配糖体について学ぶ
2014/10/22 00:01:00 |
漢方のこと |
コメント:4件
先日漢方の勉強会に参加しておりましたら,
八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方薬に軽症の2型糖尿病に対して血糖降下作用があるというお話しがありました.
八味地黄丸は腰から下の不具合(痛み,ジンジン感,脱力,冷えまたはほてり,排尿障害など)に対してよく用いられる漢方薬です.
構成生薬は地黄,山茱萸,山薬,茯苓,沢瀉,牡丹皮,桂皮,附子から成っています.
なぜ,八味地黄丸に血糖降下作用があるのかという事に関して,その勉強会では次のような説明がなされていました.
まず構成生薬の中の桂皮はシナモンで,附子はトリカブトといずれも陽気を上げるとされる植物性の生薬ですが,
これらによって代謝が亢進し,インスリン抵抗性が改善するというのが理由の一つです.
同様のメカニズムは以前取り上げた防風通聖散にもあるので納得できますが,
もう一つ紹介された理由が興味深いと今回私は感じました. それは「地黄」という生薬の配糖体という部分に注目したメカニズムです.
配糖体(グリコシド glycoside)とは何かと申しますと,
糖と糖以外の物質が結合してできた物質の事をいいます.
地黄の場合はカタルポールという配糖体がポイントであるようです.
糖が含まれた配糖体などが入って,何故血糖値を下げるのかと思われるかもしれませんが,
実は配糖体を結合しているグリコシド結合を,場合によってはヒトでは分解できない場合があるのです.
例えば,ヒトの腸粘膜には5種類のα-グルコシダーゼがあるのですが,
同じグリコシド結合を分解する酵素でも,β-グルコシダーゼは備えておらず,腸内細菌がその役割を担っているとされています.
従って,βグリコシド結合の配糖体がたくさん入ってくると,
腸内細菌の組成によってはそれを分解する事ができません.
そのため血糖値の吸収を遅らせる,いわばα-グルコシダーゼ阻害剤的な作用をすると説明されていました.
さらに分解できない事で身体が異物だと認識してしまい,
結果的に免疫反応を高めて,抗壊疽,抗炎症,抗菌,神経保護作用などの働きをもたらす事もわかっています.
「オリゴ糖が免疫を高める」という事を聞く事がありますが,それも同じ理屈であるようです.
配糖体には地黄以外にも,強心剤のジギタリス,色素のアントシアニンなど天然にも実に様々な形で存在しています.
このように,糖は単にエネルギー源としてでなく,
配糖体という形で生体内でもかなり応用を効かせて存在しているという事がわかります.
漢方を勉強していると,いろいろ勉強のヒントが手に入る事があって,なかなか面白いです.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
聞いたことあるなあと思って
「配糖体」おもしろいですね。「身体に異物が入った、頑張ろ」ですね。
宮沢りえさんのコマーシャルのペットボトルの伊右衛門特茶にも、配糖体が入っていますよ。能書きがおもしろくて、
「脂肪分解酵素を活性化させるケセルチン配糖体の働きにより、体脂肪を減らすのを助けるので、体脂肪が気になる方に適しています。多量摂取により疾病が治癒したり、健康が増進するものではありません」 だそうです。
メタボに効くのか効かないのか、どっちでしょう?
人間ドックの受診券が当たる懸賞実施中ですって。(これにも笑えた。)レジ前の陳列棚でキャンペーン中で、買ってしまいました。値段は普通のお茶の倍くらいでしたが、売れているんですね。
宮沢りえさんの伊右衛門の好感度は高いですからね。
Re: 聞いたことあるなあと思って
コメント頂き有難うございます.
> 「配糖体」おもしろいですね。「身体に異物が入った、頑張ろ」ですね。
わかりやすく表現して頂きました.まさにそういう感じなんですよね.
今回紹介したもの以外にも配糖体の働きは多種多様です.御紹介頂いたお茶の成分から抗生物質のアミノグリコシドまで実にバラエティに富んでいます.
糖質制限を学ぶと糖質を敵視してしまいがちですが,糖そのものは他の物質とも組み合わさって様々な働きを担っているとわかります.
コントロールすべきは糖質摂取によって起こる血糖値の乱高下,及びそれによって発生する酸化ストレスであって,ブドウ糖まで排除せよという事ではないと,この点は間違えないようにしたいですね.
オリゴ糖
先日江部先生の方のブログに書かせていただいたのですが、私は難消化性のビートオリゴ糖(ラフィノース)をとっています。
腸内細菌叢を善玉優位にしたく、また便秘にも効果があるということで、かつ糖質としては消化吸収されず大腸で脂肪酸として利用されるとあって、害のないものと思いとりはじめましたが、さらに免疫力も上げる効果があるとのことで嬉しい限りです。
Re: オリゴ糖
コメント頂き有難うございます。
記事で触れたように、盲信も禁物ですので、是非とも体調をみながら御調整頂ければと思います。
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