冬眠から学ぶ潜在能力
2016/01/26 07:05:00 |
動物から学ぶこと |
コメント:16件
寒い季節となりました。
つい先日まで暖冬とか言われていたのに、
先日から急に記録的寒波だとか言われるようになり私の住む地域でも久しぶりに大雪に見舞われています。
こんな日は車よりも歩いた方が安全なので、特別な事情がない限り私は歩きます。
糖質制限をするようになり、寒さにも強くなったとはいえ、
雪風吹き荒れる外の道を歩くのは相当寒さを感じます。ちょっと頑張って外を歩かなきゃと気合を入れる必要があります。
しかしながら歩いていてふと思いました。
私たちは今、服も来ているし、靴も履いているからまだいいけれど、
服も靴もなかった時代の我々の遠いご先祖様はこんな時いったいどうして生き延びていたのでしょうか。 服を着ていてもかなり我慢しながら歩いているというのに、この状況で仮に服も靴も脱げと言われたらそれだけでも凍えそうです。
それに現代の我々には家という雨風をしのげる建物がありますが、
太古の昔にはそれがありません。火を使えればまだいいですが、それも使えない時代の人類はどうだったのか。
都合のよい形の洞窟や大きな木の下に隠れるといっても、今の家の持つ防寒・防風機能に比べたら雲泥の差だと思います。
恐竜は氷河期に絶滅したと言われていますし、
人類も歴史の中で数回襲われた氷河期の中で何度も集団の数を減らしたと聞きます。
現代のような生活環境でもなければ、寒さというのは生物にとって生きるか死ぬかの重要な問題であるはずです。
そんな過酷な環境に耐え抜くため、生物は「冬眠」というシステムを作り出しました。
ヒトの場合、30℃以下に身体が冷却されると体温調節機構が機能しなくなり、
自力で正常体温へ復温できなくなり、体温が20℃以下に低下すると心臓が停止し致命的な結果になると言われています。
しかしながら冬眠する動物は0℃近い低体温でも生命を維持し、冬眠終了時には身体に何の損傷もなく復温します。
冬眠中の動物の身体の中では、非冬眠時とはまったく異なるシステムが働いている事が動物の研究でわかっています。
例えば、冬眠中のシマリスの心筋細胞は細胞内のカルシウムイオンチャネルが開かなくなっており、
一方で筋小胞体のカルシウム濃度制御機構が非常に強化されている事がわかっています。
こうすることで、心筋細胞の収縮と弛緩に際し、細胞内外へのカルシウムイオンの移動はなくなり、筋小胞体の中でカルシウムイオンの調節が制御されます。
このシステム変化は実はすごいことで、無駄なエネルギーを使わず心臓の働きを維持する事ができるようになるだけではなく、
本来であれば心筋細胞内にカルシウムイオンが細胞内に過剰流入して心筋が収縮したまま停止し、細部内のミトコンドリアが障害されてしまう所を回避できるようになっているのです。
またクマの場合(例:ヒグマ)、12月頃~3-4月頃まで約4か月間絶食で過ごします。
冬眠中のエネルギー源は蓄積された脂肪によってまかなわれていますので、クマは秋に過食する習性があります。
冬眠期間中の体温は中途覚醒する事がなく、一切摂食・排糞・排尿を行なわず、妊娠したメスは冬眠期間中に分娩し、生まれた子に対し授乳を行うそうです。
一見エネルギー不足に陥るだけと誤解されがちな絶食療法に様々な効能がある事も、この辺りと兼ね合わせるとより理解が深まると思います。
逆に冬眠を邪魔されると生命維持に支障をきたす事があります。例えばコウモリは真菌の感染により冬眠が邪魔されると衰弱死してしまいますし、
先日紹介した汎動物学の書籍の中にも、動物園で飼育されたクマが野生のクマよりも不健康になっている事が示されています。
冬眠というのは生命が環境変化に合わせて適応した結果作り出した合理的なシステムだということがよくわかります。
そんな「冬眠」をする動物ですが、調べてみると結構たくさんいます。
体温を一定に保とうとする恒温動物である哺乳類でも、18目約4070種のうち7目183種が冬眠する事が知られています。
具体的にはアナグマ、ハリモグラ、モリオナガネズミ、ヒメポケットマウス、ゴールデンハムスター、オオホオヒゲコウモリ、ハイイロショウネズミキツネザルなどです。
ヒトの直近の祖先にあたると言われるサルの一種にも冬眠能力が備わっていますし、
実はヒトにおいても医療の中で実は冬眠の考え方が一部応用されていると思われる例があります。例えば心肺停止後の脳機能を保護するために低体温療法という治療法です。
こうしてみると、「ヒトはもともとは冬眠能力を兼ね備えていたけれど、環境の変化によりその能力を失ったのではないか」という仮説が浮かび上がってきます。
その仮説が仮に正しいとすれば、なぜそんな便利な能力を手放すのでしたのでしょうか。
