免疫異常に対しどう立ち向かうべきか
2014/12/06 00:30:51 |
素朴な疑問 |
コメント:4件
多発性硬化症という神経難病があります。
先日、この病気の最新治療に関する勉強会に参加して参りました。
多発性硬化症というのは、脳や脊髄といった中枢神経に「脱髄」という現象が起こり、神経の伝わり具合が悪くなり、
その結果、麻痺やしびれ、視力障害や歩行障害などの症状をきたす原因不明の病気です。
この病気の詳しいメカニズムははっきりわかっていません。またなぜか徐々に患者数が増え続けています。
しかしわからないなりにもこの病気に対する治療法には確立されたものがあります。
それはステロイドパルス療法とインターフェロン療法です。 ステロイドパルス療法というのは、もともと身体に備わっているホルモンであるステロイドを薬として、
点滴によって外部から大量に3~5日間かけて連日投与する治療法です。
ステロイドホルモンには抗炎症作用、免疫抑制作用がありますので、
免疫異常が関わる様々な難病に対する治療法として広く用いられています。
通常身体の中で産生するステロイドの100倍以上の量でありかなり大量ですが、
それを短期間だけ用いるという事で効果は強力かつ副作用が少なくて済むというのがステロイドパルス療法の利点と言われています。
しかし私に言わせればこのステロイドパルス療法、「臭いものに蓋」的な治療法です。
結局ざっくりと言えば、「なんだか原因はよくわからないけどとりあえず免疫を抑えちゃえ」というような治療法なので、
そもそもの免疫異常の原因に対して全くアプローチしていないということになります。
一方のインターフェロン療法は、多発性硬化症の再発予防に用いられています。
「風邪で起こっていること」の記事の時にも書きましたが、
インターフェロンはもともと備わった免疫反応を起こすための起点となる物質です。
インターフェロンによって、インターロイキンが誘導され、シクロオキシゲナーゼが誘導され、
ひいてはプロスタグランディンなどが産生され、発熱や発痛が起こりいわゆる炎症反応が起こります。
これはウイルスを排除しようとする時にも起こることから、身体防御反応を起こしているのではないかという事がわかります。
つまりインターフェロン療法というのも、もともと身体に備わった抗病反応を薬によって無理やり起こしているという「臭いものに蓋」的な治療です。
言い換えれば、「ドーピング」のようなものです。
このように原因を放置してとりえあず薬で抑えるというやり方は、糖尿病治療において糖質の問題を放置して薬で無理やり血糖値を抑えようとする問題に通じるものがあります。
このような無理矢理身体のシステムを酷使するようなやり方はいつか破綻をきたします。
その事はステロイドを長期的に使用した時の副作用の多さからも伺えますし、
インターフェロンの長期使用による副作用としては「うつ」がある事もよく知られています。
治療法を考える上でも、「とりあえず抑える」というのではなく、「なぜこの免疫異常が起こっているのか」という事にもっとこだわらなければ良い治療は生まれて来ないのではないかと私は思います。
それでも最近、新たな多発性硬化症の治療が注目されつつあります。
ひとつは「フィンゴリモド」という日本発、全く新しい作用機序を持つ薬です。
これは血液の中のリンパ球にある、S1P受容体(スフィンゴシン1ーリン酸受容体)というものをブロックする事で、
リンパ球の働きを抑えて免疫異常を起こさないようにするという薬です。
免疫異常のメカニズムの一旦をブロックする事で、異常免疫が活性化しすぎないようにする事を狙った薬ですが、
この薬、まだ歴史が浅いものの、いくつかの問題点がある事がわかってきています。
最もよく知られるのは徐脈の副作用が起こることです。そのため、この薬の導入時は入院で心電図モニターをチェックしながら行う事が求められています。
さらにリンパ球減少、肝障害、黄斑浮腫といった副作用の報告もみられます。
一方で典型的な多発性硬化症に用いられるとある程度効果があるのですが、
非典型的な多発性硬化症に用いると腫瘍のような病変が急速に広がるという逆に病状を悪化させる副作用も出る事があるそうです。
何かの代謝をブロックするというやり方は理論的にはよくても、
