしも標準体重になるまで持続しません。
また多くの糖質制限実践者と交流する中で、そういう悩みを持っている方は私だけではないという事がわかりました。
最初はこの一定の体重が自分にとっての標準体重なのかと考えていた時期もありましたが、今はそうではないと考えています。
一方で、「代謝的に健康な肥満(metabolically healthy obesity;MHO)」と呼ばれる概念があります。
わかりやすく言えば、太っていても健康診断でまるで異常が引っかからないタイプの人です。
そういう人がいるのであれば、過体重であってもその人にとっての最適体重であるという事はありうるのではないか、と思われるかもしれませんが、
やっぱり私はそうは考えられません。その根拠の一つが最近読んだ次の論文です。
Chang Y, et al. Metabolically Healthy Obesity and Development of Chronic Kidney Disease: A Cohort Study. Ann Intern Med. 2016 Feb 9. doi: 10.7326/M15-1323. [Epub ahead of print]
背景:肥満関連代謝異常のない肥満者、いわゆる代謝正常肥満、における慢性腎臓病(CKD)のリスクはあまり探索されていない
目的:代謝が正常な男女の大集団コホートにおいてBMIのカテゴリーで偶発発症のCKDのリスクを調査すること。
デザイン:前向きコホート研究
設定:南韓国、ソウルのKangbuk Samsung病院、Kangbuk Samsung健康研究
参加者:ベースライン時にCKDやタンパク尿を持っていない62249名の代謝的に健康な若年~中年の男女
測定:代謝的な健康とは、インスリン抵抗性が2.5未満でかつメタボリック症候群のどの要素もない恒常性モデルとなる評価に至ったものと定義された。
低体重、正常体重、過体重、そして肥満はそれぞれBMIが18.5kg/m2未満、18.5~22.9kg/m2、23.0~24.9kg/m2、25kg/m2以上と定義された。
アウトカムはeGFR60mL/min/1.73m2未満と定義される偶発発症のCKDとした。
結果:369088人年のフォローアップ期間中に、906名のCKD偶発発症例が同定された。
正常体重と比較して低体重、過体重、および肥満の参加者での5年間のCKD累積偶発発症の多変量調整した差はそれぞれ1000人年あたり-4.0(95%CI, -7.8~-0.3)、3.5(CI, 0.9~6.1)、6.7(CI, 3.0~10.4)例であった。
これらの関連はすべての臨床的さに関連のあるサブグループでも認められた。
制限:慢性腎臓病がそれぞれの訪問で単一の測定で同定されたということ
結論:過体重および肥満は代謝的に健康な若年および中年参加者におけるCKD偶発発症の増加と関連している。
これらの所見は代謝的に健康な肥満は無害な状態ではなく、代謝異常の有無に関わらず、肥満の表現型が腎機能に不利な影響を与えうる事を示している。
つまりMHOであっても、やっぱり長い目でみると身体にとって好ましくない事が起こりうるという事です
また先述のように過体重の人は標準体重の人よりも大きな重力による力がかかってしまうという点で考えても、それが最適とは言えないのではないでしょうか。
それに過体重の状態は標準体重と比べて格好良くありません。
いくら好みには個人差があるといっても、集団で捉えたら美男美女は標準体重のグループに明らかに多いでしょう。
それではなぜ高度肥満者は糖質制限で途中まではスムーズにやせていくのに、
糖質制限を続けているにも関わらず、途中から標準体重に行く手前で体重減少がストップしてしまうのでしょうか。
私は体重減少が途中で止まるのは、糖質制限がどうこうというのではなく、
あくまでも現在の食事摂取状況と体内の代謝環境のつり合いがとれた状態となった時にそうなるのではないかと思っています。
私の場合は糖質制限に加えて1日1〜2食にもなったりしているものですから、
オートファジー活性化などを通じてタンパク質の再利用効率が高まっている事が考えられます。
その状況ではかなり節約モードになっているものですから、
現状維持のための栄養はかなり少なめでも事足り、その必要最低量が入ってしまえはもうそれ以上はやせません。
その時の体重が最適な体重であるという保証はどこにもありません。
もっと言えば過体重の人はインスリンの活用が非常に上手です。
糖質は勿論、タンパク質であっても効率的に分泌させ、栄養を取り込もうとします。
もしかしたらその上手さは、それまで糖質の頻回過剰摂取を繰り返してきた事で鍛えられた能力なのかもしれませんが、
いずれにしてもそうした背景があって、プラスマイナスの均衡が取れた時に体重は一定となるのではないでしょうか。
でも健康を追求するならあくまでも目指すべきなのは標準体重だと思います。
理由がわかれば、あとはどうやってその目標に到達するかを考えればよい、という事になります。
「みんなスラスラやせていくのに、なんで自分だけさらに苦労しないといけないのか」
そう思う方もいらっしゃるでしょうか。
でも過体重の私はむしろその方法論を確立できるチャンスが与えられていると思っています。
自分の今の状況にどんな価値を与えるかは自分次第です。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
感動しました。名言リストに載せました。
困難に遭遇しても、それを乗り越える課程で見えてくる物がありますものね。
私は逆に1500kcal/日程度しか食事が入らず、
それ以上入れると逆食などの消化器症状が、
油断してそれ以下になると、体重減少→手足しんどい病に至ってしまいます。
現在透析状態ですが、保存期(当時は糖質中心)から同様でした。
体質のばらつきって大きいんだなぁと貴ブログを読んで思う次第です。
No title
私もじみ~に体重が増えてまして、まあ職場環境の変化で7時間ほど立ちっぱなし、主に下半身の筋肉だろうと甘く見てました。あと首周り肩周り。ユニクロのLサイズはガバガバですし。
ですが、たしかにいざと言うとき火事や地震、津波のとき逃げ遅れるのではいけませんから蛋白質制限を少し心がけてみようかと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
食事に対する反応は様々な個人差、多様性がありうると思います。
そういう中でも自分の体調をバロメータに軌道修正をかけていくのが一つの基本方針になるのではないかと私は考えています。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
体重が下げ止まるのは少ない栄養でも現状維持できるように身体が適応しているという事なので、必ずしも悪い事ではないのですが、
さらなる理想を求めるのであれば、本質を理解した上でもうワンアクション加える努力が必要になってくるのではないかと思います。
除脂肪について
ここ最近は過去のエントリーもいろいろ拝読して学習させていただいております。どれも視点も興味深く内容もよく練られていますね。ここから導かれて夏野氏のブログもすべて読みました。
糖質制限の生理学的に恩恵は多岐に渡るようですが、痩身効果に絞ると次のことを思いました。
三十キロの減量の後、体重減が止まったとのことですが、ボディビルディング実践者にとってカーボカットによって除脂肪するというのは新発見ではなく、かつ、カーボカットだけでは除脂肪は停止するのも実践的には常識的なことです。その後は週に一度程度はチートデイとして糖質をある程度とるとさらに脂肪が落ちるようです。
ちなみに僕はレッグプレスで肋骨折って以来はあの器具は使ってません
Re: 除脂肪について
コメント頂き有難うございます。
チートデイについては一度試した事がありますが、また糖質の害を受けるのが怖くて積極的な糖質摂取にはなっていなかったかもしれません。しかしボディビル業界での実践経験があるのであれば、もう少し積極的なチートデイは一度はチャレンジしてもいいかもしれませんね。休日などの時間にゆとりがある時に実践してみたいと思います。御助言有難うございます。
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