「最後の砦」が「最後の試練」にならないように
2015/01/30 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:10件
先日救急当番医の係をしていた時に、
集中治療室で意識障害を起こしている患者さんの往診を頼まれました。
当院では集中治療室に入るような重症患者さんは、
主たる診療科だけでなく、全身管理のプロフェッショナルに当たる麻酔科医によるサポートもありながら診療が行われます。
私が往診したのはインフルエンザ後の肺炎球菌性肺炎で、
重症化して人工呼吸器が装着されている60代男性の患者さんでした。 集中治療室は言わば医療における「最後の砦」です。
昇圧剤、循環作動薬、鎮静剤、血液凝固異常改善剤、輸血など全身管理の知識に長けた麻酔科医が、
生命の危機に瀕する患者さんを力の限り救おうと努力されています。
そういう風に思っていたのですが、
その患者さんに対する治療を見た時に私は愕然としました。
その患者さんは糖尿病をお持ちの方だったようですが、
高カロリー輸液とともに、持続的に大量のインスリンが投与され続けていたのです。
さらに血液中のナトリウム濃度が著明に上がり、それに対してナトリウムの入っていない輸液をひたすら投与され続けていたのです。
後半のナトリウムの話は、一般の方にとっては何がいけないのかよくわからない話だと思いますが、実はこの対応は大いに問題のあるマネジメントです。
その理由についてはやや難しい話になるので、いずれ別記事で触れるとして、
前半の「高カロリー輸液」+「持続インスリン点滴」の問題点はわかって頂けるのではないかと思います。
なぜならば、高カロリー輸液はたいていの場合、高糖質だからです。
逆に言えば、高糖質の高カロリー輸液を選んでいるからこそ、インスリンを持続的に使わなければならない状況に追い込まれている、とも言えます。
まさにマッチポンプ、患者さんにとっては自業自得ならぬ、他業他得とでも申しましょうか。
最後の砦どころか、「最後の試練」を与えられているようなものです。
自分で血糖値の上昇を起こしなおかつインスリンを注ぎ込む状況は、言うなれば代謝の嵐の状況です。
いろいろな要因があるでしょうが、私はその代謝障害が高ナトリウム血症の大きな要因になっていると考えます。
麻酔科医と言えば昔は憧れの存在でした。
しかし糖質制限の観点がなければ、そんなすごそうに見える医者であっても、
実はとんでもない治療をしてしまっている事があるのだという事を学びました。
さらにややこしいのは、上記の見解を麻酔科医に伝えたところで、
おそらくその麻酔科医は納得しないであろうという事です。
私なら高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を駆使しての全身管理を試みますが、
それを上申したところで私よりも相当ベテランの麻酔科医が受け入れるはずもなく、ただ単に角が立ち患者さんの益にもならないであろうと思います。
非常にもどかしい思いですが、ここは一歩引くしかありません。
やはり私が今できるのは、目の前の自分の患者さんに正しい情報を伝え続ける事だと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
日本における臨床教育の乏しさ
悲しい現実 しかし一歩ずつ
今日のエントリーを見て、先生の仕事の大変さや、最新の知識があるが故の苦しい状況を垣間見て胸が苦しくなりました。
でも、このブログの読者の皆さんは、たがしゅう先生のことを応援し信頼している人達です。
一歩一歩地道に積み重ねていきましょう。
カードを持ち歩く
私たちとしては、自分を守るために(高糖質の輸液を点滴されないように)、
『私は糖尿病なので、血糖値の上がる高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を使ってください』と書いたカードを血液型などと一緒に持ち歩き、家族にも説明しておくしかありませんね・・・
患者の意思ということで・・・
それが現実・・・
Re: 日本における臨床教育の乏しさ
コメント頂き有難うございます。
医療の最前線を走っていると思われる人でもこういう事を知らないのが実情なわけですから、
医療はイチからやり直しだ!と心から思いますね。
Re: 悲しい現実 しかし一歩ずつ
応援コメント頂き有難うございます。
私にできる事を地道に続けていきたいと思います。今後とも宜しくお願い申し上げます。
Re: カードを持ち歩く
コメント頂き有難うございます。
> 『私は糖尿病なので、血糖値の上がる高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を使ってください』と書いたカードを血液型などと一緒に持ち歩き、家族にも説明しておくしかありませんね・・・
アイデアとしては良いと思います。
問題はその自作のカードを、対応した医師が受け入れるかどうかですね。
世の中は柔軟ではない医師の方が多数派なので現実的には厳しいところがあるかもしれません。
Re: それが現実・・・
コメント頂き有難うございます。
今の医療情勢の中では、集中治療室に入るような事態になったら一巻の終わりです。そこで高糖質高カロリー輸液を受ける事はほぼ避けられないと思います。
まだ糖質制限が普及していない状況では、現実的には各人がそんな事態に陷らないように自衛していくしかないと思います。
岡山大学の報告
http://www.maneyonline.com/doi/abs/10.1179/1743132814Y.0000000371?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed#editorial
ウイルス脳炎の患者にプロポフォール投与等の手段でケトン食療法を行い劇的に改善しました。
プロポフォールはおそらく集中治療室で投与されたと思います。東京女子医大で何かと有名になったプロポフォールですが、こういった使われ方なら歓迎です
Re: 岡山大学の報告
情報を頂き有難うございます。
私と同じ、神経内科の先生の御報告のようですね。興味深いです。早速読んでみたいと思います。
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