正しい事が正しく伝わらない
2015/02/05 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:12件
孤立無援の状況で糖質制限指導を続けていると、
時には辛い出来事を経験する事もあります。
70代の男性がもの忘れを心配し私の外来を受診された時の事です。
一般的にもの忘れの原因を調べるには頭の写真をというイメージがあるかもしれませんが、
実際にはそれ以外にも顔つきや行動、診察所見、家族が何で困っているか、血液検査の数値など、
いろいろな所見を組み合わせてかなり総合的な視点で診療に当たる必要があります。
この患者さんの場合は第一印象、「元気がない」という感じの方でした。 元気がない以外には診察上は明らかな神経学的な異常所見はなく、血液検査では少し中性脂肪が高いくらいの方でした。
ところが、頭の写真をとると海馬という記憶に関する領域がかなり萎縮しており、
それ以外にも全体的に脳が年齢以上に萎縮し、脳への血流も全体的に乏しくなっている所見を強く認めました。
ただ実際に長谷川式と呼ばれる認知機能検査をしてみると、30点満点のテストで26点という得点でした。
このテスト認知症と診断するための一つの目安は20点以下だと言われていますので、
正常とまでは言えないものの、比較的認知機能の低下は軽い状態だと言えます。
画像だけ見れば、すぐさま何らかの抗認知症薬が処方されてもおかしくない写真でしたが、
私はこの患者さんとそのご家族に食事療法と運動療法で進行予防をする方針をおすすめしました。
具体的な食事療法の内容はと言えば、もちろん糖質制限です。
中性脂肪以外に異常がないというのも一つのポイントです。糖尿病の状態を表すHbA1cもこの患者さんは正常でしたので、
何で糖質制限を指導するのかと思われるかもしれません。
しかしそれは、私がいろいろな患者さんを糖質制限の視点で観察してきて、
血糖の乱高下が必ずしもHbA1cに反映されない患者さんが一定数いると思えたからです。
何度血糖乱高下の影響を受けてもHbA1cがピクリとも上昇しない人というのは、
その代わり原因不明の難病やアレルギー、そして認知症に悩まされているケースが多いんです。
それが証拠に認知症の一つ、アルツハイマー型認知症は近年「脳の糖尿病」と称されるようになってきています。
HbA1cが上がっていないにも関わらず、脳の組織内では「インスリン抵抗性」を初めとした糖尿病様の変化が起こっているということがわかったからです。
この患者さんにおいてもその例外ではなく、おそらくは糖質頻回過剰摂取を繰り返し、
HbA1cが上がらない代わりにアルツハイマー型の脳変化を起こし、かつ脳への血流が低下してきて、
アルツハイマー型認知症+脳血管性認知症の合併状態になろうとしているのを、必死に踏みとどまっているような状況に思えました。
それに軽度認知障害の段階でアリセプトなどの抗認知症薬を用いても、
認知症への進行を予防できるという確たる証拠(エビデンス)は存在していないということもありました。
それでこの患者さんに糖質制限をいつものように指導したのです。
ところがその半年後のことです。
この患者さんが脳梗塞を起こして別の病院へ入院するということが起こりました。
半年前の経緯を知っている私は、入院した病院へ診療情報提供書を送る義務があります。
しかし、それを受け取る側の医師はこの流れを見てどう思うでしょうか。
もの忘れを主訴に受診し、軽度認知障害を指摘。
→頭部画像でかなりの脳萎縮と脳虚血あり。
→進行を予防するために糖質制限を指導。
→半年後に脳梗塞を発症。
普通の医師であれば、まず間違いなく「糖質制限のせいで脳梗塞を起こした」と思うのではないでしょうか。
ところが実際は、糖質制限を守らなかった可能性だってあるわけです。
というよりも8割の人が拒否するのが現状である以上は、その可能性の方が高いと思います。
しかしその真実は知られることなく、おそらく私への不信感が受け取り側の医師に伝わっていく事になります。
「正しい事をしているつもりでも、実際にそれがうまく伝わらない事もある」
何とも言えない複雑な気持ちになりました。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
先駆者だから・・・
実に350年後です。
「糖質制限」は、今、認められつつあります。
しかし、世間一般の常識になるには、まだ年月が必要でしょう・・・
真実を認めず、曲解・隠蔽する人たちと戦わなくてはなりません。
21世紀でも、人類の理性・知性はまだまだですね。
応援しています。
Re: 先駆者だから・・・
コメント頂き有難うございます。
先駆者の先生方が切り開いて下さった道を通るにしてもまだまだ困難の多い道ですが、
その道を歩む覚悟はできているつもりです。できるだけ後悔のない生き方をしていきたいと思います。
No title
違う選択も必要かと・・・
私は糖質制限の素晴らしさを知っております。
義母を自宅介護していた時に糖質制限を知っていたなら・・と後悔もあります。
軽度の認知症は家族にとってすごくしんどい時期です。
動ける上にチグハグな行動、ある程度理解しているので制止もききません。
本人はいたって普通と思っております。
道路を逆行して運転するのもこの時期だと思います。
家族は振り回されクタクタというのが現状です。
そのうえ糖質制限なんて食事指導されて果たして実行できるのでしょうか?
