不安に対し総力戦を
2014/11/05 00:01:00 |
おすすめ本 |
コメント:6件
不安というのはなかなか扱いが難しいものです.
私が日常診療で苦戦するのが不安の強い患者さんです.
不安は事実を歪めます.せっかく糖質制限で良くなっていても,その事に目を向けられなくなります.
そして不安が高じると恐怖になります.恐怖の感情は交感神経の過緊張状態です.
交感神経過緊張ということは,ストレスホルモンの分泌が刺激され続けている状態です.
ストレスホルモンが一過性であればよいですが,持続的に出続ける状態は身体に悪影響を与えます.
それはステロイドホルモンを外部から薬として与えた時の副作用を考えればわかります.
今日は不安とストレスについて考えてみます. 実は最近,「ストレスには依存性がある」という事が書かれている本を読みました.
いつもストレスを抱えているのは、ストレスがないと不安になるからだ 単行本 – 2014/9/1
ハイディ ハナ (著), Heidi Hanna (原著), 志村 未帆 (翻訳)
(以下,p16より引用)
ストレスには中毒性があり,砂糖,ギャンブル,買い物やセックスといった他の中毒性のある物質または行為が作用する脳と同じ部位に刺激を与える
(引用,ここまで)
考えてみれば,ストレスによってドーパミンが分泌されるわけで,
ドーパミンは脳の報酬系と深く関係しているわけなので,
ストレスそのものに依存性があっても不思議ではないわけです.
従って不安にさいなまれた状態というのは,ストレス依存症とも言い換える事ができるかもしれません.
今まで学んできたように,依存症を治すには依存物質を断ち切るより他に王道はありません.
相手がストレス依存症となると,糖質制限と言えど,不安を軽減する手段にこそなれど,
根本的な解決策にまで至らないという症例を私は数例経験しています.
こじれにこじれた不安は,いかに糖質制限と言えど,なかなか対応が難しいのです.
では不安の元となるストレスを取り除けばいいと,口で言うのは簡単ですが,これがまた至難の業です.
そもそも自分でストレスに対処できるのならば,病院に行く程こじれた不安にはなっていないはずです.
上述の本にはストレス依存症から抜け出す方法として次のようなやり方が紹介されていました.
(以下,p18より引用)
ストレス依存症の回復プロセスの最初の3つのステップは,
あなたの活力を取り戻す事を目的としている.まずは,
(1)余計なストレスと刺激を取り除き,
(2)活力を高めてくれる栄養素-例えばブドウ糖,酸素,ポジティブな気分をもたらす脳内物質のエンドルフィンなど‐で脳と身体を養い,
(3)神経の連絡と心身全体の健康を強化して利用可能なエネルギー量を増やす
(中略)
ストレス依存症状の回復プロセスの残り2つのステップでは,
あなたの思考と行動の両面における習慣をプログラムし直す.
まず脳を鍛えて物事を健全で前向きな視点から見られるようにし,ストレスをより扱いやすいものにする.
エネルギーを十分に蓄えて楽観的な考え方を身につければ,
ストレスを生存を脅かすものではなく成長のチャンスとして受け止められるようになるのだ.
そして最後のステップで,
仮定や職場での日常に健康的なリズムを導入する方法を考える.
メリハリのある生活は,あなたの能力を最大限に引き出してくれる.
これにより,あなたはより生産的に,創造的に,そして積極的になることができ,
一方で十分に休息して回復し,エネルギーを一定量に保てるようになるのだ.
(引用,ここまで)
これを読んで,不安と闘うためには,
ストレスの除去,糖質制限を基本に栄養を蓄える,だけでは十分ではなく,
反復練習,前向きな思考,生活リズムを整えるというように,
身体と精神と環境をも整える,いわば総力戦が必要なのだという事がわかります.
これらをいかに整えていくかというのが,人によって異なりその手段もいろいろとあって難しいのだと思います.
少なくとも糖質制限だけでは,強大な不安を持つ患者さんを改善に導くのは困難です.
この分野,引き続き勉強していきたいと思います.
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
メンクリ繁盛社会
内科医も「心療内科」を掲げればウハクリ。
少しでもストレスで不安な患者がいればSSRI処方。依存性が強いからおいしいリピーター。
IT化で情報過多で迅速性も求められるオフィス多忙社会であるかぎり、精神科のクスリは売れ続けるでしょう。SSRIやSNRIは抗うつ剤ではなく抗不安剤だととある精神科医の本に書いてました。
たかだか5分程度の外来診療で医者ができることなど限られているし、患者はただラクになりたいから即効性のある薬が欲しいだけ。薬がなければメンクリに患者が殺到することもないわけで。
今の日本は気長にクスリなしでストレスケアができるような社会ではないですからね。
少しでも油断したらすぐに失職する恐怖があるので
Re: メンクリ繁盛社会
コメント頂き有難うございます.
真の医療はクスリから離れたところにあると私は思っています.クリニックを真の医療に近づけようとすればするほど,経営が難しくなるという矛盾とジレンマがあります.
従って真の医療を実践するためには全く新しい枠組みが必要になるのではないかと考えています.
そのとおりです
真の医療は現状の厚労省と中医協支配下の保険医療では全く実現不可能ですね。
つまり大学病院や総合病院支配下の勤務医や医師会支配下の既得権益と実利追及が不可欠の開業医には無理だと思っています。
真の医療は医者ではない人間によってなされるべきでしょうね。たとえば患者団体・栄養士・心理士などが中心となったNPO法人など。
しがらみでがんじがらめの今の医者に「非営利」というのはまず無理なので。
医者(クスリ)から離脱できた患者のみが勝者だと言えます。
患者は精神構造的に医者に支配されすぎています。
未だに長年根付いた親方日の丸・父権主義の延長線上に今の医療はあります。
改革の一案として父権主義に囚われている70歳以上の世代を強制引退させて世代交代するべきだと考えます。まず無理だと思いますが(苦笑)。
Re: そのとおりです
コメント頂き有難うございます.
現代医療の枠組みで理想の医療を展開しようと思えば思う程,どこかで妥協せざるを得ない状況が出てくると私は考えていますね.
真の医療
開業医も勤務医も医療の理想からはほど遠くはなはだ無力な存在です。
Re: 真の医療
コメント頂き有難うございます。
> 既成概念をくつがえす「真の医療」
私の目指す所であり最大の難題です。どのような形でそれを実践すべきか、じっくり考えようと思っています。
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