薬には二つの顔がある

2014/09/15 00:01:00 | ふと思った事 | コメント:2件

ベンゾジアゼピン系薬についてもう少し考えます.

睡眠薬として使われることも多いベンゾジアゼピン系薬ですが,

そもそも不眠には大きく二つの原因があると言われています.

一つは交感神経がたかぶって恒常性が維持できなくなること,

もう一つはメラトニンの分泌が低下して,体内時計のリズムが崩れてしまうことです.

前者にはベンゾジアゼピン系薬が有効ですが,後者は余計にこじらせることにつながります.

後者にはメラトニン作動薬を用いるというのが正しい選択になるのですが,

たとえ前者にベンゾジアゼピン系薬を用いたとしても,それはあくまで対症療法です. なぜ交感神経が高ぶってしまっているのか,その原因を究明しアプローチしない限り,

漫然とベンゾジアゼピン系薬を用いる事につながってしまうのです.

ちなみに漢方では,不眠の原因が気うつにあるのか,不安にあるのか,焦燥感にあるのかで生薬を使い分けるオーダーメイドさがあります.

しかしながら西洋薬では一律にベンゾジアゼピン系薬,この辺に怖さがあるのです.

患者の背景が何であろうととにかく脳の興奮を抑えてしまおうという,ある種強引な治療とも言えます.


ただそう言いながらも,ベンゾジアゼピン系薬の切れ味が鋭いというのも事実です.

例えば,痙攣を抑えるための治療のゴールデンスタンダードはジアゼパムというベンゾジアゼピン系薬です.

我々神経内科医もてんかん診療でよく使用する薬です.

ただこの薬,使い過ぎると呼吸筋の働きまで止めてしまい,呼吸抑制という副作用をきたす場合があるので注意が必要です.

私はあくまで「ベンゾジアゼピン系薬を極力使用しない」のであって,「全く使用しない」わけではありません.

細心の注意を払ってベンゾジアゼピン系薬を日々使用しています.

要するに薬には良い面と悪い面があるという事なのです.大事な事はその両面をわかって使っているかどうかという事です.


例えば,私が不眠の人を診療する場合は,

その人がどうしても眠れないからと睡眠薬を希望される場合,

交感神経が高ぶっているような状態が示唆されれば,差し当たりベンゾジアゼピンを処方する事があります.

しかしどうして交感神経が高ぶっているのかを同時に考えます.職場のストレス,人間関係の悩み事,子育て,近親者との死別,など・・・

しかし最もコモンな原因は糖質頻回過剰摂取によって不自然な交感神経刺激が繰り返されている事ではないでしょうか.

そこに着目して食生活を聴取し,大いに当てはまるようであれば直ちに糖質制限も併せて指導します.

こうして将来的にベンゾジアゼピン系薬を使わなくて済むように持ち込もうとするのです.

てんかん診療の場合も同じです.まずはベンゾジアゼピン系を用いて痙攣を頓挫します.

その後,けいれん制御効果のあるケトン体が全くでないような食生活をしていないかどうか,

すなわち,糖質過剰摂取をしていないかどうかを確認し,ケトン食に近いアプローチで再発予防のための指導を行います.

抗てんかん薬も用いますが,あくまで目指すのはドラッグフリーの状態です.


このように薬の「薬」としての部分と,薬の「毒」としての部分,両方を踏まえた上で,

どうするかを考えていくのが本来の薬との向き合い方ではないでしょうか.

「薬」の部分しか見ないのも,「毒」の部分しか見ないのも,どっちもよくないと思います.

私は必ずしもイメージづけしない姿勢を意識していきたいです.


たがしゅう
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コメント

No title

2014/09/15(月) 21:14:31 | URL | SLEEP #mQop/nM.
たがしゅうさん

けいれん抑制効果のあるケトン体という観点はまったく抜け落ちてました。言われてみれば、糖質制限開始後しゃっくりをした記憶がありません、また大量の白米を食べた後しゃっくりをよくしていたような気がします。もしかしたら心室細動のような異常な筋肉の収縮なども防げるかもしれませんね。

Re: No title

2014/09/15(月) 22:11:59 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

 ケトン体には神経保護作用も、ミトコンドリア機能改善作用も、抗炎症作用がある事もわかってきています。

 非常に様々な可能性を秘めていると私は考えています。

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