そんな事をしても何もならない

2014/12/14 00:40:00 | ふと思った事 | コメント:2件

医師として患者さんの血圧管理をするときに、

家庭血圧を把握するという事は非常に重要な事です。

なぜならな診察室での血圧と家で測る血圧の値はしばしば食い違うからです。

診察室では無意識のうちに緊張感が出て、交感神経優位となって血圧が高くなりがちです。これを「白衣高血圧」といいます。

一方診察室では血圧は正常だけど、家では血圧が高いという状態もあります。これを「仮面高血圧」といいます。

いずれにしても、家庭の血圧を測らない限り、たとえどんな名医であっても適切な血圧管理はできないという事になります。

よって私も普段の診療において多くの患者さんに家庭血圧を記録するように求めています。 比較的よくあるパターンは家庭血圧は120-130/60-80mmHg程度で安定しているけれども、

診察室で測ると160-170/90-100mmHgと高くなってしまう「白衣高血圧」パターンです。

ただこの間、そのように家庭血圧が良好にコントロールされているにも関わらず、脳出血を起こしてしまった、という方がおられました。

しかしそれは通常血圧が120程度に抑えられていればあまり考えにくいことです。

その時私はふと思いました。患者さんを疑ってはいけないのですが、

その患者さんは実際には家庭血圧がもっと高い値だったのに、

もしかしたら本当の家庭血圧を書いたら医者に怒られるのではないかと思って、

実際の家庭血圧より低い値を自己申告していたのではないかという気がしたのです。

私の思い過ごしであればよいのですが、もし私のその邪推が当たっていたと仮定した場合、

医師患者関係が破綻しているばかりか、

その患者さんにとって何も得することはないという事になります。

医師の立場で言えば、そんなウソは決してついてほしくないのです。

それをされると家庭血圧を測っていないに等しいか、あるいはそれ以上に有害な行為になりえ、

どうやってもそれを軌道修正する事ができなくなってしまうからです。


同じようなことは糖質制限指導の現場でも感じる事があります。

私は日常診療で糖質の害がいまいちピンと来ていない人に、「白米茶碗1杯=角砂糖17個分の糖質」の画像を見せます。



その時の反応は大きく「驚く」か「さらっと受け流す」の二種類に別れる事が多いのですが、

後者の反応を示す人は、その後たいてい「でも私はごはんはそんなに多く食べていないですよ」とか、

「私は茶碗にほんの少ししか食べていない。その茶碗より小さいくらい。ほんのちょっと。」などと、

自分がいかに少ない量を食べているかという事をアピールされます。

しかしいくら私に少ない事をアピールしようと実際に食べている量が真実、量が多ければ結局糖質の害を受け続ける事になります。

私をごまかしたところで何の得もないというのに、

仮に少ない量を食べていたとしても、たとえ本当に半分であったとしても角砂糖8-9個分の糖質の影響を受けている事になるというのに、

その事を意識することなく、自分が問題ないという事を医師にアピールし続けるのです。


こうした医師に真実を隠したまま申告するという行動があるのは、

その患者さん本人の問題というよりは、文化的な背景が大きいと私は考えています。

すなわち、長年かけて形成された医師の患者に対するパターナリズムです。

医師には自分が良い患者であると見られたい、あるいは叱責を受けるのを避けたいという無意識下における感情が、

いつの間にか植えつけられてしまっているのではないかと思います。

本来は何も気兼ねなくありのままの自分の状態を医師に申告し、それに対して医師ができる限りのアドバイスを行う、

そうした当たり前の医師患者関係を築くことが、

すべての始まりになるのではないかと思います。


たがしゅう
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コメント

No title

2014/12/14(日) 22:01:51 | URL | SLEEP #mQop/nM.
たがしゅうさん

私の家族も、TVに出るような医師やエライ教授が嘘や間違いを言うはずがない、高潔で物凄く立派な方々だと信じてますね。学問上の業績と人格は別々に評価だと思うんですけどね。
医療ができるのはせいぜいアドバイスと体の整備、車のディーラーと別に変わらないぐらい思ってる方が健全な気がします。

Re: No title

2014/12/14(日) 22:27:31 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

> 私の家族も、TVに出るような医師やエライ教授が嘘や間違いを言うはずがない、高潔で物凄く立派な方々だと信じてますね。
> 学問上の業績と人格は別々に評価だと思うんですけどね。


 そういう事ですね。私は自分が医師だから、医師たるものがどのようなものかがよくわかっています。

 少なくとも私の知る限り、立派な医師はごくごく一部です。

 2013年10月30日(水)の本ブログ記事
 「お医者様」なんて思わないで
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
 も御参照下さい。

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