薬に頼る国民性
2013/10/24 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:8件
「医食同源」という言葉があります.
病気の予防・治療において一番基本は食事であるというのは今までも承知していたつもりでしたが,
糖質制限の考え方を知って,より一層その重要性を感じています.
一方で,ご高齢の方を中心に診療に当たっていると,
みなさん薬にすごく頼っておられる様子がみてとれます.
例えば,先日の「そんな事よりも早く薬を出してください」という言葉にはその気持ちが現れていると思います.
しかし,そういう考え方の裏に隠れて,食事の重要性がないがしろになっていないでしょうか. 血圧の薬を例にとりましょう.まず健診などで高血圧を指摘されたとします.
それから病院を受診勧められて医者のところへ行ってみると,まずは少なくとも3か月は食事・運動療法で改善を目指すように指導されます(この時の食事指導はカロリー制限指導です).
しかし,多くの場合それでは改善せず,3か月後に「それでは血圧を下げる薬を飲みましょう」となります.
ここから先は基本的にずっと血圧を下げる薬を飲み続けることになります.
というのは,薬は血圧が上がる根本的な原因に対して何もしていないので,薬が効いていても薬をやめたらまた血圧が上がってしまうからです.
ここで「薬を飲んでいれば大丈夫」という薬への依存心があれば,根本的な食事の問題に目がいかなくなっていくのです.
血圧を下げる食事ということでは減塩が真っ先に頭に浮かぶと思いますが,
それだけを考えて糖質の問題に切り込んでいなければ,多くの場合血圧のコントロールはうまくいきません.
例えば,肥満や隠れ肥満による内臓脂肪の蓄積が血圧を上昇させるホルモン(アンジオテンシノーゲン)を出す,というメカニズムもあるのです.
現に糖質制限を続けていくことで,難治の高血圧が改善していくということも少なからず報告されてきています.
この点を放置していると,症状はじりじりと悪くなり,一つまた二つと薬が増えていきます.
そして西洋医学はいわば「足し算」の医学です.調子の悪いところの数に応じて足し算的に薬を加えていきます.
血圧を下げるために降圧剤,コレステロールを下げるためにスタチン,胃の調子が悪ければ胃薬,めまいがすれば抗めまい薬,じんましんがあれば抗アレルギー薬,吐き気があれば吐き気止め,といった具合です.
しかし,薬には相互作用というものもあれば,薬が蓄積されていけばいくほど副作用のリスクも高まっていきます.
こういう御高齢の患者さんは本当にものすごく多いです.しかし,どんどん薬が増えていっているにもかかわらず,不思議なことにこの状況に対して誰ひとりとして文句を言いません.なぜでしょうか?
みなさん「薬を飲んでいれば大丈夫」と思っているからです.
体調が悪くなればお薬を,という発想はあれど,体調が悪くなれば食事の見直しを,という発想はあまりないと思います.
こうした国民全体にいつの間にか植えつけられている薬への絶対的な安心感,依存心が病気から抜け出せない状況を作り出しているのではないかと私は感じています.
ただ私は漢方にも興味を持っている医者ですが,東洋医学の発想は少し違います.
人間の一番体調のよいニュートラルな状態のことを「中庸(ちゅうよう)」と呼びます.
言ってみれば,数学で出てくる座標軸(X軸,Y軸,Z軸)の原点が中庸です.一番安定した状態です.恒常性(ホメオスターシス)を保っている状態,とも言い換えることができます.
そして,この原点から何かしら外れた状態のことを病気とします.
漢方の考え方は足し算的にいろいろな薬を足すのではなく,数ある漢方薬の中から外れた点を原点に戻すベクトルを持つ薬を一つだけ選ぶというのが基本的な考え方です.
副作用や相互作用のことを考えると,西洋医学的な発想よりはよほど体にやさしい発想です.
しかも漢方薬の構成成分として含まれる生薬の中には人参とか銀杏とかショウガとか食べものそのものも一部に含まれていたりします.
言い換えれば漢方薬は「食事に近い薬」とも言えます.
とは言えやはり薬は薬,副作用がないわけではありません.
医者の私が言うのも変だと思われるかもしれませんが,私自身は薬にはできるだけ頼りたくありません.
何よりも大事なのは食事,基本は食事,薬よりも食事,私はそう考えています.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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薬はなるべく飲まない方が良い
種類も量も多いと、どの薬がどう体に効いているのか、あるいは悪い副作用が出ているのか判りませんよネ!
