頼りにならない開業医

2015/02/18 00:01:00 | よくないと思うこと | コメント:4件

普段、病院で勤務していると、

時々開業医から紹介される患者さんを診る機会があります。

普段の健康管理をかかりつけの「診療所」が行い、

そこでは解決できない何らかのトラブルが出現した場合には「病院」に臨時で受診する、

そのように「病院」と「診療所」が連携をとって一人の患者さんの治療に当たることを「病診連携」と言います。

この考え方自体はとても大切で、両者が連携をとって情報を共有することで、診療の効率化が計れ、患者さんの複数医院受診を避ける事ができます。

ただ、それをうまく成し遂げるためにはかかりつけ医の果たす役割が非常に大きいのですが、

正直に言って、頼りにならない開業医が多いのです。 先日、そうした開業医からの臨時紹介患者の診療を担当する急患当番の業務をしておりましたところ、

朝起きたら左手がしびれたという80代男性を診て欲しいという依頼がありました。

突然発症の症状であり脳梗塞が疑われるから、ということなのでした。

左手だけが突然しびれるという症状は、脳梗塞として可能性がないわけではないのですが、

一般的には左手と左足が同時に症状が出る事が多く、左手だけがしびれる脳梗塞というのは頻度として稀です。

しかも患者さんからよくよく話を聞いてみると、その左手のしびれは半年くらい前から存在していて、

その症状が今朝からひどくなったのでかかりつけ医に相談した、ということでした。

診察と検査の結果、やはりというか脳梗塞は否定的で、

頚椎症」という首の骨が痛んで神経を圧迫する病態である事がわかりました。

ちなみに血液検査も行いましたが、コレステロールやHbA1c、尿酸などの値は全て正常でした。

糖質制限を糖尿病治療やダイエットなど限定的に理解していれば、こういう患者さんに糖質制限指導はしないのでしょうが、

私は骨を強くするための食事として、蛋白質、ビタミンD、カルシウムをしっかり確保するように、

糖質を制限しながら肉、卵、チーズをしっかりと食べること、

そしてビタミンDを自力合成するために適度に日光を浴びること、

さらには神経を支える筋肉を鍛えるように体操なども利用しながら体を動かすように指導しました。

こうした病態を見抜き、指導をする事は開業医の環境でも十分可能であるはずですが、

そうはせずに安易に病院へ紹介する医師が後を絶ちません。「病診連携」と言えば聞こえはいいですが、言い方を変えれば「丸投げ」です。

まぁもしかしたらその開業医さんがその時非常に忙しくて、

本当はじっくりと話を聞いて、診察もしたかったけど、他の患者さんも待っている状況でやむを得ず病院に紹介したのかもしれません。

それに開業医では例えばCTやMRIといったいわゆる高度医療機器は多くの場合備えていないので、

そうした機器なしで判断しなければならない分、ハードルが高いという側面もあるかもしれません。

しかしそもそも患者さんが殺到するような人気の開業医は、本質的には良い医療と真逆の診療を行っている可能性がありますし、

高度な医療機器に頼らないようにするためには、診断のための広範な知識が必要であるのみならず、

そもそも脳梗塞や心筋梗塞、感染症にかかるリスクをあらゆる観点から減らすようアプローチできる総合診療力が極めて重要なわけです。

その意味で、本来病院勤務医より開業医の方が様々な卓越したスキルが要求されるものと私は考えています。

残念ながら現実はそのような信頼できる開業医は私の周りにはほとんどいません。

最大のリスク低減方法である「糖質制限」を指導していない開業医は、

それだけで理想の開業医には程遠い地点からスタートしているように私には思えます。


たがしゅう
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コメント

No title

2015/02/18(水) 21:54:03 | URL | 高橋裕彦 #-
たがしゅう先生ご苦労様です。こういう開業医が多いのは事実ですが、いろいろ考えて、診療にあたっている開業医もおります。私はまず、患者さんが、朝何を食べたか、問診し、何が好きか、何を食べたらよいのかを、尋ね、患者さんができることだけを、勧めます。今日の症例のような人を、私も急性期病院へ紹介したことがあります。本人がどうしても脳が心配だとおっしゃるのです。申し訳ないなあと思いながら、紹介するのです。そういう気持ちを持った開業医もいるということを忘れないで欲しいと思い、コメントさせていただきました。

