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不定愁訴の訴えは信頼の証
はっとさせられる言葉を投げかけられる事があります。
50代女性で原因不明のめまい、ふらつき、嘔気、頭痛で神経内科受診された患者さんの話です。
この方更年期の状況もあいまって、ストレスの多い生活をされていたようなのですが、
精査の結果、左椎骨動脈解離(血管の内側の膜が裂ける状態)の疑いがある事が判明しました。
それで脳血管障害外来を担当している私のところにある日回ってきたというわけです。
軽い肥満も呈している方だったのですが、私はこの方の病態を次のように考えました。
更年期に伴うエストロゲン欠乏が背景にあり、肥満を起こしやすくなり、
またストレスにも対抗しにくくなり常に交感神経過緊張状態が続き、肥満もあいまって血圧が常時高い状況が続き、
血管にも負荷がかかり続けて、ある時椎骨動脈の内膜が避けたのではないかと思いました。
そうなればまず糖質制限で肥満を解消しつつ、
枯渇したエストロゲンを少しでも補充すべく、脂質をしっかり確保するようにして、
さらにはストレスに対抗できるように神経伝達物質のセロトニンの材料であるアミノ酸、トリプトファンを確保すべくタンパク質をしっかり確保し、
そうすることで血圧をコントロールし、ストレス耐性をつけるという治療方針を基本におくべきだと考えました。
この方糖質制限の受け入れが非常に良い方で、
自分の症状がよくなるためならば何でもやってみたいという、
チャレンジ精神というか、なんでも疑わずにとりあえずやってみる、という精神の持ち主でしたので、
さほど間をおかずして、十分な糖質制限を実践してくれました。程なく血液検査でケトーシスも確認できました。
糖質制限により血圧も下がり、体重もすみやかに正常化し、頭痛の方も程度・頻度ともに改善傾向となりましたが、
しかし軽い頭痛とふわふわする感じは糖質制限から数ヶ月経過してもおさまることなく続いていました。
何より以前に比べて明らかに改善しているというのに、患者さんはそのことをあまり喜ばず、今ある症状に対する様々な苦しみを述べ続けるのです。
この方の不安が取り切れていないのだと私は感じました。
そこでこの方の不安を取り去るべく、苦肉の策ですが加味逍遥散という漢方薬を併用したりも試みるのですが、
少し良い印象はあるものの、やはり不満を訴え続けられます。
そんなある日、患者さんが私にこう言ったのです。
「たがしゅう先生の事ではないんですが、
私がいろいろな症状を訴えると、それはうつ病のせいです。とか言われて精神科に行くよう勧められるんです。
私はできるだけ薬に頼りたくないから行きたくはないんです。
でも私の中の症状をすべて話すと、いつもそういう風に言われるから、私は症状にウソをついて話すようにしていたんです。
そうすればきちんと診てもらえるんじゃないかと思って。でもそれは違うとわかりました。」
なんということでしょうか。
患者さんは医者の反応を恐れて自分の症状にウソをついていたというのです。
こうなると医師患者関係は最初から破綻していると言わざるを得ません。
一般的に多くの愁訴を訴えられる患者さんに対して医師は、「医学的に説明できない」などと称して精神疾患のレッテルを貼る事がよくあります。
しかし多愁訴が混在する事はおおいにありえることです。特に自律神経の機能が障害された時にそれは往々にして起こることだと思います。
患者さんの訴える言葉は基本的に真実です。それが過大評価になったり過小評価になったりすることはあれど、その症状はあると判断すべきです。
「安易に精神疾患のせいにしない」ということは、もはや医療の鉄則とすべき大原則ですが、
実際にはその大原則が守れていない状況が多いということではないでしょうか。
この患者さんが私にさまざまな不安をぶちまけてくれたのは、
ある意味私を信頼してくれていたことの裏返しだったのかもしれません。
その証拠に、診察の終わり際に患者さんは「いろいろしゃべれてすっきりしました」とおっしゃってくださいました。
この患者さんが、不安から開放される事を心から願います。
たがしゅう
コメント
心療内科で、8年。
(大変にストレスのかかる職種ではありました。)
8年間も腹痛の持病が治らず、内科、整形外科、心療内科に通い続け、ある日、再三の急性腹痛で救急受診した一見の先生に腹痛原因を見立ててもらえ、翌日手術をして、完治しました。
原因は消化器の先天的な疾患(欠損)でした。
長い間本当の原因を見つけてもらえず、いつ発症するともわからない腹痛リスクを抱えていたら、精神的にも追いつめられちゃうだろう、と思いました。
8年間も精神疾患のせいにしていた先生たち、出て来ーい!!!とは、ジェントルマンのご本人は決して言いませんが、内科、心療内科の通院を円満に終わらせたのは言うまでもありません。
2014-12-13 10:38 エリス URL 編集
めまい、ふらつきは心身症にされやすい
椎骨動脈乖離は外来では非常に多いですが、ほとんど見逃されていると思われます。MRI検査でB-PASS/MRAを撮影すればすぐわかるのですが、最初からそれと疑う知識がない脳神経外科・内科医が多すぎるのが現実のようです。
腕立て伏せ、テニス、腕相撲などで頸部の激痛が誘発される比較的わかりやすいケースですら診断できていない事が少なくないようです。
中高年女性のめまいは椎骨動脈系に原因がある事が多いようで、高血圧や肥満が誘因になりやすいようですね。
いずれにしても外来診療をやっていると、ロクに問診も診察もされずに前医から心身症扱いされているケースは少なくないようです。それが現状ですかね。
明らかな小脳失調症+脳梗塞後遺症の方で某有名大学病院の神経内科をめまいふらつきを主訴に受診したのに「心身症だ」と言われた不幸な患者もいました。
大病院の外来というのはまともに問診も診察もしない医者が多い。
心身症だとSSRIとか処方されてさらにおかしくなるのでしょうね。賢い患者はそれを阻むためにウソをつくしかないのですが。
2014-12-13 15:13 アンチスタチン主義 URL 編集
Re: 心療内科で、8年。
コメント頂き有難うございます。
糖質制限が万能ではないという事を考えさせられるコメントでもありますし、
安易に精神科へ回す医師に対しての戒めのコメントでもありますね。参考になります。
2014-12-14 00:52 たがしゅう URL 編集
Re: めまい、ふらつきは心身症にされやすい
コメント頂き有難うございます。
患者の立場からすれば、いろいろな愁訴を言えば言うほど心身症扱いされてしまうという、非常に考えさせられる言葉でした。
逆に言えば医師にそうした多愁訴の本質を見抜く力がない事の裏返しなのかもしれません。
2014-12-14 01:01 たがしゅう URL 編集