低血糖の自覚過剰と自覚不足
2014/11/10 00:01:00 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:6件
ブログ読者のあんたーにゃ先生こと、ゆいゆい内科クリニックの安谷屋先生からコメントを頂きました。
「糖質制限で低血糖になるのではないか?」のやりとりについてですが、
低血糖(血糖値60mg/dL以下)を拡大解釈している人(医療者・患者を問わず)がいます。
例としては、
・いつもの数値より低いと低血糖(たとえ100mg/dLでも)
・空腹感があると低血糖(血糖値を測っていない)
・汗をかいたら低血糖(冷や汗かどうかは誰にも分からないし血糖値を測っていない) などなど
同じ『低血糖』を話題にしていても拡大解釈(誤解)をしている人がいるので訂正と注意が必要です。
医療現場でも、医師や看護師が上記のような誤解をしているのを目撃します。
もちろん「低血糖症状です」とは言いません。
「低血糖症状かもね」と言うのですが、それを聞いた患者さんは「空腹を感じたり汗をかいたら低血糖なんだ」と思うようです。
確かに、あんたーにゃ先生がおっしゃるように、低血糖をめぐっては誤った解釈をされている場面を結構頻繁に見かけます。
それらは大きく分けると、「過剰に自覚する人」と「自覚が不足している人」の二手に分かれると思います。 ただ、私が臨床現場でよく見かけるのは圧倒的に後者が多いです。
そもそも低血糖とは、血液中のブドウ糖が少なくなりすぎた状態のことです。
一般的には血糖値が60~70mg/dL以下となった時に起こる動悸・冷汗・ふるえなどの症状と認識される事が多いですが、
実は必ずしもその数値でなくても低血糖症状が出る事があります。
例えば糖尿病で空腹時血糖がいつも200~300mg/dLくらいで推移している人の場合、
インスリンやSU剤など何らかの強制手段で血糖値が下げられると、仮に血糖値が100mg/dLくらいでも低血糖症状を起こす事があります。
あと意外に知られていないのは低血糖症状のバリエーションです。
動悸、冷汗、ふるえなどはいわゆる交感神経刺激症状ですが、
そうではなく、例えば精神錯乱、意識消失、痙攣発作とか、
あと低血糖はすべての脳卒中を模倣しうると言われていますので、片麻痺とか、構音障害といった症候でもその可能性が考えられるという事を絶対に知っておく必要があります。
これだけ症状に幅があるが故に、一般的な低血糖指導ではとてもではないですが、患者さんにその多様性が伝わっておらず、
SU剤を内服している糖尿病患者で、畑仕事をした後に、気分が悪くなっているにもかかわらず、それは単なる疲れだとか解釈している人が非常に多いのです。
他方、低血糖を過剰に自覚するというのはどういう人かと言いますと、
同じくブログ読者のルークさんから頂いたコメントが参考になります。
あんたーにゃ先生に同感です。
今年1月に夏井先生が出演された
『炭水化物制限(糖質制限と言って欲しい)は是が非か?』
でも、自身が糖尿病である松村邦洋さんが
『炭水化物を抜いた事があるが、と頭がボ~っとした』
という発言を受けて、編集によるものでしょうが
『頭がボ~っとなる=低血糖』
と胆略的に結論付けていて違和感を感じました。
ルークさんがおっしゃるように、私もおそらくこれは低血糖ではないと思います。
むしろ低血糖を理由に「自分は炭水化物を食べないと困る」という事を暗に示唆しているように思えます。
これは炭水化物依存症に対する離脱症状と言ってよいと思います。
まとめると、『一般的な低血糖指導を受けている人の多くは低血糖の自覚不足、炭水化物依存症の状態にある人は、低血糖を自覚過剰の傾向がある』と思います。
低血糖にはかなり幅があるということ、糖質食から糖質制限への移行期には一過性に体調不良を感じる場合があるがそれは低血糖ではないという事も、
併せてきっちり指導する必要があると思います。
何より一番大事な事は、低血糖を起こしうる最大の原因であるインスリンやSU剤など強制的に血糖値を下げる薬を極力排除するという事です。
逆に言えばそれができていない人では、常に幅広い目線で低血糖の観察に目を光らせておく必要があると思います。
ところで、糖質制限実践者では基本的に低血糖は起こりませんが、
嘔吐下痢の持続や激しい運動、アルコール過飲などの要因があれば低血糖は起こりうるので油断は禁物です。
あと久しぶりの糖質大量摂取による機能性低血糖症にも注意する必要はありますが、
それでも糖質通常摂取者とくらべて圧倒的に低血糖が起きにくいという事は間違いないでしょう。
正しい知識で以て、正しい糖尿病指導。
このまま従来のやり方だと低血糖難民が多数発生しかねません。
糖質制限の理論を加えて指導内容をカスタマイズする必要があると思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
誰もが通る道?