Re: No title

2015/02/18(水) 23:13:46 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
高橋裕彦 さん

 率直なコメントを頂き有難うございます。

> 申し訳ないなあと思いながら、紹介するのです。そういう気持ちを持った開業医もいるということを忘れないで欲しいと思い、コメントさせていただきました。

 そうですね。のっぴきならない事情というものはあると思います。

 そういう場合は致し方ありませんし、私も開業医からの紹介の全てを嫌がっているわけではありません。

 ただ最近あまりにも安易と思える紹介が続いたため、記事のように感じてしまった次第です。御意見しかと受け止めて今後に活かしていきたいと思います。

一般開業医の限界

2015/02/19(木) 18:14:00 | URL | アンチスタチン主義 #-
開業医の立場で言うと、高齢者が片手のしびれで来院したら、「脳卒中かもしれない」と考えるのが普通だと思います。神経学の知識など誰もロクに知りませんからね。頚椎症と脳卒中の区別などつかないんじゃないかと思います。仮に自信をもって頚椎症だと診断しても、患者側としては「脳卒中が心配だから念のためにMRI検査してくれ」と本人や家族が言われるのがオチではないかと。
特に冬場はこういう患者が増える傾向にあります。事実として最初は左手のしびれだけでも後になって麻痺が進行してきて脳梗塞だという症例も少なくないですし、まして80歳の高齢者で頚椎症とオーバーラップしていれば初期は見逃されやすいケースもあります。初期診断で見逃せば、開業医としてはやはり民事訴追の対象リスクになります。日本は至る所にCTとMRIが溢れている状況であり、最近はCTやMRIを設置している新規開業医も少なくないです。それゆえリスク回避のためにCTやMRIを持たない開業医が病院へ紹介するのはやむを得ない措置だと思います。検査があるのになぜやってくれないのか?というのが患者でしょう。
例えば中高年女性が慢性頭痛だろうと思っていても、急速に頭痛が悪化した場合は、念のためにMRI検査したら、実は動脈乖離だったり動脈瘤の切迫破裂だったり微小くも膜下出血だったりする事が少なくないです。
むかし開業医が処方している経口血糖降下剤で意識障害になった患者を紹介された事を覚えています。まさか自分の処方で意識障害になっているとは夢にも思わないのでしょうね。CTやMRI検査を設置するというのは開業医にとって高額すぎるハイリスクな投資です。
病院で当たり前の様に利用できる立場の医師にはそういう感覚はわからないと思いますが、問診や診察だけでは見落としが避けられないのが現実です。
救急対応に関してはたとえ1次レベルでも開業医のソフトでは限度があります。
病院勤務医の加重労働軽減するためにはを地域開業医にオープン化して、地域開業医にも輪番で救急外来に協力参加してもらうのが一番いいと思います。参加する事で勉強する事も多いと思います。ただしそれが実現できるかどうかはその地域の開業医のスキルやコンプライアンス次第でしょうが。
開業医が1人で外来やってると1人の救急患者に時間が割けない事が多いので、誰もが早く病院へ丸投げしたいのが本音ではないでしょうか?
今の時代、診察時は軽症そうに見えても、重症化する事を想定して対応する事が求められると思いますが、いかがでしょうか?
勤務医目線の一面的な見方だけでは語れない事実があると思いますが。

Re: 一般開業医の限界

2015/02/19(木) 19:30:56 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アンチスタチン主義 さん

コメント頂き有難うございます。

開業医に限界があるのは百も承知です。

> 問診や診察だけでは見落としが避けられないのが現実です。

それはそうでしょう。しかし一方で、問診と診察技術を磨く事で診断技術を高める事ができる事もまた事実です。その技術を最高峰に高めているのが総合診療医の専門性です。

> 今の時代、診察時は軽症そうに見えても、重症化する事を想定して対応する事が求められると思いますが、いかがでしょうか?

その予想経過を含めて適切にスクリーニングするのが総合診療医の技術です。

その結果、高リスクだと判断されればそれはすぐさま病院に搬送すれば良いです。問題はその思考プロセスが開業医の頭の中でスキップされていないかという事です。

たとえ分からなくとも、分かろうと努力しているかどうかが、次の発展のためにも患者さんの気持ちに対しても大事なわけです。

なんでもかんでもリスクがあるからと最初から患者を診ようとしない医者は、良い医者になろうとする努力を一つ放棄しているように私には思えます。

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