多くのプロブレムを一手に解決へ導く方法

2015/02/21 00:01:00 | 普段の診療より | コメント:4件

一般に患者さんを診療する時に

その患者さんにまつわる問題点をまとめたプロブレムリストというのを作る事があります。

これはすべての医師がそうしているわけではないのですが、

私の場合はたとえどんな患者さんを見た時にも、必ずプロブレムリストを作るようにしています。

プロブレムリストの対象は多岐に渡ります。病名や症状名をプロブレムにする事が多いですが、

喫煙習慣、アルコール多飲などの生活習慣、人によっては一人暮らしである事をプロブレムとして扱う場合もあります。

このプロブレムリストを上手に作れるかどうかということが、

医師の診療技術を反映する一つの物差しであると私は考えています。 幅広くプロブレムを挙げる事は一つ大事な視点ですが、数が多ければ良いというものではなく、

過不足なく、かつ現在進行形のプロブレムと、現在はさほど活動的ではないプロブレムの重み付けを区別し、整理するような能力も必要なので、結構センスも要求される作業です。

これがうまくできれば患者さんを総合的に診るという目的を成すのに一役買うことができます。

そんな中、とある70代の患者さんにまつわって、

私が作成するプロブレムリストと、同時に診療する精神科医のプロブレムリストが大きく異なるという事がある事に気がつきました。

精神科医がその患者さんに作っているプロブレムリストは、

#不安障害

リストというには寂しいですが、

それしか問題点がなければそれでも立派なプロブレムリストになります。

それに対して、同じ患者さんに私が作っているプロブレムリストは次の通りです。

#不安障害
#慢性気管支炎
#脳血管性パーキンソン症候群
#嚥下障害
#深部静脈血栓症
#腰部脊柱感狭窄症
#高血圧症
#慢性閉塞性肺疾患

みなさんはこの違いをどう思われるでしょうか。

精神科医なんだから、精神的な問題点だけを取り扱っていればそれで良いのではないかと思われるでしょうか。

ところがプロブレムリストをどう挙げるかによって取るべき対応は変わってきます。


例えば、この精神科医は「#不安障害」というプロブレムを挙げて、

実際の行動としては不安が高まっているのでパキシルという抗不安薬(SSRI)を増量するというアクションを取っています。

ところが、私が挙げたプロブレムを眺めてもらうと、

そういう対応では必ずしも良くないという事が見えてきます。

この患者さんは繰り返された酸化ストレスの影響で脳も血管も骨もボロボロの状態です。

中でも嚥下機能の低下が目立ち、それによって自分の唾液を軽く誤嚥し続ける事で慢性気管支炎の病像を呈しています。

その状況にいたずらに向精神薬を増量していく事は、嚥下障害を悪化させる可能性があります。

プロブレムリストを適切に挙げてないが故に、精神科医はそんな事など夢にも思わないのです。

患者さんを診るのに総合診療の視点が重要だというのはそういう事だと思います。

しかし、たくさんのプロブレムを一つ一つ解決するなど至難の技ではないかと思われるかもしれませんが、

この時に重要なのが食事療法の観点です。

糖質制限で全身の血流・代謝を改善し、しかるべき脂質、蛋白質を補充する事は、

この患者さんにおいても多くのプロブレムを改善の方向に導く可能性を秘めています。

脳虚血のそれ以上の悪化を最小限に抑え、骨を安定させる蛋白質が補われ、

その状況で嚥下を繰り返し自己リハビリによって状況は改善していくかもしれませんし、

ひいては血圧も改善していく可能性も秘めています。

だから真の総合診療医を目指す医師にとって、

糖質制限は必須の知識だと私は考えるわけです。


たがしゅう
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コメント

食事は万事

2015/02/21(土) 02:21:23 | URL | mina #YqzQT8Bs
たがしゅう先生
薬は特定の効果しか及ぼさないのにそこに治療の重きを置き、万病のの引き金にも万能薬にもなる食事は「気をつけてくださいね」で済ますというのは、治療を半分放棄してるようなものですよね。
特に、精神に対しては薬以上に効き目があるでしょうに。。

ふと思いましたが、ワーファリン服用の際にビタミンKを多く含む食品を食べないようにと教えられると、糖質制限指導と違い多くの場合本人も家族もかなり厳しく気遣うようになると思うんです。
それは納豆だとか抹茶だとかが比較的食べなくても我慢できるもので、品目も多くない事もあると思いますが、「薬の効果が無くなる」事を強く恐れるという事が大きいのかなと思います。とにかく、薬を最優先ですね。。

ところで、記事を見ていてふと気づいた事ですが
私は以前からかなりの若白髪でおそらく糖質過剰摂取で起こされた酸化ストレスと代謝や血流の悪さが大いに関係していたのだと確信しています。
っしかし現在は劇的に体質が改善し必要とする栄養も足りているはずですが、見るに未だ改善に向かっている気配がありません。毛髪はすぐ改善してもいいぐらいに思いますが、体質なのですかねえ。
とりあえず、ご報告まで。

Re: 食事は万事

2015/02/21(土) 06:56:32 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
mina さん

コメント頂き有難うございます。

> ワーファリン服用の際にビタミンKを多く含む食品を食べないようにと教えられると、糖質制限指導と違い多くの場合本人も家族もかなり厳しく気遣うようになると思うんです。

確かにそうですね。
このルールを守れないという人の話をあまり聞いた事がありません。
薬絶対主義の裏返しでもあり、中毒性のない食品の離脱は容易だという事を物語っているように思えます。

> 毛髪はすぐ改善してもいいぐらいに思いますが、体質なのですかねえ。

可逆的な変化かどうかという事だと思います。

毛髪に関しては個人差も大きく、私も詳しくはわかりませんが、改善までに数ヶ月から年単位のタイムラグがある事もあるようです。

パロキセチンは

2015/02/21(土) 17:39:58 | URL | アンチスタチン主義 #-
パロキセチンは強力な酵素阻害剤でもあるので増量して長期に継続するのは極めて危険ですね。英国の大学教授のD.ヒーリーはそれをテーマにした本を書いていますね。衝動的行動の誘発など神経伝達物質と精神バランスを崩す危険性のみならず、こういう神経系の薬剤は脳、全身の血管・神経・臓器を長期的に障害して老化していく可能性があります。長年使用されてきたフェニトインという抗てんかん剤もそうですね。より自然で安全な治療というのは食事療法をおいて他はありません。

Re: パロキセチンは

2015/02/21(土) 21:14:23 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます。

> より自然で安全な治療というのは食事療法をおいて他はありません。

 同意見です。薬のリスクに比べて、食事療法のリスクはぐっと低いと思います。

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