私は人の名医たりえない
2014/12/07 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:2件
思い込みというのは怖いものです。
この間、とある患者さんに補中益気湯という漢方薬を処方したのですが、
この薬によるアレルギーを起こしてしまったのです。
以前も紹介しましたように、補中益気湯は胃の弱い人の食欲を高める漢方薬で、
自律神経機能を改善させたりと様々な効能が報告されている使いやすい漢方薬というイメージを私は持っていたのですが、
実はこの患者さんは逆に胃の痛みを感じ、食欲がなくなるという症状を訴えていました。
しかし私は補中益気湯の持つ良いイメージにとらわれ、
しばらくこの患者さんの苦しみに気づいてあげる事ができませんでした。 漢方と言えど、薬は薬、副作用が起こりうる事は頭ではわかっていたつもりですが、
実際にはいざこういう事が起こって初めて気が付くという始末です。
自由に考えているつもりでも私自身にもまだまだ思い込みがあるるのだと、大いに反省すべき出来事でした。
また、この出来事を通じて私は思いました。
私は常々「体調は最良のバロメータ」だと思っているのですが、
この体調というのを感じられるのは、当たり前ですが自分だけです。
私がたとえどれだけ糖質制限に精通しても、どれだけ漢方を極めても、
あるいは知りうる知識の髄を尽くして診療に当たったとしても、
私はその人の体調をその人以上に知りうる事ができない以上、
私はその人にとっての最良の名医たりえないと思います。
逆に言えば、最良の名医たりえるのはその人自身しかいないのではないかとも思います。
誰しも、自分が病に苦しんでいるときに、
名医と呼ばれる人に頼りたいという気持ちはある事でしょう。
実際、名医と呼ばれる人は確かに存在しますし、
その名医が言っている内容は筋が通っていて、この人に従っていれば間違いないとさえ思うかもしれません。
しかしどんな名医であっても、その人の体調のすべて知る事はできません。
だから私が患者の立場に立った時に理想だと考える形は、
名医と呼ばれる医師のメッセージはあくまで参考に留め、
そのメッセージをどう利用するかを自分の頭で考えて、試行錯誤を繰り返して、自分の体調に併せてカスタマイズしていくこと、
そうする事で自分にとって最良のオーダーメイドな治療を組み立てていく事ができるのではないかと思います。
そしてそれができるのは他ならぬ自分自身しかいません。
「盲信せず考え続けよ」
これは今の私自身に向けてのメッセージです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
医者は単なる傍観者
そうですね。たかだか5~10分、長くても30分の診察と問診でその患者の何がわかりますか?ほとんど何もわからないのではないでしょうか?人体は同じ病気でもすべて十人十色。処方する前から目の前の患者に合う薬がわかる超能力のある医者など存在しません。同じ患者でも体調は時々刻々と変化しますので、ある時期に効果のあった薬でも、1ヶ月後は効果が続くかわからない。人体で起こっている事は自然現象なので、宇宙や地球環境を予測するような難しいものです。昨今の不安定な天気を予報するのが難しい気象予報士よりも難しい事です。
漢方薬であれ西洋薬であれ、薬と名の付く物はすべて人体にとって異物です。異物を排除しようとする生体反応の方が健康的だとも解釈できます。薬だけでなくて食事も異物になりつつある昨今ですから。とにかく医者も患者も薬を過信しない事です。体に合わなければすぐにやめたらいい。ただそれだけです。医者は単なる傍観者にすぎないですし、漢方薬も薬局で普通に買えますから。
Re: 医者は単なる傍観者
コメント頂き有難うございます。
> 人体で起こっている事は自然現象なので、宇宙や地球環境を予測するような難しいものです。昨今の不安定な天気を予報するのが難しい気象予報士よりも難しい事です。
わかりやすい例えですね。その通りだと思います。
よく勉強した患者は、刻一刻と変わる自分の体調に併せて自分で軌道修正をかける事ができる分、名医のアプローチを上回ると思います。
ポイントはその軌道修正の手段を、基本的に薬に頼らないスタンスを持つという事ですね。
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