何もせずにはいられない
2014/09/17 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:6件
糖質制限中に血糖値を強制的に下げる薬を使用する事は、
低血糖のリスクが高まるために禁忌とされています。
勿論、私は糖質制限推進派の医師なので自分からそういう類の薬を処方する事はありませんが、
問題となるのは、処方をしているのは別の病院で、私が生活指導のみを行っているという状況の時です。
こと脳梗塞後のフォローアップは私の業務の中でも中心的な仕事の一つです。
脳梗塞を再発させないようにするために、私は臨床へ糖質制限指導を積極的に取り入れています。
なぜなら血糖値の乱高下、高インスリン血症が酸化ストレスを介して動脈硬化進展リスクとなる事はすでに証明されているので、
糖質を制限し、その両者を抑える事は明らかに動脈硬化リスクを下げる事につながるからです。 しかし他所の病院では血糖値を強制的に下げる薬(SU剤、グリニドなど)を処方されている場合、
糖質制限指導を行うかどうかはいつも悩みの種です。
低血糖リスクだけを考えれば、当然糖質制限指導をしない方がいいのですが、
だからと言ってその状況を放置していると、どんどん動脈硬化が進んでいる状況をただ指をくわえて見るより他になくなってしまい、
それはそれで経過観察をしている身としては辛いものがあるのです。
一度は処方している医師に薬剤を変更するように申し出たこともありますが、
一時は変更してもらうも、結局すぐにまた元の処方に戻されたりすることも多々あります。
先日、私が入院で糖質制限指導を行った70代、糖尿病性腎症で透析中、脳梗塞後遺症の患者さんが、
入院中には血糖値が落ち着いていたのですが、
退院後の半年毎フォローで私の外来にやってきた際には、動脈硬化がかなり進展している状況だという事がわかりました。
おそらく退院後また糖質を普通に摂取してしまっているのだろうと思いました。
すでに薬は低血糖を起こさない薬に変えている状況であったので、
患者さんに改めて糖質制限を、できる範囲で良いのでやってみるようにと再度指導を行いました。
ところが1週間後、その患者さんが意識障害で救急搬送されました。原因は低血糖でした。
おそらく私の指導を守った結果、そういう事になってしまったのでしょう。
ただ私の出していた薬であれば薬による低血糖は絶対起こらない状況であったはずでした。
ところが、半年の間にその患者さんの薬にはグリニド系という速攻型インスリン分泌薬というタイプの薬が処方されていたのです。私のチェック不足でした。
それを私が見落とした事、そして図らずも患者さんが糖質制限を徹底的に実践された事が今回の結果を産んでしまいました。
結果的には救急担当医の処置により事無きを得ましたが、
私にとっては大いに反省すべき症例でした。
結果的に見ればこの患者さんには糖質制限指導をすべきではありませんでしたし、
おそらく傍からみれば、こういう症例には最初から糖質制限指導すべきではないのではと思われるかもしれません。
ただ、動脈硬化がどんどん進行していく状況をみていて、
それを防ぎうる有効な手段があるのを知っていて、
しかし何もせずにただただ指をくわえて見ているというのは、私には耐え難い事です。
忙しくてチェックが疎かになったという点を十分に反省し、
同じ轍を踏まないように細心の注意を払って診療に当たろうと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
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Re: No title
コメント頂き有難うございます。
良い方向に動き出しておられるようで何よりです。
人生に王道なしだと思います。あれこれ試しながら自分の中での着地点を探していくのがよいのではないでしょうか。私も試行錯誤の毎日です。
動脈硬化の進行
記事を読んで思ったのですが、動脈硬化は半年やその程度で明らかに進行したという事が分かるものなのですか。
その方が高齢かつ糖尿病で、かつその薬を服用していたことで、動脈硬化が加速する要因になったのだろうとは思いますが、
私は漠然と、長い時間をかけて硬化してゆくものと思っていたので、硬化が想像以上に早いようで驚いています。
シーバックソーン
Re: 動脈硬化の進行
コメント頂き有難うございます。
動脈硬化の進み方は千差万別です。
若いのにこんなに早く血管がボロボロになっているということもあれば、
お年を召されてもそんなに動脈硬化が進んでいないという人もいます。
ただ、血管だけが全てではありません。血管がキレイな代わりに神経難病になってしまっているという人もいます。
それら病気の起源は処理しきれない酸化ストレスにあるのではないか、というのが私の考えです。
Re: シーバックソーン
情報を頂き有難うございます。
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