それは「使う必要がないほどヒトが寒さから身体を守る術を手に入れたから」ではないかと私は考えます。
火を発見し、服や靴を作り、家を建て、そして暖房器具を進化させる事で、ヒトは冬でも恒常的に温かい環境で過ごす事ができるようになりました。
環境により遺伝子が変化する事をエピジェネティクスといいますが、こうした環境変化でヒトはもともとは持っていた才能を閉ざしてしまったのではないかと思うわけです。
もう一つ、「冬眠しなくて済むようになった要因はふんだんに食べられるようになったこと」だと思います。
上述のクマの例のように、冬眠中は寒さへ適応するためのシステム変更のみならず、絶食中の代謝変更も重要な要素でした。
しかし年中食べられるようになった環境変化を受けて、絶食中に働かなければならない遺伝子は働く必要性がなくなってしまったのではないかと思います。
もしそれが正しければ、ヒトは絶食療法によって冬眠中に分娩できるほどのエネルギー効率化システムに関与する遺伝子をオンにする可能性を秘めているのではないかと思うわけです。
現代社会を生きていく中で、冬眠的な事をするのは現実的ではありませんので、
せっかく持っていた潜在能力を少しでも引き出すためには、絶食を利用するのが一つのアプローチになるのではないでしょうか。
動物から学ぶことはまだまだたくさんありそうです。
これからも気づきがあれば適宜紹介していこうと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ぼくは冬になるといつも、春まで冬眠したいなぁ、と思います。
糖質制限をすると明らかに寒さに強くなりますが(ちなみに暑さにも強くなる気がします)、それでも冬は寒いですね。
冬眠というのは、書かれてあるようにメリットのあるよくできたメカニズムですが、人を含めそれをしない動物もいるわけで、デメリットもあるはずです。
例えば敵に狙われやすいということでしょうか。
冬眠中の熊を狙う狩猟者もいるそうです。
むしろ冬眠なしで冬を越せるならその方が良い、という見方もできるような気がします。
体毛も冬を越すことを考えたらあった方がいいですが、汗で調節しながら長距離を走り狩りの成功率が上がる(?)などのメリットがあり且つ服を着て寒さを凌ぐことが出来るようになった為に、人は体毛を失ったのかもしれません。
ハダカデバネズミという珍しい毛のないネズミの生態も興味深いです。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
御指摘のように、冬眠のデメリットも確かにありますね。
生物が自然環境の変化に合わせて進化の過程で獲得した能力が、必ずしも善ではないという事は肝に銘じておく必要がありますね。
ヒトが体毛を失った理由も考えてみると興味深いですね。しかも部位によって失う箇所とそうでない箇所がある事にははたしてどういう意味があるのでしょうか。動物の世界には私たちの知らない話がまだまだいろいろと隠されていそうです。
No title
一般に緯度が高い地域の方が夏場の日照時間が長く、餌となる植物が多く動物にもありがたいのですね。渡り鳥たちは冬眠の代わりに避寒地までの移動を選んだわけです。
ご先祖様たちも半冬眠のようなかたちで洞窟のような場所で厳しい寒さを凌いだのでしょう。十年ほど前でしたか秋の六甲山で遭難した方が一ヶ月ほどほぼ何も食べないで、生還したことがありましたね。
糖質制限で腸内フローラが激変
本日、池上彰さんの番組で腸内フローラのことが放送されていました。
その中で、糖質制限ダイエットを1ヶ月行うと腸内フローラがどのように変化するかを調べていました。
結果は、激変です。
腸内細菌の専門の方も、こんなに短期間に腸内フローラが激変したことに驚いていました。また、糖質制限で激変した腸内フローラが、健康にどのような影響を与えるのかはわからないと述べていました。
番組に出演されていた腸内細菌の専門の方は、割と中立的な立場のようで、悪玉菌と呼ばれている細菌でも、体に必要な働きをしているものもいると述べていました。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
糖質制限の安全性を考える発想のヒントも古代人類の食生活にあるように、自然から学べる事は大いにありますね。
細かい科学的な分析も結構ですが、木だけを見ず森も見る視点を忘れないでいたいと思います。
Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
情報を頂き有難うございます。
> 糖質制限ダイエットを1ヶ月行うと腸内フローラがどのように変化するかを調べていました。
