代謝の急ハンドルを切ってはいけない
2015/12/17 19:00:01 |
おすすめ本 |
コメント:13件
「不食」というのはちょっと前までは、
知る人ぞ知るというマニアックな情報だったと思いますが、
2015年6月、一人の有名人が30日間の不食を完遂したというニュースが話題になりました。
俳優の榎木孝明さんです。
榎木さんは、その時の様子を記した記録を一冊の本にまとめ、
私達にひとつの新しい食との向き合い方を提示されています。
30日間、食べることやめてみました (「不食」という名の旅・不食30日間 全記録DVD付き!) 単行本(ソフトカバー) – 2015/10/14
榎木 孝明 (著), 南淵 明宏 (監修) 30日間、まったく何も食べないという経験をした事がある人はそうはいないと思いますので、
この本は見る人が見れば宝の宝庫です。
例えば、榎木さんの体重は30日間で80.5kgから70.9kgと約10kg減っていますが、
最初の10日で-5kg、次の10日間で-2.7kg、最後の10日間で-1.9kgというふうに減量の幅が小さくなってきています。
これはオートファジーが活性化している証拠と思います。
それから不食12日目の記録を読みますと、次のように書かれています。
(p49より引用)
7時10分起床。
体がらくなときとしんどいときが、大きな波のように交互に訪れる。
私の中に新たな機構が目覚めようとしている葛藤や胎動か。
すべては新しい変化のための過程として受け入れたいと思う。
午前中は不調。しんどくて動く気になれなかった。
午後になると、調子がよくなったので、散歩に。
今日は日差しが強かったが、光が自分の身体に心地よく感じられる。
太陽からエネルギーをいただいている感覚だ。
(引用、ここまで)
食事からエネルギーを調達できない状況下で、
身体が適応しようと奮闘している様子が伝わってきますが、
そのような状況において、光を介して我々が認識できていない何らかのメカニズムを介して、
エネルギーを確保する手段を得ている可能性が見えてきます。
それから不食期間中は病院の一室を借りて、
医師の監督の下に、医学的なアドバイスを受けつつ実践されたそうですが、
担当医から勧められて、試しにビタミン剤を飲んだ所、気分が悪くなってしまいそれ以降は飲まなかったというエピソードが紹介されていました。
これなどはビタミン剤というものの本質を表しているように私には思えます。
このように非常に興味深い30日間の不食体験ですが、
本の冒頭で、不食をすることで栄養失調による体調不良になる可能性についても言及し、
そういったリスクを承知した上で自分の心と体に何が起こるのかを知るための試みであり、
読者に不食を勧めるものではないと明言されています。
かく言う私も不食を積極的に勧める事はしません。
不食にチャレンジするためにはそれなりの準備というものが必要だからです。
不食と断食は「食べないことを基本におく」か「食べることを基本におく」かの違いこそあれ、
実際に行っている行為としては同じ「食べない」という行為になると思いますが、
それに対して「食べる」という行為には実に様々な種類があります。
・一般的な食事
・カロリー制限食
・地中海食
・低グリセミック指数食
・スーパー糖質制限食
・修正アトキンス食
・古典的ケトン食
だいたいこの順番で「高糖質・低ケトン」→「低糖質・高ケトン」という形になります。
つまり上の食事になればなるほど糖質代謝を使う割合が多くて、
下の食事になればなるほどケトン代謝を使う割合が多いということです。
そして不食・断食は最高のケトン代謝状態とみる事ができます。
という事は一般の食事をしている人がいきなり不食や断食に挑むという事は、
究極の糖質代謝から究極のケトン代謝へと急ハンドルを切ることを意味します。これは大変危険な行為です。
どういう意味で危険かというと、まず糖質代謝依存度が高い人は、
ケトン代謝に急ハンドルを切ると糖質が切れる事による離脱症状にさいなまれる可能性が高いです。
糖質には、ニコチンやアルコール、覚醒剤などと本質的には同様の依存性がありますので、
それらを断つ時に生じる離脱症状と同様のものが生じ得ます。頭痛、嘔吐、動悸、痙攣など、これはなかなか耐え難い症状です。
もう一つは急ハンドルを切るとケトン体をエネルギーとして使う事に慣れていないままケトン体が急激に上昇してしまうと、
ケトン体が使えず溜まる一方となり、ケトン体の持つ酸性の性質が仇となり一過性のアシドーシスをきたし得ます。
これはスイーツ好きの女子が極端なカロリー制限で体調を崩すといったケースや、
下準備なしにいきなり断食に取り組んで、頭痛・嘔吐などのトラブルをきたすケースがこれにあたります。
ただ、断食前に何を食べていたかについては個人差があると思います。
例えば、糖質まみれの人がいきなり断食するとトラブルになるでしょうが、
もともと野菜多めの玄米菜食の人であればまあまあ低糖質でケトンも使っている状況かと思いますので、