スーパー糖質制限の前にはご飯の量をかなり減らしたり、緩い糖質制限もしていましたが、その時はそのような事はありませんでした。
しかし、私も初めて低血糖症状を調べてみましたが、ふらつきはあってもその他の症状(冷汗、頭痛、痙攣)は全くと言っていいほどありませんでした。
ブドウ糖からケトン体主体への切り替えもあるとは思いますが、スーパー糖質制限を始めた頃は本当に全然空腹感が無くてかなり食べる量が減っていたので、単純にエネルギー不足だったのかなと思っていました。
江部先生もしっかり食べる事をよく言っていたので、そういう時にはマヨネーズをたっぷりゆで卵につけて食べたりしてました。そうすると結構安定した覚えがあります。
その時の食事の記録写真を見てみると、従来の健康的とされるような食材(野菜、こんにゃく、鳥胸肉等)を食べていることも多かったようで、確かに油脂の量などは明らかに少ないような気がします。
糖質制限開始当初から思い切った糖質制限(油脂もタンパク質もたっぷり)を行えば、また変わってくるかもしれません。
私も糖質制限を実践しながら学んだので、最初は今までの概念が捨て去れていなかったようです(笑い
Re: 誰もが通る道?
コメント頂き有難うございます.
実践を通じての勉強というのは非常に学ぶところが多いです.私自身もそうでした.
机の上だけで勉強するのとは圧倒的に見に付く度合が違ってくると思います.
自覚過剰
松村さんの件ですが、私も糖質中毒の離脱期の症状と思います。
そして自分もそうでしたが、糖質制限時の栄養不足による低血糖感(軽い頭痛や少し体がだるい程度)もあるのかなと思います。
松村さんもそうだったと思いますが、自分の感覚では、糖質中毒症全盛の頃の血糖値幅の大きな乱高下によってもたらされる低血糖症と比べると、糖質制限時のそれは比較にならないほどの軽さでした。
たがしゅう先生は如何でしたでしょうか?
糖質制限前の自分は、低血糖症状には微塵も耐えられず、数時間おきに糖質を摂取していました。
家事仕事やショッピングなどですぐ低血糖のような症状になってしまうので、とても苦手でした。
今思えば、これも過剰な自覚による過剰な摂取だったのかなと思います。
昔、スーパードクターKという漫画で、栄養ドリンクの飲み過ぎによる病気(忘れましたがおそらく糖尿病だったと思います。)になると読んだ記憶があり、注意しなければならないと思いながらも、低血糖気味でつらい時など割と頻繁に飲んでいたことが悔やまれます。。。
(今でも「ゼロ7」という糖質0のものをたまに飲んでたりします。)
No title
私のコメントの御採用(笑)有り難うございました。
なんか恥ずかしいですね。
しかもこんなに話題を広げていただいたので嬉しいですし、先生の知識の豊富さとそれをまとめる能力に脱帽です。
開業する前に勤めていた病院やこれまでの研修先での経験でしたが、低血糖ではないのに低血糖症状として対応しないといけなくなるのでとても辛かったです。
糖尿病専門病院でもこのような間違った指導をする病院は多いと感じていますが、患者ははっきり言って良くならないです。
血糖値は上昇し、薬も増え、合併症になって生を終えていきます。
見ていてとてもつらかったです。
私は開業して1年半です。小さなクリニックですが、糖質制限を広めていきます。
糖質制限受け入れの良さそうな近隣の総合病院も発掘中です(笑)
Re: 自覚過剰
コメント頂き有難うございます.
> 自分の感覚では、糖質中毒症全盛の頃の血糖値幅の大きな乱高下によってもたらされる低血糖症と比べると、糖質制限時のそれは比較にならないほどの軽さでした。
> たがしゅう先生は如何でしたでしょうか?
私は糖質の影響がもろに体重に出る体質の人間ですから,
機能性含め低血糖という低血糖を経験した事が実はないのです.ただ実際には血糖値を測定していたわけではないので,医者の私ですら自分の低血糖を見過ごしてしまっていた可能性はあると思います.
要するに低血糖ってそれくらいわかりにくい症状だ,という事です.
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> なんか恥ずかしいですね。
そんな,とんでもございません.
示唆に富むコメントは私のブログのひらめきになるので,大変有難いです.
今後とも御意見賜れれば幸甚に存じます.今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.
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