> 結果は、激変です。
そうでしたか。それは意外でした。
腸内細菌の数は変われど、組成はなかなか変わらないというのが定説でしたが、糖質制限ほど食事をガラッと変えればその限りではないということなのでしょうか。
そうすると糖質制限でスムーズに標準体重まで行く人と途中で留まる人との違いはどこにあるのか、さらに考えるべきことがありそうです。
Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
>腸内細菌の数は変われど、組成はなかなか変わらないというのが定説でしたが、糖質制限ほど食事をガラッと変えればその限りではないということなのでしょうか。
糖質制限前と制限後の2種類の色分けされたグラフが紹介されていました。
腸内細菌の種類ごとに色分けされていて、糖質制限後では明らかに腸内細菌の種類の比率が変化していました。
糖質制限前には2番目に多い勢力を誇っていた細菌群が、制限後ではほとんどいなくなっていましたよ。そして、制限前に1番多かった細菌群がさらに増加していました。
糖質制限で腸内フローラが激変
糖質制限前に多かったのはバクテロイデスでした。
良く言われる肥満に多い腸内細菌です。
そして糖質制限(ダイエット)後に増えたのはプレボテラでした。
これは同番組の前コーナーで調査していた完全ビーガンのインド人の腸内細菌でも最多であった細菌です。
被験者の方は1か月で9kg近く減量していたので、たんぱく質とカロリーを制限し、食物繊維多目の糖質制限だったのではないかと思います。
それにしても最多でかつ2割ほど?占めていたバクテロイデスがグラフでは消えてしまった?ようで、驚きと同時にやはりそうだったのかとの思いが大きかったです。
Re: Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
コメント頂き有難うございます。
> 糖質制限前には2番目に多い勢力を誇っていた細菌群が、制限後ではほとんどいなくなっていましたよ。そして、制限前に1番多かった細菌群がさらに増加していました。
劇的な変わりようですね。大変勉強になります。
Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
コメント頂き有難うございます。
糖質制限でバクテロイデスが消える人が、いわゆる糖質制限で標準体重になる人に当たるのでしょうかね。
おそらく全員が全員そうなるわけではないのでしょうけれど、一つ参考となる知見ですね。
糖質制限で腸内フローラが激変
こちらにTVの放映内容が詳しく纏められています。
『腸内フローラ!ダイエットやヨーグルトの選び方【テレビ未来遺産 池上彰】』
http://www.gr8lodges.com/2062.html
ただし、糖質制限で激減した細菌をプレボテラと記述されていますが、脂質を食べると増える菌とコメントされていることからもバクテロイデスの間違い(誤記)と思います。
厳しく糖質を制限したことで腸内フローラは激変したわけですが、この状態で痩せ菌が増えるような何かが出来れば壁を乗り越えられるのかもしれませんね。
高濃度ビフィズス菌、試してみようかな。
http://www.bifix.jp/1000/bifix.html
Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
情報を頂き有難うございます。是非とも視聴したいと思います。
いわゆるやせ菌を増やすのに何かを加えるのは「プラスの発想」ですが、経験的に私はうまくいかない事が多いです。
一方で糖質制限をはじめ「マイナスの発想」に私は大きな可能性を感じています。もちろん個人差はあるでしょうけれど。
手記が出版されました。
Re: タイトルなし
> 手記が出版されました。
そのようですね。
ひとまずは無事でいて何よりでした。
内容はまたじっくりと読ませて頂きたいと思います。
糖質制限で腸内フローラが激変
何度もすみません。間違いがあり訂正させて下さい。
糖質制限で増えた腸内細菌はバクテロイデスでした。
そして減ったのがプレボテラでした。
バクテロイデスは脂質摂取で増え、プレポデラは炭水化物で増える、その通りの結果でありました。
重ね重ねお詫び申し上げます。
Re: 糖質制限で腸内フローラが激変
> 糖質制限で増えた腸内細菌はバクテロイデスでした。
> そして減ったのがプレボテラでした。
> バクテロイデスは脂質摂取で増え、プレポデラは炭水化物で増える、その通りの結果でありました。
情報を修正して頂き有難うございます。
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