眠れているのに「眠れていない」
2014/12/19 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:6件
たまに認知症の方の入院精査を受け持つ事があります。
先日私が受け持ったのは70代の男性でしたが、
10年前に大腸の手術で入院した時に、
何らかの理由でアリセプトという抗認知症薬が処方され、
以後やめたり飲んだりで、この薬を10年来飲み続けておられるという方でした。
ただ、近年家族に暴力を振るったり、被害妄想が出てきたりと様子がおかしいとの事でした。 アリセプトという薬には衝動性が高まる副作用があるので、
この患者さんにアリセプトが合っていないという可能性が高いと思います。
もしかしたら飲んだり止めたりしていたのも、飲むとおかしくなる自分が何となく分かっていたのに、
患者さんの生活が見えていない医者に、「まあいいから飲みなさい」などとなだめられながら
しぶしぶ飲み続けていたのかもしれません。
この患者さんに関してはもう一つ気になる事がありました。
実は2年くらい前から不眠を訴えるようになり、近くの精神科にも通院されていました。
そこでどのような指導を受けたのかはわかりませんが、
私のもとに来られた時には2種類のベンゾジアゼピン、抗てんかん薬、鎮静薬と実に計4種類もの向精神薬が入っていました。
何だか不眠を訴え続ける患者さんに次から次へと向精神薬を重ねていく精神科医の様子が目に浮かぶようです。
しかもこれだけ薬を飲んでいるにも関わらず、患者さんは「まだ眠れない」というのです。
向精神薬の多剤内服が認知機能にも悪影響を与えていると考えた私は、
辛いかもしれないけど、この入院中にできるだけ睡眠薬を減らしましょう、と患者さんに提案しました。
幸い患者さんには趣旨をご理解頂けたので、
離脱症状に注意しながら、ゆっくりと薬を減らしていく事にしました。
あまり急に減らしすぎると、反跳性不眠といって強い不眠症状を訴える事があるからです。
その点、入院中なので看護師に協力を仰ぎながら注意深く観察する事にしました。
減薬からまもなく患者さんはやはり不眠を訴えられましたが、
それは予想の範疇だったので、その都度なだめながら減薬を続けていきました。
ところが興味深い事に、眠れていないという日の夜の様子を看護記録で確認してみると、
はたから見る分にはどう見ても眠っているように見えるという記録が続いているのです。
これは眠っているのに熟眠感がない、すなわち睡眠の質が悪いという事を表していると思います。
特にベンゾジアゼピンは脳の働きを強制的にシャットダウンさせるような薬なので、認知機能が落ちても全く不思議ではありません。
睡眠薬での眠らせ方というのは、こういう事なのだという事を改めて考えさせられます。
今ある不眠の原因にアプローチすることなく、
いたずらに睡眠薬を使い続ける事は、
短期的にはよくても、長期的には幸せは待っていません。
目先の不眠にとらわれずに、糖質や薬のような有害なものを抜いていくという発想を、
伝え続ける意義は大きいと私は考えています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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うつの娘も同じことをいう
少なくとも私よりよく寝ております。グリシンを試したり(効果はありました最初だけ)運動に付き合ったりとしましたが鬱の薬をまだ服用中なのでか 眠れないといいます。
睡眠薬を飲むと今度はなかなか起きれません。でもあまり眠れなかったといいます。
そこで今 副腎ホルモン?かな・・そこを疑って色々調べております。体内時計をなんとか・・・色々調べておりますとやはり糖質が問題視されます。
糖質制限・・奥深いなぁと只今つくづく感じております。
薬の副作用がさらなる薬の処方を生むという悲劇(喜劇)
この文章の内容・経過だけ読んで判断する限りではこのケースは睡眠薬云々以前の問題です。おそらく不眠を含めた精神症状の原因は抗認知症薬のドネぺジルでしょう。この薬は長期に内服すればするほど精神に異常をきたすはずです。
特にアルツハイマー認知症でない患者に誤って処方された場合はそれが顕著です。不眠もドネぺジルを中止しない限りは改善するわけがないです。
興奮して眠れないのもドネぺジルを連用している患者によくみられる事です。一番問題なのはドネぺジルのような薬を認知症でもアルツハイマーないのに単なる加齢やストレスによる物忘れを訴えただけの患者に安易にホイホイ処方してしまう不勉強な医者が非常に沢山いるという事実です。
ドネぺジルで処方された患者が易怒・興奮・不穏になって、さらにリスペリドンなどの沈静剤や睡眠導入剤が追加処方されるというマッチポンプのようなバカバカしくて間抜けな処方で笑うのは製薬会社だけです。そういう処方を超一流大学病院の講師クラスが普通にしていた事に驚きを隠せません。呆れるばかりです。
メラトニン
63歳の内科開業医です。
平成23年の6月からスーパー糖質制限を続けており、患者さんにも奨めています。
睡眠障害に対しては私自身、5年前にメラトニンの内服を開始して現在に至っております。
脳の松果体から分泌されるホルモンですが、加齢により減少していき、50歳を越えると急激にゼロに近づいていきます。
睡眠障害が、初老期うつ病や記銘力低下、さらには認知症の危険因子と考え、自分自身で治験を始めたのです。
結果は十分に満足のいくものでした。
毎晩ウィスキーで深酒をする私ですが、メラトニンを11時半に服用するようにしてからは、1時までには眠りについてしまいます。
それ以前は毎晩2時過ぎまで飲んでおりましたので翌日の仕事に差し障りが出ていたのです。
外来ではベンゾゾアゼピン撲滅運動に取り組んでおります。
代わりとしてメラトニンを、こっそりと実費でお渡しして、ロゼレムあるいはツムラの抑肝散をかぶせるような処方を実施し、そこそこの成果を手に入れております。
欧米ではドラッグストアで簡単にゲットできるメラトニンですが、何故か日本では未承認です。
アメリカからネットで購入するしかないのがネックですが、そうするだけの価値はあると断言できます。
Re: うつの娘も同じことをいう
コメント頂き有難うございます。
糖質制限をはじめ、眠れない原因を取り除くという「マイナスの発想」が大事です。
睡眠薬でもサプリメントでも、あるいは寝酒など眠れるための「プラスの発想」は一時的には良くても根本的な解決には至らないと思います。
Re: 薬の副作用がさらなる薬の処方を生むという悲劇(喜劇)
コメント頂き有難うございます。
> ドネぺジルで処方された患者が易怒・興奮・不穏になって、さらにリスペリドンなどの沈静剤や睡眠導入剤が追加処方されるというマッチポンプのようなバカバカしくて間抜けな処方で笑うのは製薬会社だけです。
同感です。
私は、医師にとって大事な資質は謙虚な気持ちだと思っています。
自分の出した薬のせいで患者さんが苦しんでいないかどうか、そう思えない医師は次々と過ちを繰り返し事実に目を向けません。
そうならないように驕らず、常に自省する事を忘れないようにしていきたいです。
Re: メラトニン
はじめまして。コメント頂き有難うございます。
先生のように御自身で実践されて効果を確認し、患者さんに勧めるという姿勢は素晴らしいです。
メラトニン興味深いですね。私も勉強させて頂きたいと思います。
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