薬は、減量・減数そして、極力飲まないように・・・・
Re: 薬はなるべく飲まない方が良い
いつもコメント頂き有難うございます。
> 薬は、減量・減数そして、極力飲まないように・・・・
その通りと思います。
私は糖質制限を知るまでは、
食事療法が大事と言いながら、食事にこれほどまでに大きな効果があるとは正直思っていませんでした。
それに食事療法がきちんとできるのは意志の強い限られた人だけだと思っていましたが、糖質の中毒性を考えればそうではなかったという事がわかります。
今なら心から言えます。「食事が大事だ」と。
No title
糖質制限は食費にお金がかかるという人もいますが、医療費を考えたら決してそんなことはないなと最近思います。
我々の職場でもしばしば問題になるんですが、一度決めたルールをやめる、作業を減らしていくというのは責任問題が絡むので嫌がりがちなんですね。本来なら定期的にコストや安全性など見直して最善の手段を模索し続けることこそ大事なのに。
えらそうに書いてますが、若禿げに悩んでいた十年前の自分は皮脂をとるシャンプーを理容師に勧められるまま熱心に使ってました。客観性ってのは大事ですね。
No title
初めて投稿させていただきます。
本屋さんで立ち読みして、その本は「おやじダイエット部」でした、
そのくらいなら俺でも出来そうと思い、帰って女房に相談したら、一つ返事で、
「じゃやってみたら」
それから、江部先生の本を何冊か、それ以外にも数冊、それに毎日欠かさず
目を通す江部先生、カルビンチョ先生らのブログ・・・・・・・
来月で糖質制限を始めて1年になります。
身長173cmで最大75kgあった体重が65㎏まで落ちました。
半年前の検診のデータしかありませんが、
中性脂肪 101 → 49
γGTP 56 → 23
などの改善がみられました。
30年も付き合っている高血圧だけはいまだに改善しませんが、
糖質制限を続けていきます。
前まではかかりつけの医院で出される薬を盲目的に飲んでいましたが、
糖質制限を知ってからはずいぶん本やブログで知識が付き、
現在の医療を疑うようになりました。
メタボが改善し、血液検査でも良い方向に、体調も万全にと良いことづくめです。
この歳(62歳)になって、自分にとって健康の革命です。 人生の革命です。
主食が食べられないなんて何の問題もありません。
もっともっと美味しいものが他にたくさんあります。
肉・魚は美味しいし、チーズも美味しい、以前はカロリー神話を信じていたので
避けていた肉の脂身なども残すことなくいただいております。
巷で言う「ヘルシーな食事」とはいったい何のことだったのでしょうか。
もうお米のご飯などに戻ることはありません。
糖質の中毒性も自分の体をもって自覚をしております。
今では宴会で仕方なく飲まされるビールの甘さにも敏感になりました。
たがしゅう先生がブログを始められてから、毎日欠かさず見させてもらって
います。
お医者さんとしての視点で語られることは、たいへん参考に
また勇気づけられます。
先生の上から目線でないお話を楽しみにしておりますので無理しないで、
このブログをお続けください。
Re: No title
いつもコメントを頂き有難うございます.
> 糖質制限は食費にお金がかかるという人もいますが、医療費を考えたら決してそんなことはないなと最近思います。
同感です.
薬をずっと飲み続けるということはその分医療費がかかります.病気が防げず入院したらまた医療費がかかりますし,大きな病気ともなればなおさらです.
長い目で見れば糖質制限食材にお金をかける方がよほどコストパフォーマンスがよいはずです.
> 一度決めたルールをやめる、作業を減らしていくというのは責任問題が絡むので嫌がりがちなんですね。本来なら定期的にコストや安全性など見直して最善の手段を模索し続けることこそ大事なのに。
これも同感です.
私はこれまで小さな病院から大きな病院までいろいろなところでの勤務を経験してきましたが,
大きな組織になればなるほどルールを変えることに抵抗します.その結果,従来の慣習で行われていることがいつまでもまかり通ってしまうのだと思います.
Re: No title
非常に丁寧なコメントを頂き誠に有難うございます.また毎日見て頂いて本当に有難いです.
> そのくらいなら俺でも出来そうと思い、帰って女房に相談したら、一つ返事で、
> 「じゃやってみたら」
奥さんの柔軟な姿勢,素敵ですね.
データの改善も素晴らしいです.
> 30年も付き合っている高血圧だけはいまだに改善しませんが、
> 糖質制限を続けていきます。
長年の持病は一朝一夕には改善しないと思います.でも着実に良い方向には向かっているのではないかと思います.
> 先生の上から目線でないお話を楽しみにしておりますので無理しないで、
> このブログをお続けください。
応援のお言葉を頂き有難うございます.
そのような言葉をいろいろな方々からかけて頂き,おかげさまで私は今非常にやりがいを感じています.
最初は私のような未熟者が情報発信をするなんて,おこがましいし時期尚早だとも悩んでいたりしたのですが,
私の目線でしか見えないこともあるのではないかと考え,思い切ってやってみようと思いました.
今は勇気を出して一歩踏み出してみて本当に良かったと思っています.
今後とも応援宜しくお願い申し上げます.
薬で思いだしたこと
「薬」で思い出しました。
以前、ネットをほっつき歩いている間に読んだ書き込みが記憶に残っています。それは、
『ある製薬会社が、長年その会社の薬(確か糖尿病の薬)を飲み続けている患者を表彰した』
といものです。そこまでやるか!と驚くと同時に呆れました。
また、テレビで時々みかける、清野裕医師は、製薬会社から表彰されていますね。http://dr-guide.net/www/%E6%B8%85%E9%87%8E%E8%A3%95/
製薬会社は、一生薬を消費し続ける、つまり患者を作り続ける治療を行う医師を表彰する。もう一方では、そんな医師を信じて疑わず(自分の頭で考えず)、指示されるままに薬を飲み続ける患者を表彰する、という両面作戦を成功させている訳ですね。
日本糖尿病学会のホームページ最下段に張り付いた製薬会社5社へのリンクがその辺の関係を如実に物語っていると思います(他の学会をいくつか覗いてみましたがなかったですね)。http://www.jds.or.jp/
夏井先生が『炭水化物が人類を滅ぼす』の100ページ以降で言われているはこの様なことだと思っています。
Re: 薬で思いだしたこと
いつもコメントを頂き有難うございます。
まさに「薬に依存する国民性」を如実に現した話ですね。
先日もとある神経変性疾患の人に糖質制限を勧めましたが、自らの食生活の改善には全く目を向けず、早くiPS細胞を使えるようにしてくれ、と形は違えどこちらも薬への依存を示しておりました。
根深い問題です。
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