治しにくい障害の裏にあるもの

2015/09/30 07:15:56 | 医療ニュース | コメント:0件

糖質制限をしていても治りやすい症状とそうでない症状とがあります。

食後の眠気や胃食道逆流などの問題は糖質制限開始後、速やかに改善する一方で、

私の診療経験上は、糖質制限をしっかりやっていても耳鳴り振戦などの症状はなかなかよくなりません。

広く捉えると「自律神経障害」が糖質制限で治しにくいような印象を持っています。

それはそれまでの生活で受け続けた糖質を含めた何らかの害による負の遺産なのであろうかと思っていましたが、

先日ケアネットで次のようなニュースが流れてきました。

2型糖尿病の心血管系自律神経障害に血漿レプチン値が関連
提供元:HealthDay News公開日:2015/09/29

(以下、引用)

2型糖尿病や肥満患者では、血漿レプチン高値が心血管系自律神経障害の予測因子となる可能性が、兵庫医科大学糖尿病・内分泌・代謝内科の藏城雅文氏、小山英則氏らの検討でわかった。詳細は、「Cardiovascular Diabeteology」9月4日号に掲載された。

糖尿病合併症のひとつとされる心血管系の自律神経機能障害は、進行すると予後が悪化し、突然死のリスクも上昇する。

これまで内臓脂肪の蓄積が心血管系の自律神経障害に悪影響を及ぼすことが報告されてきたが、その機序は明らかにされていなかった。

最近の基礎研究で、脂肪細胞由来のホルモンであるレプチンが、視床下部背内側核を介して自律神経機能を修飾する可能性が報告された。

同氏らの研究グループはこの血漿レプチンに着目し、2型糖尿病患者を対象に、血漿レプチン値や内臓脂肪蓄積と心血管系自律神経機能との関連を検証する横断研究を行った。

対象は、同氏らが遂行しているHSCAA(Hyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis)コホート研究(Atherosclerosis 2015; 238: 409-414)に登録された2型糖尿病患者と、年齢・性を一致させた2型糖尿病既往のない心血管疾患リスク因子保有者それぞれ100人。典型的な心血管リスク因子のほか、血漿レプチン値とレプチン受容体の発現レベル、内臓脂肪面積(VFA)心拍数変動(HRV)を比較検討した。

その結果、2型糖尿病患者においてVFAおよび血漿レプチン値はHRVパラメータとの間にそれぞれ有意な逆相関が認められた(レプチン受容体発現レベルには関連性なし)。

多変量回帰分析によると、血漿レプチン値は、年齢や性などの他の因子とは独立して、HRVパラメータとの間に有意な逆相関が認められた。

なお、こうした血漿レプチン値とHRVパラメータとの関連性は、糖尿病既往のない対象群では認められなかったという。

同氏らは、「2型糖尿病や肥満患者において、高レプチン血症が心血管系の自律神経障害の予測因子となる可能性がある」と結論。「今回の臨床研究で糖尿病患者の自律神経障害に関する病態の理解が一歩進んだ」と述べるとともに、「レプチンが自律神経障害のバイオマーカーのひとつであるのか、病態制御の標的因子になりうるのか、HSCAAコホート研究の追跡と今後の介入研究により明らかにしていきたい」と期待を述べている。

(引用、ここまで)



まとめると、2型糖尿病や肥満患者さんでは、

高レプチン血症、すなわち血液中にレプチンが多い人であればあるほど、

自律神経障害を反映する心拍数変動値低下があるということがわかった、という報告です。

レプチンとは、脂肪細胞から分泌される食欲抑制作用を持つホルモンです。

以前、片頭痛の慢性化に高レプチン血症が関わっているという話を当ブログで紹介しましたが、

レプチンの分泌刺激になるのは主に「摂食」と「インスリン分泌」です。

おそらくは恒常性を保ちたい人体にとって非日常状態に引き込まれるそれらの刺激を速やかに元の状態に戻すためにレプチンは働いているのではないかと推察しています。

そうであればレプチンが出続けている状況というのは「非日常を日常に戻そうとしているのになかなか戻せない状態」と見ることもできます。

そもそも自律神経もアクセル役の交感神経とブレーキ役の副交換神経を駆使して急な非日常状態状態(例:怒り、恐怖、緊張など)におかれても適切な身体機能を発揮できるよう人体に組み込まれたシステムです。

レプチンが出続けているような状況で自律神経が障害されているというのも何となく関連しているように思えます。

この情報を踏まえ、私ならば「レプチンが必要以上に出なくて済むような状況を作る事が自律神経障害から回復させる一つの手がかりになる可能性」を考えます。

つまりレプチン分泌刺激となる行動をできるだけ避けること、すなわち少食とインスリンを出させないような食生活が治療戦略の一つになると思います。

インスリンを出させないようにという事で真っ先に思いつくのは糖質制限ですが、

タンパク質も、血糖値の上昇にはあまり関与しないものの、インスリンとグルカゴンの同時刺激になるので、糖質の次に摂り過ぎに注意しなければならない主要栄養素だと思います。

すなわち、糖質制限でも解決できない問題に突き当たった人に対する一つの解決策は、

食事の回数を減らす」か「糖質制限をしながらタンパク質摂取も控えめにしてみる」という事になるのではないかと思います。


こういう話をすると、レプチンを測定したいと思う人もいるかもしれませんが、

レプチンは日常の保険診療の中で測定する事はできません。また仮に測定できたとしても私ならしないと思います。

なぜならば、こういう単一成分に注目するような西洋医学的なものの見方自体に大きな落とし穴があると思うからです。

今回たまたま肥満にまつわるホルモンとして有名なレプチンに注目していますが、

実際にはレプチン以外にも内臓脂肪から分泌されるTNF-αやPAI-Ⅰなどの様々なサイトカインが互いに影響を及ぼしながら複雑なシステムを形成しています。

従ってレプチンはそうした複雑な現象の中の一側面を表しているにすぎないという事を忘れてはいけません。

木を見て森を見ずという事にならないよう、注意しておく必要があると私は考えています。


たがしゅう
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