ランナーと栄養士の認識の差
2013/10/12 10:17:32 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:8件
かんな さんよりカーボローディングに関する情報提供を頂きました.
カーボローディングについでですが、10月10日発売の
「Number Do」
http://number.bunshun.jp/subcategory/numberdo
に、大変面白い鼎談が載っています。
「カーボローディングは必要か」
冒頭は大会前のカーボローディングは当然という内容ですが、次第に鏑木毅氏が100マイルトレイルランのために体脂肪をメインに使う身体を作っているという話になっていますので、ぜひご一読をお勧めします。
かんな さん,どうも有難うございます.
早速雑誌を購入し,内容を読んでみました.今回はこの内容について考えてみます.
鼎談に登場するのは,
・鏑木毅 氏:1968年生まれ,トレイルランニング選手(※舗装路以外の山野を走る).
・金哲彦 氏:1964年生まれ,プロランニングコーチ.
・関根豊子 氏:1972年生まれ,公認スポーツ栄養士
の3名です.
さて,まずはその内容を抜粋して紹介致します.
~以下,抜粋~
(前略)
金:最近,市民ランナーのなかでカーボローディングや食に関心を持つ人が増えているな,という実感があります.
鏑木:僕らから見ても,マニアックなぐらいの知識を持っている人もいますよね.
金:関根さん,走ることに必要なエネルギーに関して基本的なことを教えてもらえますか?
関根:はい.走るときのエネルギー源は,大きくわけて糖質と脂質にわかれます.
糖質は消化吸収された後,グリコーゲンとして肝臓と筋肉に貯えられます.そのグリコーゲンをより多く筋肉や肝臓に貯えるための食事法が,ご存じカーボローディングで,いくつかのやり方があります.ポピュラーなのが”リバウンド”を利用する方法.筋肉中のグリコーゲンをいったん使い切るために,レース1週間前から運動量はキープ,または抑えつつ,糖質を減らした食事を3日ほど続ける.グリコーゲンが枯渇して飢餓状態になったレース3日前から糖質を多めに摂るんです.
(中略)
鏑木:これはあくまで個人的な感覚なのですが,糖質を使って走っている時は,走りが不安定な気がするんです.ドンとアクセルを踏むとスピードは出るけれど,すぐに失速する感じ.でも脂肪を燃やして走ると,ふわっとした感覚でずっと走り続けられる.マラソンに比べ,トレランの方が絶対的にスピードが遅いから可能なのですが,体脂肪を使うと,出力が一定の状態で安定するんです.
関根:そこは科学的に説明がつかな……いや,つく?うーん…….でも,興味深いです.
金:いや,僕らは科学的にやっているつもりなんだけど……(笑).自らもサブ3ランナーの福岡大・田中宏暁教授が提唱する,脂肪燃焼のための運動強度は「ニコニコペース」.これは完全有酸素運動のことです.人と笑顔で話せるぐらいの強度が目安で,そのペースだとエネルギー源として体脂肪が優先的に使われているといわれています.
鏑木:僕らはそのニコニコペースのレベルをどんどん上げていくわけです.心拍数を管理して,LT値(パフォーマンスに影響を与えるレベルの乳酸を発生するポイント)以下の運動強度が目安です.
(中略)
金:人類の原点に近いですね.人間はかつて飢餓状態にあったので,もともと,何日も食べなくても運動し続けられるようにできている.鏑木さんはその失われた能力を取り戻そうとしているわけです.
関根:人類の進化と逆行していると(笑).
鏑木:でも決して最初からできたわけではありません.昔はハンガーノック(ガス欠)になることも多かったですが,少しずつ変えていったんです.体質改善を始めて5年くらいですが,速くなったというより疲れにくくなった.日常生活でも,感情の起伏が少なくなりました.
金:年のせいじゃない(笑)?でもそれって,統合失調症の治療法になりうるかも….
関根:今流行りの糖質制限ダイエットでも,似たようなことをおっしゃる先生がいます.砂糖のように激しく血糖値を上下させるものを多く食べていると,攻撃的な性格になるとか.
鏑木:徐々に,糖質を摂らなくてもストレスを感じなくなります.食べたいのに我慢するのではなく,食べたなくても普通でいられる.
関根:アスリートらしくないと受け取られそうですけど(笑).
金:カロリーが低いわけではないですよね?
鏑木:低くないです.脂質を摂っているし,決して小食ではありませんから.
金:睡眠は必要なタイプですか?
鏑木:かなり眠らないとダメです.何があっても8時間は絶対に寝ますし,眠りが深い.妻から「おかしくない?あなたの年齢なら普通は5~6時間なのに,ひどい時は10時間ぐらい寝ているよね」と言われます(笑).
関根:10時間走って10時間寝る(笑).
金:睡眠・栄養・運動のバランスが大事だといわれるけど,鏑木くんは睡眠ですごく回復できる身体になっているのかもしれないな.すごいけど,納得できました.
関根:鏑木さんの体質改善のお話を対談の前にうかがっていて,人間の代謝経路がそんな簡単に変わるのかな?と疑問を持っていたんです.でも.お話を聞いてわかりました.適正な強度で動いて脂肪を燃やしていて,そのレベルが高いんですね.ああ,よかった鏑木さんが人間で,と思いました(笑).
(後略)
~抜粋,ここまで~
トップランナーの鏑木選手は結果的に糖質制限を実践して,競技に様々な好影響をもたらしていることが紹介されています.
コーチの金氏はその内容を理解し納得されていますが,一方でスポーツ栄養士の関根氏は驚きの反応を示しながら最終的には特殊な鏑木さんだからこそなせた業だという評価をされているようです.
両者の理解度には差があるように思えます.この差はどこから生じているのでしょうか?
