痛みを和らげるケトン食

2014/11/09 00:01:00 | お勉強 | コメント:0件

一般的に痛み止めと言えば、

炎症を抑える薬の事を意味します。炎症は痛みを起こすからです。

アセトアミノフェン、NSAIDS(非ステロイド性炎症薬)、ステロイドなどがそれに相当します。

それでも取りきれない痛みにモルヒネなどの麻薬性鎮痛剤が用いられる事があります。

痛みを和らげる下行性抑制系という脳のシステムに作用し、痛みを取り除くという力技ですが、

これは保険診療上、がんや神経難病などの一部の疾患に適用が限定されます。

一方で、そうした鎮痛剤とは別に、鎮痛補助薬と呼ばれる一群があります。 ざっくりと言えば、痛みを伝達する神経の故障に対して様々なアプローチで改善を試みようとする薬のことです。

具体的には、抗うつ薬,抗てんかん薬,抗不整脈薬,局所麻酔薬,NMDA拮抗薬,α2アドレナリン受容体作動薬などが挙げられます。

我々の神経内科領域でも、抗てんかん薬が鎮痛補助薬として用いられる事があります。

例を挙げると、片頭痛の予防にバルプロ酸、三叉神経痛にカルバマゼピンなどです。

そんな中、炎症も神経障害も、その痛みを助長する不安や抑うつに対しても、それらを一手に引き受け、なおかつ副作用が少ないというまことに都合の良い治療法があります。

それがケトン食(修正アトキンス食)です。今日はその事を示す論文をお示しします。


Masino SA, Ruskin DN. Ketogenic diets and pain. J Child Neurol. 2013 Aug;28(8):993-1001. doi: 10.1177/0883073813487595. Epub 2013 May 16.

【概要】
ケトン食は優れた抗痙攣治療としてよく確立されている。

痛みや炎症の基礎となるよう仮定される共通するメカニズムや、ケトン食の治療的効果の基礎となるよう仮定されるメカニズムに基づいて、

ケトン食に痛みを和らげる能力がある事が最近の研究で新たにわかってきた。

今回我々は現在までのところでケトン食の温熱痛、炎症、神経障害性疼痛に対する影響について調査している臨床および基礎研究について概説する。

痛みは最もよくみられる健康関連指標の一つであり、人生の質を下げることにつながるものである。

当然のことながら、痛みに苦しむ人は健康な人々と比べて不安や抑うつにも苛まれる傾向がある。

痛みは評価し治療する事が時に困難であり、しばしば様々な薬物的および非薬物的アプローチでの長期的な管理を必要とする。

今回我々はケトン食が痛みや炎症を和らげるための非薬物的オプションを提供しうるという相関のある直接的なエビデンスについて概説する。

高脂肪のケトン食は痙攣に対して効果的であることが長く知られており、

代謝的には高脂質、超低炭水化物、蛋白を制限する内容で利用できるグルコース(糖質)を制限し、細胞のエネルギーとしてケトン体を利用できるように仕向けている。

てんかんと同様に、痛みは様々な基礎状態を包含する状態である。

なぜケトン食が痛みや一見痛みと異なる状態にも有効であると提案することができるのか。

そこには、以下に述べるように、痛みに対する代謝的なアプローチが新たな臨床的なチャンスを与えうることを強固に示唆するいくつかのエビデンスラインが存在する。

こうしたメカニズムのいくつかは直接試されており、追試が現在進行中である。

【ケトン食、痛み、炎症:仮定されるメカニズム】
ケトン食で考えられる疼痛軽減および抗炎症効果については多くの仮説が支持している。ここに4つの主な仮定されるメカニズムを提示する

1.痙攣発作と同様に、慢性痛はニューロンの興奮性が高まることが関係していると考えられている。痛みの場合は、この事が末梢と中枢神経のどちらか/あるいは両方に関与している。このように痙攣と痛みの間には基礎となる生物学にある程度の相同性がある。

2.抗痙攣薬はよく典型的な鎮痛薬に反応が乏しい神経障害性疼痛に対して処方されている(以下参照)。それなら論理的考えて、もしも抗痙攣薬の作用とケトン食の作用に何かしら共通性があるのであれば、ケトン食が神経障害性疼痛に何らかの効果をもたらすはずである。

3.絶食やカロリー制限、あるいは高脂質・炭水化物制限(ケトン食・修正アトキンス食)によって完遂されようと、2-デオキシグルコースで特異的に解糖をブロックしようと、いずれにしても解糖系代謝が減少すると抗痙攣作用があるようである。並行して絶食と2-デオキシグルコースには共に鎮痛作用があるので、おそらくケトン食にも同様の作用があっても不思議ではない

4.神経調節因子であるアデノシンには鎮痛作用があり、鍼療法の効果に関係することがわかっている。絶食やケトン食、2-デオキシグルコースで起こってくる代謝変化はすべてアデノシンのシグナル伝達を高めているというエビデンスが蓄積されてきている。最近の研究ではアデノシンを基礎としたメカニズムを介して運動が神経障害性疼痛に対して治療効果があることも示唆されている。

こうした共通性や臨床的潜在能力があるにも関わらず、ケトン食と痛みの関連を直接特徴づける研究はこれまでほとんどなかった。

最近、代謝治療を考慮すべき、すなわち明らかに痛みや炎症の治療が一般的でかつ未だに対処されていない需要となっているような神経疾患の全体像の中で痛みが注目を集めるようになった。

今回我々は、ケトン食がさらに最適化と発展していくようなプラットホームを作れるように、我々の研究室からの陽性所見、陰性所見を含めて、臨床研究と基礎研究からエビデンスを提示する。




難治性てんかんの治療法として確立しているケトン食ですが,

ケトン体の神経保護作用が抗てんかん作用に留まらず,抗炎症,鎮痛にも及んでいるという事がわかります.

それに薬物療法と違ってケトン食はケトン体を作るだけが能ではなく,

天然の抗てんかん薬と評されるアデノシンを高めたり,解糖系を抑えたり代謝全体の調整を行う事ができます.

これによって薬物には決して成し遂げる事ができない目覚ましい効果をもたらす事ができるのだと思います.


私達の身体は,これだけ素晴らしい対応能力を,

もともと備えているという事です.

そんなケトン体を作る脂肪が悪者であるわけがありません.


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する