「食物繊維」について学ぶ
2015/02/23 00:01:00 |
栄養 |
コメント:7件
便秘にならないように野菜を食べているという人は結構たくさんいます。
それは「食物繊維が便通をよくする」ということが世の中でまことしやかに信じられているからだと思いますが、
食物繊維と便通の関連は多ければ多いほどよいという単純なものではありません。
なぜなら一口に食物繊維によっても種類があるということ、
それに食物繊維によって影響を受ける腸内細菌をとっても人それぞれ違うからです。
何かと良いイメージの付きまとう食物繊維ですが、実際のところはどうなのでしょうか。
今日はこの「食物繊維」について考えてみたいと思います。 まず「食物繊維」は日本では、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています。
身体の構成成分やエネルギー源としての役割が期待できないため、以前は無益な成分と考えられていました。
しかし近年、食物繊維は腸内細菌のエサとして働き、腸内細菌が産生する物質を介して様々な生理作用や機能を発揮することが明らかになってきました。
また食物繊維の定義には当てはまらないけれど、食物繊維のような働きをする食品成分がある事も新たにわかってきたため、
食物繊維の定義自体を改めようとする動きもあるようで、食物繊維の定義は国によって異なります。
さて、そんな食物繊維ですが、水にとける「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」に大別できます。
どちらも便通に関与するのですが、その関連の仕方が両者で異なります。
栄養学の大著、ヒューマン・ニュートリション(第10版)によれば、
「便の体積を増大する効果を示す食品成分は食物繊維だけである」とあります。
(以下、p74より引用)
食物繊維による糞便量の増大には2つの要因が関与している。
水溶性の繊維は容易に発酵を受け分解されるが、菌体の増殖によって便の量を増大させる。
一方、小麦フスマのようにリグニン質を多く含む不溶性の繊維は一部しか発酵を受けない。
このため不溶性の繊維は、それ自体の抱水能(water-holding capacity)によって直接的に便の体積を増大させる。
糞便量は腸内容物の通過時間と密接に関連している。
1日の糞便重量が150gを下回った場合、この移動速度が低下していると考えられ、100g/日を切ると便秘の状態になる。
(引用、ここまで)
ヒトは動物ですから、動物の栄養は動物から得るのが基本だと思いますが、
腸内細菌の観点でみれば、植物を取るという事もあながち悪くないという視点が見えてきます。
そんな食物繊維ですが、完全に腸内細菌のエサとなる水溶性のものと、エサになりきらない不溶性のものがあるという事ですね。
そうすると、便重量が多い人には不溶性メインで食物繊維を与えてしまうと逆に便の体積が増大して便秘になるということが起こりかねません。
一律に食物繊維が便通をよくするとは限らないということです。
また、エサとして腸内細菌が発酵させれば、それは酪酸や酢酸、プロピオン酸などのエネルギー源になったり、
水素と二酸化炭素に分解されガス化され、人によってはさらに化学反応を起こしてメタンガスとなりオナラの元となります(CO2+4H2→CH4+2H2O)。
そうすると発酵されやすい水溶性食物繊維をメインで取ればよさそうな気もしますが、
いろいろな食品に含まれる水溶性と不溶性食物繊維の割合を眺めてみると、
ほとんどの場合、不溶性の割合の方が多いという事がわかります。
従って、普通に食物繊維をとろうとしたら、多くの場合不溶性食物繊維の割合の方が多くなりがちだということです。
では水溶性食物繊維(ペクチン、ヘミセルロース、ガム質など)をサプリメントとして取り入れたらどうかと思われる人もいるかもしれませんが、
ヒューマン・ニュートリションにはこうも書かれています。
(以下、p75より引用)
健康に有益であることが知られている真の高繊維食を反映するのは植物性食品であり、
植物性食品の特性を反映するのは植物細胞壁NSP(食物繊維)だけである。
また次のことを認識しておくことは重要である。
すなわち、未精製の植物性食品のもつ有益な効果は、繊維欠乏食に外から繊維を添加しても得られないということである。
天然の植物細胞壁の構造がそのまま保持されていることが重要なのである。
(引用、ここまで)
せっかく食物繊維が良い効果を持っていても、
サプリメントではなく、食品そのものから取らないとダメだということです。
この事は、天然成分をそのまま利用する漢方と、単一成分を抽出して結晶化して薬にした西洋薬との違いと絡めて考えても深くて興味深いです。
食物繊維、利用できそうだとわかっていてもなかなか一筋縄にはいきません。
ここにさらに腸内細菌の個人差、多様性が重なってくるわけですから事態はかなり複雑です。
引き続き学びを続けていきたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
糖質制限することで便秘体質改善することができました。食物繊維の摂取不足よりも、私の場合ストレスで寝られない日が続くと便秘になりました。
糖質制限して以来、快便なのが嬉しいです。便通には精神的な問題が大きくかかわっていて、性格が変わらずとも糖質制限で穏やかに。これが身体面に影響しているような気がします。
便秘だけでなく、自分では気づかない部分で、多くの身体的状況が好転しているのだと思います
快眠快食快便
快眠快食快便。健康の基本ですね。
私も去年6月から糖質制限を始め、睡眠については劇的に改善しました!(嬉)まさに快眠てす!
