ミトコンドリア病から見えること

2015/10/13 23:10:01 | ふと思った事 | コメント:5件

ミトコンドリア病と呼ばれる病気があります。

厚生労働省の定める難病にも指定されている疾患で、別名を「ミトコンドリア脳筋症」といいます。

その名の通り、脳と筋肉が障害されやすいのですが、

実際にはひとくちにミトコンドリア病といっても、遺伝子の異常パターンによって現れる症状は様々で、

痙攣、筋力低下、心電図異常、眼症状、肝機能障害、腎機能障害、糖尿病、鉄欠乏性貧血、難聴、下痢、便秘、発汗低下、多毛、低身長、低カルシウム血症など、実に多彩な症状を呈します。

逆にその事は生命におけるミトコンドリアの重要性を物語っているように私には思えます。

さて、糖質制限を学んでいるとしばしば登場する「ケトン体」、これがどこで作られているか皆さんは御存知でしょうか。

実はこれは肝臓の細胞内のミトコンドリアで作られています。

従って、ミトコンドリア病においては基本的にケトン体が不足している状況を想像する事ができます。 実際、いくらかのミトコンドリア病に対しては実際に高脂肪食(ケトン食)が応用されていたりします。

一方でケトン体を利用するのもまたミトコンドリアなので、すべてのミトコンドリア病にケトン食が有効というわけにも行かないようです。

このようにミトコンドリアが健康である事は、糖質制限の有効性に際し非常に重要な要素となっている事がわかります。


ところで、なぜミトコンドリア病では脳と筋肉が障害されやすいのかと言いますと、

脳と筋肉は他の臓器と比べてエネルギー需要が高いからだと言われています。

ここで私はふっと思いつきました。それはスタチンによる横紋筋融解症の副作用の事です。

スタチンの作用機序を調べてみますと、HMG-CoA還元酵素の働きを阻害するとなっていますが、

体内に吸収されたスタチンは、主に肝臓に分布するとも書かれています。すなわちスタチンはケトン体産生の総本山に対して作用する薬なのです。

以前参加した糖質制限医療推進協会の講演会で、日本脂質栄養学会の大櫛陽一先生は、

スタチンを内服する事でケトン体生成は抑制される」という事をおっしゃっていました。

ただこの場所以外で「スタチンはケトン体を抑制する」と明記している資料を見つけ出す事はできませんでしたが、

糖尿病患者においてスタチン使用でケトン体が減少する事を実証している研究報告(Sato T, Oouchi M, Nagakubo H et al. Tohoku J Exp Med. 185(1):25-9, 1998.)がありますし、

スタチンが糖尿病リスクを上げる
という事から考えても、血糖値と逆の動向を呈するケトン体は、スタチンによって減少する方向にシフトすると考えるのが妥当でしょう。

ミトコンドリアの仕事はケトン体を生成する事だけでは決してありませんが、

もしも上記の内容が正しければ、スタチンはミトコンドリアの働きを少なくとも部分的に阻害している薬、言い換えれば「不完全なミトコンドリア病に仕向ける薬」とみることができるかもしれません。

スタチンで横紋筋融解症が起こる理由をHMG-CoA還元酵素の阻害で上流のアセチルCoAが上昇し、

嫌気性代謝が亢進している筋肉ではそのアセチルCoAを元に乳酸が過剰に産生され、その乳酸を処理しきれないからだと以前私は考察しましたが、

もっと単純に考えれば、「スタチンにより不完全化されたミトコンドリアによりケトン体産生が弱まり、そのあおりを受けるのが人体で最もエネルギーを消費する臓器の一つである筋肉であるから」という仮説も成立するかもしれません。

そうなるともう一つ困った問題が出てきます。もう一つのエネルギー大消費臓器である脳についてです。


一般的にはスタチンは動脈硬化性疾患の予防に対して用いられています。

動脈硬化の慣れの果てに起こる病態の一つが血管性認知症であったり、近年ではアルツハイマー認知症が脳の糖尿病だとも認識されていたりする事から、

スタチンは認知症の予防効果があるのではないかと期待されています。

しかし現実にはスタチンは世界で何億人という単位で用いられている薬ですが、

認知症は減るどころか、予想以上の急増を示しているのが現実です。

スタチンと認知症リスクを見た研究でも結果は芳しくないものが多く、

逆にスタチンによって急性の認知機能障害をきたした事を報告する論文すらあります(Evans MA, et al. Statin-associated adverse cognitive effects: survey results from 171 patients. Pharmacotherapy. 2009 Jul;29(7):800-11. doi: 10.1592/phco.29.7.800.)