いきなり断食してもあまりトラブルは起こらない事が予想されます。昔から伝えられる断食の成功者はそういう人が多いのではないかというのが私の推論です。
実は榎木さんも、おそらく意識はされていなかったでしょうけれど、不食のトラブルを減らすための、即ちケトン代謝に慣らす下準備をなさっています。
本の冒頭で榎木さんがなぜ不食をしようと思うに至ったかを紹介される中で、
榎木さんが20代の頃からチベットを中心としたアジア地域へ、
特に下調べをせずに行きと帰りの飛行機のチケットだけ取って、後は現地を一ヶ月間くらいバックパッカー的に旅をするという事を数十回繰り返してこられたそうです。
時には山に入って泊まるところがなくて、運が悪ければ食事にありつけない事もしばしばあったそうですが、
そんな時榎木さんは「食べられなければ食べられないでまあいいか」と思い、そのまま食べずに過ごすのだそうです。
そんな事を繰り返す中で、食べなくても体力が落ちるということがないと実体験し、
それどころか健康体になっていくので不食というものに興味を持った、というのが榎木さんの弁です。
即ち間欠的断食というケトン代謝に慣らすという下準備を繰り返していたからこそなしえた30日間の不食だったのではないかと私は思うわけです。
これは今後少食や断食、不食に取り組もうという人にとってのみならず、
糖質制限にまつわるトラブルを減らす目的においても役に立つ、
非常に貴重で価値のある体験談ではないかと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
私も、とにかく最短コースで痩せたくて、何度も絶食や断食に挑戦しましたが、1日半ほどで、フラフラになり力がわかず、もう無理!!となり、糖質を過食し絶食前より体重が増える…そして激しく後悔し落ち込み、また明日から絶食しよう…という最悪のループを繰り返していました。
重度の糖質中毒のまま、脱糖質中毒+ダイエットをやろうとしていたので、上手く行かない、と最近になってやっと理解できました。
(なぜもっと早く気付かなかったのか…
今度こそはできる!となぜか思ってしまうのです。
人は「明日の自分」を過大評価しがちなのかもしれません。。)
まずは、体重が増えようが、とにかく糖質中毒から抜け出すことが最初の大きな一歩ですね。
急がば回れ。
ケント体代謝になれば、長期の絶食も苦にならずに続けられるのか⁈
私にはまだ未知の世界ですが
いつかその境地に達してみたいです。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
糖質食のまま断食に一足飛びで移行するのは危険行為ですが、
糖質制限から断食へ移行するのはあまり負担がかからず、実践もしやすいように思います。
これから断食をされるという方には是非ともその事を知っておいてもらいたいです。
仙人のような
以前、「オーラの泉」に榎木さんが出演されたとき、カスミを食べて世界中を飛び回る仙人のような、スピルチュアルなオーラ全開でした。とても精神性の高い人だと思いました。
美輪さんや江原さんにも、同類の仲間だと親近感を持たれていました。
だから、榎木さんが長期の断食をしたとの報道を聞いたとき、榎木さんならやれるのだろうと納得する気がしました。
断食とスピルチュアルとは、関係ないですか。
Re: 仙人のような
コメント頂き有難うございます。
> 断食とスピルチュアルとは、関係ないですか。
おそらく関係あると思います。
私はまだその境地に達した事はありませんが、断食による高ケトン状態は精神を研ぎ澄ます可能性を持っています。
一説には釈迦が悟りを開いた時も断食による高められた精神状態が関係していたのではないかとも言われているようです。真偽のほどは定かではありませんが。
未知なことですね。
やっぱり関係ありますか。
ケトン体だけじゃなくて、飢餓状態に適応しようと脳内麻薬が出たり、内分泌系が大混乱起こしてるのじゃないかと想像してしまいました。
太陽からエネルギーをいただいていると自分に言われたら、感覚的にはわかるけど、「植物か!」とのりツッコミをして、「神の声が聞こえた」と言われるんじゃないかと心配しそうです。
未知領域ですね。
Re: 未知なことですね。
コメント頂き有難うございます。
「動物は光合成できない」→「動物は光をエネルギーにできない」などいうのは一種の思い込みであるように私には思えます。
光をエネルギーにできるのは体感的にも良く知る所ですし、まだ科学で解明されていない何らかのメカニズムが存在するのではないかと私は考えています。
最近ではオプトジェネティクスという光で遺伝子を操作する分野も開拓されてきています。この未知領域、引き続き興味を持って学び続けていこうと思っています。
未来に期待
10年前までは、糖質制限なんてナンノコッチャだったことを思うと、この先もすごい発見はありでしょう。そんな未来に期待大!!