たいがい 奥様一人で家事、介護しておられる状態です。もう何もかも投げ出したくなっていることもあります。
糖質制限指導の後、出来るかどうかの確認とその後の診察での経過観察と・・で
無理な場合は糖質過多状態での治療法を進めていくのも有りかなと思います。
家族側の(私の)意見ですが
ここまで(高齢)生きてきたんやし、あとは好きなもの食べて~と思っております。
糖質制限は素晴らしいです。でもなかなか踏み切れないのが現実です。
ごめんなさい意見してしまって。
歯がゆいですね
よくある事です。
受け手の側に受け入れる気持ちがないからです。
相手のコップに水を注ごうにも、コップは伏せられています。
心中お察し申し上げます。
Re: 違う選択も必要かと・・・
コメント頂き有難うございます。
御指摘の通りだと思います。糖質制限指導後もう少しこまめにフォローすべきでしたし、
その方法だけにこだわらず、ごく少量の薬物療法を重ねる選択肢も検討すべきでした。
私自身糖質制限に目が眩み過ぎていた部分があったかもしれません。反省し次に活かしたいと思います。
> ごめんなさい意見してしまって。
いえいえ、率直な御意見をおっしゃって頂き、逆にありがたかったです。
Re: 歯がゆいですね
コメント頂き有難うございます。
受け入れる気持ちを持っていない人には、何をどう言おうとなかなか難しいですね。
それならそれで、別の方策を考えていかなければならないのでしょうね。
正しく理解してない人が多いから
私も、周りからの理解を得られず悔しい思いをした事が何度もありました。
糖質制限に批判が多いのは、糖質制限にチャレンジしたけど失敗した人も多いからではないでしょうか?
・「私痩せたいんですけどどうしたら痩せられますか?」と聞かれるから一生懸命説明してて、ふと気がつくとお菓子ボリボリ食べながら聞いている(v_v)
・糖質制限の本まで買って「最近頑張ってるけど痩せない」・・・お昼休みは必ずお菓子ボリボリ(v_v)
・「朝と夜は糖質とってないし、糖質はお昼のこのお弁当だけなんだけどねえ。」・・・業者さんのお弁当のおかず、味付けも内容もかなり高糖質だと思います。たとえご飯を減らしてもあのお弁当のおかずを見て食べて、糖質が多いと感じなければそれはなかなか痩せられないかと(v_v)
まだまだありますが、こうして、糖質制限したつもりになってる人達が結局痩せずに「失敗した」とか「効果がない」とか言ってしまうかもしれません。
悲しいですね。
そしてこんな糖質制限してるつもりの人がしてない人より厄介だと思えます。
でも私もそう言いながらしてるつもりになってたら駄目なので、明日、ちょっと勉強してきます(^^)
たがしゅう先生、頑張りましょうね(*^^*)
No title
私の糖質制限のブログ仲間も、たまにコメント欄で他の人から「糖質制限は体に悪いんじゃないの?」」などと書かれていて困っているようです。
でも、だんだんわかってくれる人もいます!
私の主治医の29歳の先生も最初はいい顔しませんでしたが、私が頑張ってるのを見て「すごいね」とほめてくれて、今では認めてくれてます。
黙って結果を出せば、きっと理解してくれる人は増えます。
ただ、いかに正しい方法であっても、どうしても実行できない・受け入れられない人はきっといますよね。
糖質制限セミナー
今より少し賢くなってきます(^^)
Re: 正しく理解してない人が多いから
コメント頂き有難うございます。
早計な判断で糖質制限がダメとか言わないでもらいたいものですね。
しかし正しい事はたとえどんなに時間がかかろうとも、いつか必ず伝わると私は信じています。
> たがしゅう先生、頑張りましょうね(*^^*)
有難うございます。頑張ります。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
私も、だんだんとわかってくれる人が増えてきている事を肌で感じています。地道な努力を続けたいと思います。
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