強い作用を持つ物質とそれを活かす代謝環境
2015/02/14 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:4件
1型糖尿病の診断に有用な血液検査の項目として、
「抗GAD抗体」というものがあります。
文字通り、GADという物質に対する抗体という意味なのですが、
このGADについて改めて調べてみると興味深いことがわかります。
GADというのは、Glutamic Acid Decarboxylase(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)の略で、デカルボキシラーゼというのは「脱炭酸酵素」という意味です。
すなわちGADは、グルタミン酸から炭素をとる酵素のことです。
グルタミン酸にGADが作用すると、グルタミン酸はGABA(γ-アミノ酪酸)と二酸化炭素に分解されます。 GABAは、これまでも記事に取り上げていますが、抑制の性質を持つ神経伝達物質です。
一方でグルタミン酸は興奮の性質を持つ神経伝達物質として知られています。
糖尿病におけるβ細胞死のメカニズムにグルタミン酸過剰が関わっているという記事を紹介しましたが、
その過剰興奮状態を解除するために、GADは重要な役割を果たしているという事ですね。
GADは主に脳や膵臓のランゲルハンス島に存在する事がわかっています。
このように考えると抗GAD抗体が1型糖尿病の原因のように思えるかもしれませんが、そうではありません。
もし抗GAD抗体が本質的な原因であれば、GADの機能障害を介して脳にも何らかの悪影響が出てしかるべきですが、
実際は1型糖尿病のヒトで脳疾患に由来する症状が出るわけではありませんので、
1型糖尿病での抗GAD抗体陽性は、あくまで「膵ランゲルハンス島が破壊されている」ことの傍証に過ぎないわけです。
その証拠に、1型糖尿病では抗GAD抗体以外にも、抗インスリン抗体、ICA(抗ラ氏島抗体)、抗IA-2(インスリノーマ関連蛋白-2)抗体、など膵臟に存在する他の成分に対する抗体が陽性になることもあります。
ただ、抗GAD抗体が陽性となり、脳に悪影響をもたらす病気も存在します。
例えばStiff person症候群、抗GAD抗体関連小脳失調症などの疾患です。
こうした場合は、抗GAD抗体の存在自体が病態に深く関与していることもありますので、
解釈に際してはその都度注意が必要です。
さて、このグルタミン酸ですが、
乳酸、尿酸、ケトン体などと同様に、
それらが上昇し続ける事による害が出ないようなカウンターシステムが存在する場合には、
非常に有意義な物質であるように思えます。
乳酸に対する乳酸デヒドロゲナーゼ、尿酸に対する尿酸オキシダーゼ、
ケトン体に対するインスリン、そしてグルタミン酸に対するGAD(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)です。
それぞれの物質だけに注目するだけではなく、それを取り巻く周囲の環境、
すなわち代謝そのものを見渡すこと、木も見て森も見るスタンスが重要になってくると思います。
このグルタミン酸については、興味深いので別記事でもう少し深く考えてみたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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お世話になります
ネットサーフィンで昨日このブログに行き着いた51歳男性です。ブログ開始から読み始め、首肯することしきりです。私は180センチ68キロと細身だったのですが、体型云々ではなく健康を考え、たまたま書店で見かけた渡辺先生のMEC食を始め、3か月近く経過しました。MEC食(肉・卵・チーズ)も基本的には糖質制限かと思いますが、私の場合、少し筋肉をつけたくて多めに食べているのにもかかわらず体重が減り続け、65キロほどになってしまいました。痩せていたのにやや残っていたおなか周りの脂肪が落ちたのだとは思いますが…。
さて、いきなり且つ本日のブログの本文と関係ないことで申し訳ありませんが一つ質問させてください。
ブログを読んで(まだ全部は読み切れていませんが)、薬は極力減らした方がよいこと、そして多くの病気や体調・精神不良が糖質摂取過多によるもの、と言うことは理解できたし納得もしたのですが、私が現在患っている緑内障については如何でしょうか?
2年前に人間ドックで指摘され、眼科に通った結果、正常眼圧緑内障と診断されて点眼薬(眼圧を下げる)を処方され、毎日点眼しておりますが、①糖質制限は緑内障にも有効か(少なくとも進行を抑えられるか)、②点眼薬はこのまま使用してもいいのかどうか、の2点です。専門外化と思いますが、先生の言われるような旧態依然としたかかりつけの眼科医に質問したところで満足のいく回答は得られないと思い、ご質問させていただきました。よろしくお願いいたします。
Re: お世話になります
御質問頂き有難うございます。
> 私が現在患っている緑内障については如何でしょうか?
> ①糖質制限は緑内障にも有効か(少なくとも進行を抑えられるか)
糖質制限で緑内障が改善したという症例は、私は直接は存じ上げません。
ただ一つヒントになるのは、ステロイドの副作用に緑内障があるという事実です。
過剰にストレスがかかり続けたり、それに模したあるいはそれ以上の血糖乱高下が起こるような状況は緑内障にとっても良くないと思いますので、
少なくとも糖質制限をする事で緑内障が悪化することはないのではないかと予想します。
改善するかどうか、進行を抑制することができるかどうかについては、申し訳ないですがよくわかりません。
> ②点眼薬はこのまま使用してもいいのかどうか
特に問題はないと思います。
No title
ご回答ありがとうございました。点眼薬については安心しました。
糖質制限については妻共々これからも継続してまいりたいと思っております。始めてわずかですが快眠や脂肪の減少、活力アップ、体温上昇など実感できる効果もありますし、15年間苦しんできた花粉症もこの春は大丈夫なのじゃないかと期待しております。
年老いた両親や息子・娘にも糖質制限の良さを説いておりますが、なかなか聞く耳を持ってくれません。それでも先生に倣っていつまでも周囲の人間に啓蒙していきたいと考えております。今後も読ませていただき、また、質問などさせていただくこととなると思いますが末永くよろしくお願いいたします。n
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