栄養補給するのに栄養失調になる理由
2015/01/14 00:01:00 |
糖質制限 |
コメント:6件
先日の日本病態栄養学会年次学術集会において、
さまざまな話題が取り上げられていましたが、
その中の話題の一つ、リフィーディング症候群について考えてみたいと思います。
リフィーディング症候群というのは「re-(再び)」+「feeding(食糧を与える)」ということで、
慢性的な栄養不良状態が続いている患者に、積極的な栄養補給を行う事により発症する一連の代謝症候群の総称です。
この症候群を起こさないようにするために、飢餓状態から栄養を入れる時はゆっくり入れなければいけないということなのですが、
これは入れる栄養を「糖質」主体にするから起こってくる現象なのではないかと思います。 というのも、リフィーディング症候群のスタートは飢餓、すなわち当ブログでしばしば取り上げる断食状態です。
断食では急激にケトン体が上昇し、いわば究極的にケトン代謝に切り替わっている状況です。
そこにおいて、ケトン代謝と真逆の糖質代謝へ急ハンドルを切るという事に、
身体はついていけず、様々な問題を引き起こしてくるのではないかと思うのです。
またリフィーディング発症のメカニズムをみていると、様々な事に気が付きます。
まず飢餓状態が長く続けば、糖新生が亢進し、究極的には蛋白異化が起こります。
そのような状況にまで陥れば、水、ミネラル、ビタミンの欠乏にも次第に及んで行くことになるわけですが、
その状況で糖質を再摂取すれば、血糖値の上昇に引き続いて膵臓から大量のインスリンが分泌されます。
それによって細胞内へのグルコースの取り込みが増加し、エネルギーの元となるATP産生に利用されます。
またアミノ酸も摂取すれば、蛋白質の合成も促進され、この時に大量のリンが消費されます。
さらにインスリンはグルコースと共にカリウム、マグネシウム、そしてリンといったミネラルも同時に細胞内に取り込みます。
普通の状態からの糖質摂取であればまだしも、飢餓状態でミネラル不足がちの状況から糖質摂取してしまうと、
上記のメカニズムが加わって、カリウム、マグネシウム、リンの欠乏症状を生じます。
さらにビタミン欠乏状態から糖質摂取でビタミンB1大量消費してしまえば、一気にビタミンB1欠乏症に至ります。
その結果、栄養を補充しているはずなのに、余計に栄養が不足するという逆説的な事態が起こってしまうわけです。
先日紹介した「米だけを食べてやせた」という人も、まさに同じような状態になっていると考えます。
その影にはやはり代謝障害があります。例えばリンが重度に欠乏すると、
細胞内ATPと血球の2,3-DPGという物質の低下が起こる事によって、
筋肉、心臓、脳、呼吸器の症状をきたし、血液の酸素飽和度が保てなくなり、そして代謝異常をきたすという事がわかっています。
ただそれは糖質で栄養を補った時の話です。
もしもこれを脂質中心の栄養で補った場合は何が起こるでしょう。
もともと飢餓状態でケトン体質になっているところにケトン体の元である脂質が補給されれば、
インスリンを分泌したり、ミネラルやビタミンを消費させることなく、スムーズにエネルギーを得ることができるのではないでしょうか。
すなわちケトン食で再栄養を行えば、リフィーディング症候群は起こらないという仮説を私は考えます。
このことは断食後の回復食が糖質主体であってはならないという見解へとつながっていきます。
このリフィーディング症候群から学べる事はまだまだありそうです。
引き続き学んでいきたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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私のおすすめ回復食
豚皮揚げの会in静岡に参加した者です。
私はたまに2日~3日くらいのプチ断食をするのですが、回復食にはお刺身の盛り合わせ、豚しゃぶ、野菜スープなどをよく食べています。
中でもお刺身は一番のおすすめです。
抜群に消化が良いし、たんぱく質が熱変性していませんし、良質な脂質も摂取できるし、ビタミン、ミネラルも豊富だし、なんといってもおいしい!