実際やってみると思いもよらない事が起こりうる、そういうリスクを秘めているということを考えさせられます。
あるいは分子標的治療薬であるナタリツマブという薬も、新しい多発性硬化症の薬です。
この薬は異常なリンパ球が脳を攻撃するために「血液脳関門」を通ろうとする時に、
異常リンパ球が「血液脳関門」を構成する炎症細胞にくっつくときに必要なα4インテグリンという分子を特異的に邪魔する薬です。
異常なリンパ球にだけ作用するので、理論的には極めて効率的に多発性硬化症の炎症を抑えられなおかつ副作用もなさそうです。
私は使用経験はないのですが、実際よく効く薬であるそうです。
ただしこの薬、PML(進行性多巣性白質脳症)という重篤な副作用を起こす事が報告されてます。
PMLも原因不明の難治性進行性「脱髄」疾患です。しかもナタリツマブの使用期間が長ければ長いほど発症リスクが高いというデータもあります。
やはり免疫をいじるということはこうしたリスクを抱えているということを強く認識すべきでしょう。
無理に抑えてもダメ、免疫の一部をいじってもダメ、
そうなるとこうした免疫異常に対してどのように立ち向かっていけばいいのでしょうか。
ここで必要なのは引き算の発想だと思います。
すなわち免疫異常を起こしている可能性のある物質を極力取り除く発想が必要です。
そのためにもっとも基本となるのが糖質制限です。
これはいかなる新薬にも成し遂げられないアプローチではないでしょうか。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ステロイド・インターフェロンによる精神症状
確実に言えることは、ステロイドとインターフェロンというのはモグラたたきのような治療薬であり、長期に使用すると確実に薬剤性の精神症状をきたすという事です。多発性硬化症の進行期では精神症状がよくみられると言いますが、これは薬害的な要素がかなりあるだろうと推察されます。強力に作用する西洋薬にはそれに比例した副作用・薬害が存在すると考えてほぼ間違いないだろうと思います。
ふと感じたこと
20代後半のころです、運動(10キロランニング/週3日)を半年間続け5㎏しか減量できませんでした。そこで食事量を減少させようやくBMI21を達成しました(20㎏減)。それはとてつもない空腹感との壮絶なバトルでした、今や30代の自分には到底できないことです。それは決して意志の弱さではないと思います。そして減量の先には拒食症に陥ってしまいました。30代までには体重の有意差はなくなっていました。
30代になって、脂肪肝を言われだし、憶えのない食生活なはずなのにとうなだれ、日本食形態ではらちが明かないと始めた糖質制限。2週間で脂肪肝はなくなり、84㎏あった体重が72㎏まで半年で減量できました。下がりすぎる傾向もなく、食事量の変更もなく、達成できたことに感動しています。
そこで栄養士会からの糖尿病の食事療法として、バランスのとれた炭水化物60~50%を守りましょうというお達し。糖質制限を自己的に始められ、トラブルの発生を危惧したもののような感じを受けました。
個人的に糖尿病食として、日本食形態を希望の場合アスリートになってください、地中海食形態の場合健康になる程度の運動は欠かさないでください、スーパーな場合普通に暮らしていいですよって感じなのかな、とふと感じてしまいました。
Re: ステロイド・インターフェロンによる精神症状
コメント頂き有難うございます。
先日の講演会では「インターフェロンの長期安全性は確立されている」なるコメントも聞かれました。
何をもって長期安全性が確立されているのかはよくわかりませんでしたが、
安全だと思って使って使用しているインターフェロンがもたらす精神症状が、病気のせいという事にすり替えられてしまっているのかもしれませんね。
Re: ふと感じたこと
コメント頂き有難うございます。様々な経験をしてこられたのですね。
私は、高糖質食からの絶食は身体に多大な負担をかける行為だと考えています。
一方で、糖質制限からの絶食はさほど危険な行為ではないという事を実体験を通じて学びました。
経験から得られる事は人それぞれですが、その経験を活かすか否かは自分次第だと思います。
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