「眠気のメカニズム」熟考
2015/11/22 12:40:01 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:2件
先日、当ブログを読んで下さっている読者の方から、
「食後の眠気のメカニズム」について御質問を頂きました。
この問題は結構複雑で、私もまだ完全に把握しきれているわけではないのですが、
いい機会なので、今わかっている範囲でこの問題についてまとめてみたいと思います。
まず糖質制限をするとその直後から食後の眠気が改善しますので、
血糖値の変動が食後の眠気と関係していそうな事は容易に想像がつくと思います。
ですが、眠気に直接関連しているのは覚醒と食欲に関わるホルモンである「オレキシン」と「レプチン」だと言われています。 空腹になり血糖値が低下すると,食欲をもたらすオレキシンが脳から分泌されます。
オレキシンの増加は食欲とともに覚醒をもたらします。
ところで1日1食生活を経験すると実感するのですが、
私は1日1食をどこで食べるかを考えた時に試行錯誤の上、夜に食べる方がやりやすいという所に落ち着きました。
なぜならば、夜の食事を食べないでいるとその後がなんとなく眠りにくいと感じるからです。
この時実はオレキシンは増加していてヒトを眠りにくくしている事が考えられます。
そうしてオレキシンが高まっている時に、食事をして血糖値が上がると、今度は脂肪細胞からレプチンが分泌されます。
レプチンは食欲抑制作用とともにオレキシンを抑制する働きを持っているので、
食べる事で食欲が収まると同時に眠たくなってくるというわけです。
このオレキシンを抑制する事で眠気をもたらす作用は、新しい睡眠薬である「オレキシン受容体拮抗薬」として臨床でも応用されています。
これで血糖値をほとんど上げない糖質制限食であれば食後眠たくならなくなる理由は説明できるのではないかと思います。
しかしそれならば、先ほどの1日1食で夜食べる場合も、
糖質制限食にしていれば食後眠たくならず、結局夜が眠りにくいのではないかと思われるかもしれませんが、
実際にはそうではありません。私も今ほとんど1日1食生活ですが糖質制限夜食を食べるのと食べないのでは眠りやすさが、結構違います。
なぜならばレプチンの分泌刺激となるのは、血糖値上昇そのものではなく、「摂食」と「インスリン分泌」だからです。
たとえ糖質制限食であっても、「摂食」行動ですし、タンパク質を摂取していればグルカゴンとインスリンの同時刺激となるので、
糖質摂取時ほど顕著ではないにしても、多少の高インスリン血症をもたらします。
よって糖質制限食でも多少は食後の眠気が誘導されるというわけです。
それならば断食をし続けていれば、
「摂食」も「インスリン分泌」もないわけだから、半永久的に眠たくならないのかという別の疑問を生じますが、
これも断食を実際にやってみればわかりますが、多少夜が寝にくくなるものの、やっぱり最後は夜に眠たくなって寝てしまいます。
これにはもう一つのメカニズム、体内時計の存在が深く関わっています。
体内時計の調節を担う物質として中心的なのはメラトニンという神経伝達物質です。
もともとメラトニンは日中に少なく、夜間に多く分泌されるリズムがあり、メラトニンが増加する事で夜に睡眠が促され身体を休ませるように働きます。
その体内時計を調節しているのが脳の視床下部の一部である視交叉上核という部分です。
視交叉上核は眼の奥すぐ近くに位置するので光の刺激を感知します。
光を浴びると、その光のシグナルが視交叉上核に伝わり、
さらにその刺激が松果体という場所に伝わりメラトニンの放出する反応を抑制します。
日中に光をよく浴びていれば、無駄なメラトニン分泌が避けられ、夜になってしっかりメラトニンが分泌される事でよく眠れるというわけです。
このメカニズムを利用した新しい睡眠薬がメラトニン受容体作動薬という薬です。従来の睡眠薬に比べて依存性が少ないと言われていますが、そのかわり効果も弱いとも言われています。
そしてメラトニンはセロトニンから変換され、そのセロトニンは遡ればタンパク質を原材料としています。
さらに断食をしていれば自己蛋白消化再利用システムのオートファジーが活性化します。
ですから断食を続けていても、光を浴びオートファジーでメラトニンを合成している限り、夜にはやっぱり眠たくなっていくというわけです。
以上が現時点で私が把握している内容です。
ですが以前にも書きましたがオレキシンが発見されたのはつい最近の話です。
まだまだ私達が把握しきれていない未知のメカニズムが存在する可能性は否定できません。
これで人体のメカニズムをまるですべて把握したかのように思い込むのが科学の悪いクセです。
私達はメカニズムの一端を捕らえたにすぎないと謙虚に受けとめ、
事実をベースに引き続き考察を続けていく姿勢が大事と思います。
※今回の記事作成には以下のサイトを参考にさせて頂きました。
Neurology 興味を持った「神経内科」論文
「どうして春になると眠くなるの?」
http://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/d7d7a53cf11b165a8528f54c86b0aff9
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
私も悩みました
仕事中に眠くなる
朝起きるのが辛い
1日8時間寝ても寝たりない
などなどです。
糖質制限でかなり改善はされたんですが、完全には解消されませんでした。
色々やってみて最近は調子が良いみたいなんですが、いま思うとやはり時差ボケになっていたのかなぁ?と思っています。
時差ボケで夜に熟睡出来ていなかったので仕事中眠かった…。
単純ですけど真犯人はこれかなぁ?
時差ボケが改善すると睡眠時間が少なくても眠くなりませんね。
結果、食後も眠くなりません。
自分の感覚なんですが・・・
眠気とは逆に「寝ようと思っても絶対に眠れないギンギンに目が覚めているポイント」があると思うのですが、これを手前に引っ張ってきた感じですね。
私の場合はギンギンポイントが夜の8時頃だったのですが、昼間に持ってくるような感じです。
コーヒーを飲んだり、運動をするのをなるべく昼に持ってくる感じですね。
まあ、もう少し様子見ですが・・・。
Re: 私も悩みました
コメント頂き有難うございます。
メラトニン不足が示唆されるエピソードですね。
糖質制限でメラトニンの材料であるタンパク質などが十分に使える状況であっても時差ボケ感がよくならないのなら、それは光の浴び方に問題があるのかもしれません。
日中光を浴びて、夜暗くして寝ると単純に言っても電気の発達した現代社会においてそれは意外と「言うは易し、行うは難し」であるように思います。
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