それは「糖質にどれほど重きを置いているか」ということによると思います.
『糖質がメインのエネルギー源で,脂肪がバックアップシステムだ』と考えている人は,脂肪だけでパフォーマンスが向上している人の体験談を頭の中で理解することができず,そのためそれは特殊例だと処理してしまうのだと思います.
その点,そのような考えにこだわりがない人の場合は理解はスムーズです.金氏の『人間はもともと何日も食べなくても運動し続けられるようにできている』という発言はまさに的を射ています.
だいたい,少々の飢餓でいちいちパフォーマンス低下に陥ってたりなんかしてたら,医療がろくに発達していない薬も何もない太古の時代から人類が生き延びられてきたはずがないのです.
要するに「間違った栄養学」が実際に起こっている現象の理解を邪魔してしまっているのだと思います.
私に言わせれば,鏑木選手の体験談は特殊でもなんでもありません.糖質制限の理論を用いてきわめて合理的に説明することができます.
脂肪を燃やせているのは,適切な運動をしていてレベルが高いからというのが主たる理由ではありません.まず糖質を控えているから脂肪が燃えているのです.つまり糖質を控えれば,誰であっても人間の代謝経路は変わります.
なお,睡眠の話も興味深いですね.
糖質制限実践者の睡眠に関する報告を聞いていると,「あまり寝なくてもすっきり起きられる」という人と「ぐっすり熟睡できるようになった」という人のパターンがあることに気が付きます.
私自身はどちらかと言えば熟睡パターンですが,糖質を制限してケトン体をうまく利用できる体質に切り替わったらその日の運動量に応じて睡眠の質が自然に調節されるということがあるのかもしれません.
すなわち,そんなに運動していない日は短い睡眠でも回復できるし,しっかり運動した日は鏑木選手のようにぐっすりと深い睡眠が必要だと体が自然に要求するようになるのではないかと思うのです,
そういう自然な姿に近づくということも糖質を制限する(本来の食生活に近づく)ことの大きなメリットであると思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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Re: No title
コメント有難うございます.私も同感です.
No title
自分もアマチュアサイクリストなのですが、カーボローディングというのは難しい、下痢になったりまあ消化器官にダメージが与えることが多い印象です。というかそういうある種のむちゃ食いができる人しかスポーツマンとしての適正があるとみなされない可能性もあります。
この栄養士さんは頭でっかちでご自分でスポーツをなされていないのでは?糖質制限を認めない糖尿病専門医の方々も臨床経験が少ないそうですね。
またプロスポーツ選手の燃え尽き症候群や破産、セカンドキャリアの失敗、躁うつ病、最悪の場合殺人や自殺に至るというのも糖質摂取の問題が絡んでくる気がします。
Re: No title
いつもコメントを頂き本当に有難うございます。
スポーツ選手の実体験から得られた貴重な経験が、誤った栄養学によって捻じ曲げられてしまっているのですね。ここを抜本的に見直せない限り、スポーツ医学の発展は危ういと思います。
> プロスポーツ選手の燃え尽き症候群や破産、セカンドキャリアの失敗、躁うつ病、最悪の場合殺人や自殺に至るというのも糖質摂取の問題が絡んでくる気がします。
賛同します。私も精神症状と糖質の過剰摂取には密接な関連があると考えています。
初めまして
プチ糖質制限から始めて2年近く、1年前に5時間糖負荷検査を受けたところ食後高血糖と低血糖症を起こしていることが判明し、それ以来血糖値を測定し糖質の摂取量をコントロールしています。
以前はフルマラソン前にカーボローディングをしていましたが、食後高血糖がわかってからやめて2回フルマラソンを走りましたが全く問題ありません。周囲のランナーは非常識?と思っているかもしれませんが。逆に血糖値が安定するのでレース後半になっても判断力などが低下しません。
以前50キロ競歩の元五輪代表になった園腹さんという方の本(2008年の本なので、まだ糖質制限があまり知られてない頃ですよね)http://www.amazon.co.jp/dp/409387817X
にも書いていましたが、自分が現役時代の実体験も交えて、カーボローディングは不要。現代は意識しないと気づかないうちに加工食品などから糖質を多く摂る食事になってしまい、糖代謝能力だけがアップして脂質代謝能力が向上しないというようなことを書いていました。
これを読んで私のしていることは間違ってはいないと思いました。ただ運動量に応じて高血糖を起こさない程度の未精製の炭水化物は朝や長距離練習の後に摂るようにしています。
鏑木さんみたいな有名な人が雑誌でそんな話をしたということは真似する人が出て来て、そのうち常識が変わってくるかもしれませんね。
Re: 初めまして
コメントを頂き有難うございます.
> 自分が現役時代の実体験も交えて、カーボローディングは不要。
実際にアスリートの方がカーボローディング不要と言って下さる方が,私が言うよりも百倍説得力があります.
常識を疑い,自分で実践してみた者だけがその結論を導き出せるのではないかと思います.まさに大事なのは「自分で考える力」ですね.
No title
なんでも、糖質のせいにしがちですけど、
実証されてない部分まで、糖質を悪者にするのはやめた方がいいですよ。
Re: No title
率直な御意見を頂き有難うございます.
> 実証されてない部分まで、糖質を悪者にするのはやめた方がいいですよ。
確かに実証されきれていない部分はあるかもしれませんが,それでも私は恐れず仮説を世に出していきたいと考えています.
なぜなら実証されていない事の中からこそ,新しい考えは生まれてくるからです.
また,何もむやみやたらに糖質のせいだと決めつけているわけではありません.ある程度の根拠を持っていつも仮説を提示しています.
そしてその仮説が日の目を浴びる事によって,より洗練されていくと考えています.
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