一部ではなく全体に効く食事療法

2015/03/04 00:01:00 | ふと思った事 | コメント:2件

片頭痛と群発頭痛の病態生理の共通点を簡単にまとめると、

「何らかの刺激」→「神経興奮」→「血管収縮」→「血管拡張(±自律神経核刺激)」→「神経原性炎症」

という事だと考察しましたが、一方で両者に共通する治療というのもあります。

具体的には頭痛頻度を減らす予防療法には「カルシウム拮抗薬」、頭痛発作時の頓挫療法にはトリプタン薬(スマトリプタン)の皮下注射です。

これらは、片頭痛と群発頭痛、いずれにも有効性であることがわかっています。

まずカルシウム拮抗薬がどういうメカニズムで効いているのかといいますと、

カルシウムの細胞内への流入により生じる血管平滑筋収縮を抑制することによって、片頭痛初期の前兆が起こりうる血管収縮が起こるのを阻止することがわかっています。

つまりメカニズムの中盤の一部に作用している薬だという事がわかります。 また、トリプタン薬はセロトニンが分解されて血管が拡張しようという時期に用いてに作用し、

セロトニン作用を高めて血管を収縮させ、神経原性炎症をそれ以上ひどくしないように中盤~後半のメカニズムに働きかけている薬だとわかります。

いずれにしてもメカニズムの一部に作用するというのが現在の治療方法の基本的なパターンとなっています。

一部にだけ作用するので、全体の流れを食い止める事はなかなか難しいです。

例えばカルシウム拮抗薬にしても片頭痛や群発頭痛の発作頻度を多少減らすという事はできても、

完全にゼロにするというのはなかなか難しい場合が多いです。

しかも、カルシウム拮抗薬を使う事による影響は、何も片頭痛や群発頭痛の予防にだけ及ぶわけではありません。

カルシウム拮抗薬の影響は全身に及ぶので、場合によって様々な副作用が起りえます。

軽いところではめまい、血圧低下、発疹、便秘、悪心・嘔吐、浮腫など、

そして重篤なところでは徐脈や心不全を起こし、最悪の場合は心停止につながるおそれもあります。

このように何かのリスクを犠牲にして、何かのメリットを得ようとしているのが一部のメカニズムに作用する薬物療法の特徴です。

「クスリはリスク」と言われる所以がここにもあると思います。


しかし、強い糖質制限に当たるケトン食の場合はどうでしょうか。

先日紹介した論文においても、片頭痛の治療としての効果は非常に大きかったと思います。

それはおそらく、ケトン食の効果が1ヶ所だけ代謝をブロックするとかいう戦略ではなく、

セロトニン神経を活性化したり、GABA様作用(抑制性)を示したり、神経保護効果があったり神経原性炎症を抑えたりと、

多面的なメカニズムで片頭痛の病態生理を封じ込めるからではないかと私は思います。

しかも、ケトン食の場合は副作用のデメリットがほとんどないどころか、

ついでにてんかんを抑えたり精神状態を安定させたり動脈硬化の進行を防いだり

他にも様々なメリットを享受することができます。

これが薬物療法と食事療法の決定的な違いです。

だからこれからどんな画期的な新薬が開発されようと、

私が食事療法を勧める基本的スタンスはおそらく変わらないと思います。


たがしゅう
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コメント

カルシウム拮抗薬

2015/03/04(水) 19:33:50 | URL | Yamamot_ma #QPJmzeK2
たがしゅう先生
お久しぶりですです。
ここ数日の記事、興味深く読ませて頂いています。
痛みについて勉強中ですが、こちらで「カルシウム拮抗薬」の説明がありました。
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/anat-channel.html#vscc
こちらでは今一番の興味のある「循環に対するカンナビノイドの作用」の記事がありました。
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-cannabinoid.html

片頭痛・癲癇に対して3-ヒドロキシ酪酸の作用と同様、内因性カンナビの作用も関係があるかも知れませんね。

Re: カルシウム拮抗薬

2015/03/04(水) 21:56:44 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Yamamot_ma さん

 情報を頂き有難うございます。

 内因性カンナビノイド、興味深いですね。私が把握しきれていない鎮痛のメカニズム、まだまだありそうです。勉強させて頂きます。

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