最近では1月6日~7日に胃腸を休めるためにプチ断食したのですが、いいお刺身が売っていなかったので、何故か回復食に身欠きにしんとトンコツスープを食べました(笑)
もちろん何の問題もなく調子良かったです。
実は昨年11月から食べたものをすべて記録するブログを始めました。
最近あまりちゃんと糖質制限をやっていなかったので、記録することで反省したり、食事を見直したり、またライフログとしての性格もあります。
他人が見てもまったく面白くありませんが、よろしかったら覗いてみてください。
きのっぴの食事とか
http://kinoppi.hatenablog.com/
Re: 私のおすすめ回復食
コメントを頂き有難うございます。
また回復食に関する貴重な御意見も有難うございます。
レコーディングも素晴らしいですね。食を見直すと新たな気づきが出てくる事もありますよね。参考になります。
はじめまして
糖質制限でたどり着き、閲覧させていただきました。
いきなり質問で恐縮なのですが、ブログ内にある
「インスリンはグルコースとともにカリウム、マグネシウム、リンなどのミネラルを細胞に取り込み……ミネラル不足がちの状況で糖質を摂取をすると上記メカニズムが加わってカリウム、マグネシウム、リン欠乏を生じる」
について、ミネラルが細胞内に取り込まれることでなぜ欠乏してしまうのでしょうか…?
細胞内に取り込まれることで身体がそれを使えるようになると思っていたので、少し混乱しています。逆にミネラルを身体が使うには細胞内に取り込まずに、どのようにしたら使えるのでしょうか…
知識不足で申し訳ありません。
お時間ありましたら、回答いただけると幸いです。
Re: はじめまして
御質問頂き有難うございます。
> ミネラルが細胞内に取り込まれることでなぜ欠乏してしまうのでしょうか…?
なるほど。確かに説明不足でした。
普通、カリウム、マグネシウム、リンなどミネラルの量を測定するのは血液です。血液というのは細胞の外ですので、それらのミネラルが細胞内に取り込まれる事で「細胞外のミネラルが欠乏する」という意味です。
細胞内にミネラルが過剰に取り込まれれば、その一方で細胞外はミネラルの枯渇状態となってしまいます。ミネラルというのは単に細胞の中にたくさんあればよいというものではなく、中と外と両方に絶妙なバランスで存在する事が重要なわけです。そうする事で酸塩基平衡や浸透圧など様々な生命活動に重要な仕組みを保っています。
概要は理解できましたが、色々と考えすぎて難しいです。笑
「カリウム、マグネシウム、リンなどミネラルの量を測定するのは血液です。血液というのは細胞の外ですので、それらのミネラルが細胞内に取り込まれる事で「細胞外のミネラルが欠乏する」という意味です。」
例えば食事からのミネラルが細胞内と細胞外にいくのは決まって何対何とかの割合があるのか、ある条件で細胞内や細胞外に行くのか…ここらへんのメカニズムはどのようになっているのでしょうか…?
質問ばかりですみません。お時間ございましたら、よろしくお願いします。
Re: タイトルなし
御質問頂き有難うございます。
> 例えば食事からのミネラルが細胞内と細胞外にいくのは決まって何対何とかの割合があるのか、ある条件で細胞内や細胞外に行くのか…ここらへんのメカニズムはどのようになっているのでしょうか…?
御指摘のように各ミネラルで細胞内と細胞外でのはほぼ一定の割合になるよう調節されています。
たとえばナトリウムなら細胞外には140mEq/L程度、細胞内にて15mEq/L程度になるよう調整されています(※単位の説明はややこしいのでここでは省略します)。
またカリウムなら細胞外には4mEq/L程度ですが、細胞外は150mEq/L程度です。
その他のミネラルにもそれぞれそうした違いがあって、それらトータルでバランスがとれるようにできています。
そしてこの割合を一定に保つためのシステムは複数あります。
たとえば摂食や飲水行動、腎臓による利尿調整、体液調整ホルモン、自律神経などです。
そしてそれらが複雑に関わりあって、恒常性(ホメオスターシス)を保っているのが生物としてのヒトです。
よく血液中のナトリウム濃度が低いと、「塩分が足りない」と言って塩分摂取を勧める医師がいますが、事はそう単純ではないのです。もしかしたら腎機能障害もあるかもしれないし、自律神経失調もあるかもしれません。
この話からも、人体をトータルでみる視点がいかに重要かという事がうかがえると思います。
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