ありがとうございました。
はじめてみました
40代後半の男で身長は170㎝くらいです。
20歳辺りから体重が増加し続け5年前には140㎏に到達し、
hba1cが悪化したところで、運よく糖質制限に出会いました。
2年位で体重は97㎏まで減量、hba1cも標準値に下がりました。
減量中にジョギングを始め、体重が110㎏位だった2011年秋から
フルマラソンに出始めて、ゆっくり走りながら7回完走をしてます。
ジョギングはゆっくりのペースで毎月30㎞~50㎞ほどを走っており、
糖質制限を継続してましたが、体重は105㎏~110㎏辺りに増加です。
増加原因は食事量の増加や衣を食べないようにしてますが揚げ物を
食べるようになったことやヨーグルトやクリームチーズの取り過ぎと
思っておりました。
でもそれだけでは無いのかもしれないと先生のブログを拝見するように
なって思いました。
そんな中先日は、榎木孝明さんの本をご紹介され、読み終わった今週の
月曜のお昼を食べてからふと私も食べることやめてみました。
糖質制限をしていたからか、お腹はたまに鳴りますが、空腹感、食欲は
なしです。不思議です。禁煙の時もたばこを吸いつつ本を読んで、
読み終わりから禁煙を始めたので単純なのかもしれません(笑)
日中は事務系の仕事をして、夜はジムで月、火、水、金と6㎞走りましたが、
自覚する体調に変化はなく、土曜の夜ですが不食を継続中です。
気づいた点は小水の色が濃くなったかなと血圧が60台の110台のやや低めな
時がある位でしょうか。私の場合は、お茶、コーヒーに加えてガムを噛んで
おります。だから軽い糖質は採ってますね。
ふと始めたことなので、無理するつもりはなく、この後ジムで走って、
帰りしなに食べることもあるかもしれません。それくらいの心つもりです。
こちらの記事がきっかけでしたので、いろいろと書いてしまいすみません。
スルーで全然構いません。失礼いたします。
まで増加
Re: はじめてみました
コメント頂き有難うございます。
高度肥満からの脱却からフルマラソンへの挑戦まで、素晴らしいですね。
その後糖質制限を続けていても体重が下がりきらない経過と併せ、私と体質が似ていると思います。
身体は嘘をつかないので、実際に起こっている現象を元にいろいろと考える次第です。少しでも何かの参考になれば嬉しいですし、今後も引き続き考え続けていこうと思います。宜しくお願い申し上げます。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
無事に見つかってよかったですね。
報道によれば水は飲める状況だったようですので、食の事だけで言えばこどもとはいえ、蓄積脂肪を利用してまだまだ生存できる余地はあったのではないかと個人的には思います。
ただ折檻のストレスに加え、この先いつまで食べられない状況が続くのかわからないという不安は相当なものがあったと想像します。精神的ストレスも生存に不利に働きますから、総合的に考えるとやはり危ない状況だったと思います。
No title
と同時に発見された自衛隊の方の対応に少しびっくりしました。
6日間も水だけの断食状態の子に、いくら立ってて元気そうだったからと言って、おにぎり2個も一気に食べさせて良いものかと。。。
明らかに腸は弱り、腸内細菌叢は乱れ、体も飢餓モードの中、一気に舵切りする分けで、良く何事もなかったなと。。。
それと心配なのは、これからこの子は糖質三昧な生活を送ってしまい、今回の2kg減以上のリバウンドから将来の肥満に繋がってしまわないかと。。。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
件の子が6日ぶりにおにぎり2個を急に食べても問題なかったのは、小さなお子さんがゆえに糖質過剰の歴史がまだ浅いから、ケトン代謝が廃れ切ってはいなかったからかもしれません。
勿論個人差、体質差も大きく関わる問題だとは思います。
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