もしも「スタチンがミトコンドリアを不完全化する」という見解が正しく、スタチンにより脳に十分にエネルギーが行かないミトコンドリア脳筋症のような状態が作られるのだとすれば、

スタチンで認知症を予防しようとする試みは最初から負け試合だということになるのではないでしょうか。

勿論、スタチンによって全員が横紋筋融解症が起こるわけではないのと同様に、

スタチンを使えば直ちに認知症になるという単純なものではないとは思います。ただ少なくとも脳にとってよい事はしていない事になります。

そもそもがスタチンで動脈硬化が予防できるというデータそのものを抜本的に見直さなければならない状況なわけですから、

なんとなく良さそうだからスタチンを飲み続けるのではなく、また医師は決してスタチンを惰性で出し続けるのではなく、

本当にスタチンが必要なのかどうかについて誰もが真剣に向き合わなければならないと私は思います。

そしてよく考えれば、スタチンを使わない代わりにどうすれば良いかもよく見えてくるとも思います。

とにかくミトコンドリアの邪魔をしない事、その基本はひとつ、糖質制限です。


たがしゅう
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コメント

おもしろい本がありますよ

2015/10/14(水) 21:52:42 | URL | あーちゃん47才 #-
いつもありがとうございます。

おもしろい本があります。

朝日新書の 「なんでもホルモン」 伊藤 裕 

この本が面白くて愛読しております。

この中に ミトコンドリアを元気にするのは
グレリンというホルモンを補うか

ミトコンドリアの原料となる 糖分、脂肪分、酸素を不足気味にする。

のだそうです。 糖質を摂りすぎるなということですね!

不足気味になると ミトコンドリアが危機を感じて
活発に動き出すのだそうです。

適度な空腹感が良いそうです。

私の義母も糖尿病からアルツハイマーに。
糖尿になってからは カロリーは抑えても耐えられないのか
頻回食に。ずっと口が動いてました。

これではミトコンドリアは元気になりませんね。

また、糖尿病食は 質素というか、
炭水化物ばかりです。

これからスーパー高齢化。
栄養学的に見直しがあればうれしいのですが・・

いつもおもしろい記事をありがとうございます。

Re: おもしろい本がありますよ

2015/10/14(水) 22:13:27 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
あーちゃん47才 さん

こちらこそコメント頂き有難うございます。
また本の紹介も有難うございます。是非とも読んでみたいと思います。

糖質制限と絶食を組み合わせて、どう折り合いをつけるかが今後の私的テーマになりそうです。

No title

2015/10/15(木) 00:42:39 | URL | 通行人 #pMxN6uq.
アルツハイマーの老母に、ビタミン剤の大量投与で対応しています。対応できています。以前、成分のうち、よく効くものを羅列して検索してみたところ、ミトコンドリア病がヒットしました。少し勉強したところ、ミトコンドリア病に効く(とされる)栄養素と、母に効いている栄養素が一致している事実に驚きました。

いろいろ実験して、素人なりに私が感じていることは、遺伝子レベルで欠陥があり、体内におけるビタミンの働きが悪い人が社会に一定数おり、認知症(や糖尿病等)になっている気がします。

私の周囲で親御さんや配偶者のことで悩んでおられるかたに、私が実行しているビタミン療法をお勧めしたところ、とても偶然とは思えない、かなり高い確率で感謝されます。最初の1粒で治ったという方も多数おられます。病名は多種多様で、認知症、糖尿病に限定されません。

糖質制限で完治すればいいですが、それでも治りきらない人にビタミン剤の大量投与を試す価値があります。ビタミンを多用するアプローチがもっと研究されてしかるべきと考えます。

しかし、今の保険制度では、ビタミンを用いる手法は病院経営に結びつかないので、救われる人も救われません。

Re: No title

2015/10/15(木) 07:09:00 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
通行人 さん

 コメント頂き有難うございます。

 おっしゃるようにビタミン剤が有効である場面はあると思います。ただそれは西洋医学の延長戦上にある「プラスの医学」です。

 例えば、パーキンソン病におけるレボドパ製剤の場合、初期には劇的な症状改善効果を示しますが、継続して使用していくにつれに徐々に効果が弱まっていきます。それどころかゆくゆく難治の副作用にも悩まされる事にもつながります。

 「一時的には症状を改善させても、決して治しているわけではない」、これが「プラスの医学」の本質だと思います。それはビタミン剤をはじめとした他のサプリメントや私が勉強している漢方などにも通じて言える事だと考えています。

 だからこそ「有害なものを取り除く」という「マイナスの医学」の発想が重要なのだと私は思います。

 そしてもう一つ申し上げるなら、遺伝子に欠陥があれど、後天的に遺伝子の発現パターンを変える事は可能なので、立ち向かう余地はあると私は考えています。

 2014年7月7日(月)の本ブログ記事
 「遺伝であきらめない」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-326.html
 も御参照下さい。

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2015/10/16(金) 11:06:29 | | #
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