それに伴い、身体の抵抗力が増したのか、今季は初めて風邪のひかない冬を過ごす事が出来そうです!(嬉)
快食については、カロリー制限食では得られなかった満足感を日々得てます!(嬉)
最後の快便の方は、私の方は糖質制限で少し悪くなったかも?しれません。
以前は毎日排便があったのですが、糖質制限後は、2~3日に一度になりました。
自分では、御飯に含まれる、食物繊維分の影響かな?と感じています。
菜野菜では余り排便は変わらないですが、ナッツ類(特にピーナッツ)を食べた翌日は排便する事が多いです。
この辺りは腸内細菌の個人差という所でしょうか?
先生の排便は糖質制限前後で変わりましたでしょうか?またオススメの食べ物があればお教え下さい。勿論個人差があるので自己責任下で試してみます。(笑)
管理人のみ閲覧できます
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 私の場合ストレスで寝られない日が続くと便秘になりました。
それもおおいにあるでしょうね。いわゆる「脳腸相関」でストレスは便通と密接に関わっています。
糖質制限とストレスマネジメントは難病態に立ち向かう鍵となると私は思います。
2014年3月19日(水)の本ブログ記事
「脳腸相関について学ぶ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-215.html
も御参照下さい。
Re: 快眠快食快便
コメント頂き有難うございます。
> 先生の排便は糖質制限前後で変わりましたでしょうか?
私の便は快便時々下痢という感じですね。いろいろ実験しているからでしょうか。
2013年12月3日(火)の本ブログ記事
「糖質制限記念日」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-108.html
も御参照下さい。
> またオススメの食べ物があればお教え下さい。
糖質制限で便秘になる場合は油脂、特に中鎖脂肪酸をしっかり取るというのが一つですね。
もう一つは食物繊維での便のカサ増し分を減らすには水溶性食物繊維を多めに摂るという事も役に立つかもしれません。
そういう意味で最近私が注目しているのは、「こんにゃく」と「きのこ」です。水溶性食物繊維が多いのともう一つ理由があります。いずれ記事にしたいと思います。
繊維の扱い
糖質制限をして極端に食物繊維摂取は減ったと思いますが、便秘などは特になく、むしろ安定しました。ただ快腸かというと、そこまでではないという感じでした
。
糖質制限をしていると自然と繊維も減りますので、量が減るのは仕方ないですが、何かスッキリしない感覚があったのです。
私の場合は「蒸し大豆」が効きました。圧力鍋で蒸した大豆なのですが、毎日ほんの20〜30粒ほど食べるようにしたら、排便の回数も量も増え、質(?)も良くなった様子だったので、以来続けています。
食物繊維の量は少ないですが、効果は大きかったです。
おそらく糖質制限での脂質摂取と少量の食物繊維が刺激になってよかったのかもしれません。
食物繊維を目の敵にするセイゲニストもいますが、糖質制限を続けられるレベルでの繊維の摂取は全然OKだと思っています。
Re: 繊維の扱い
コメント頂き有難うございます。
蒸し大豆ですか。参考になります。蒸す事が一つアクセントになっているのでしょうか。
> 食物繊維を目の敵にするセイゲニストもいますが、糖質制限を続けられるレベルでの繊維の摂取は全然OKだと思っています。
そうですね。「分解酵素を持っていないから不要」という考え方はやや狭い考え方だと思います。
腸内細菌も含めて考えると、ヒトが雑食たる所以や、カロリー理論が成り立たない理由など、様々な光景が見えてくると思います。
同時に、個人差という見えない問題にも突き当たるので、食物繊維をどれだけどのように摂るのがいいのかは、それぞれが自分の身体でいろいろ試みるしかないのかもしれませんね。
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