自分なりにカスタマイズ
2014/09/14 00:01:00 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:6件
ブログ読者の精神科医師A先生より以下のコメントを頂きました.
『コウノメソッドでは、ベンゾジアゼピンを支持しています
ドクターコウノの認知症ブログ(2014年1月13日)のQ&A参照
http://dr-kono.blogzine.jp/ninchi/2014/01/2014113_1d40.html
1/20、1/27のblogにもベンゾの記載あり
河野Drの症例集を読んでみましたが、認知症老人にいきなりベンザリン5mgを使ったりしています。転倒riskが心配です』
私は基本的にコウノメソッド推進派の医師ですが,
ベンゾジアゼピン系の薬は極力使用しない方針です.
なぜならば,全てのベンゾジアゼピン系薬に依存性があるからです. しかし,この度の精神科医師A先生のコメントにもあるように,コウノメソッドの河野先生はベンゾジアゼピンを普通に使用されているようです.
勿論,河野先生もベンゾジアゼピン系の依存性については当然御存知ですが,
その上で,日中に何度も内服するという使い方をせず,夜間のみ睡眠薬として使用する分には依存症にはならないという御意見のようです.
またベンゾジアゼピン系であれば何でも使うというわけではなく,
その薬の中でも,患者さんへの使用経験からベンザリン,レンドルミンを勧められています.
徹底的な臨床経験から導いた治療公式というのが,コウノメソッドの真骨頂ですが,
その考え方は漢方療法のそれに近いものがあり,エビデンスではなくエクスペリエンス重視という事で.その姿勢自体には賛同できます.
しかし経験は確かに大事ですが,絶対的なものではありません.また,ヒトは間違う生き物です.
私の診療経験においても,レンドルミンが止められないという人は過去いましたし,
それが高じて睡眠薬がさらに増えていく事も多々ありました.
程度の差はあっても,本質的にベンゾジアゼピン系薬が持つ性質は基本的に同じです.
依存性のある薬を使わないに越した事はないのです.
ベンゾジアゼピン系薬というのは簡単に言えば,脳を強制的に抑制状態に持っていく薬です.
自律神経のバランスが悪く,交感神経が高ぶってしまうような状態の人に対しては,この薬が睡眠薬としてや,抗不安薬として用いられたりします.
その反面,量が多ければ効果が持ち越して,眠気が続いてしまったり,集中力を下げてしまったりします.
コウノメソッドの観点で言えば,高齢であればあるほど腎機能が悪くなりそういうリスクが増えてくるはずです.
さらには,最近ベンゾジアゼピン系の薬の使用自体が認知症のリスクを高めるという論文も発表されました.
Billioti de Gage S, et al. Benzodiazepine use and risk of Alzheimer's disease: case-control study. BMJ. 2014 Sep 9;349:g5205. doi: 10.1136/bmj.g5205.
概要
【目的】アルツハイマー病のリスクと開始から少なくとも5年以上前からのベンゾジアゼピン系薬への暴露との相関を,用量反応連関とおそらく治療と関連するであろう前駆状態(不安,抑うつ,不眠)を考慮した上で,調査すること.
【デザイン】症例対照研究
【設定】ケベック健康保険プログラムデータベース(RAMQ)
【参加者】最初の診断がアルツハイマー病で少なくとも6年以上前からフォローされている1796名と7184名の対照者で,性,年齢群,フォローアップ期間を合わせた.両グループは,2000年~2009年に地域に住む66歳以上の高齢者からランダムに抽出された.
【主要アウトカム測定】アルツハイマー病と診断から少なくとも5年前からのベンゾジアゼピンの使用との相関は多変量条件付きロジスティック回帰分析を用いて評価された.ベンゾジアゼピンへの過去の暴露は最初に検討され,処方された1日量で表される蓄積量(1-90, 90-180, >180)と薬剤の半減期に応じて分類された.
【結果】ベンゾジアゼピンの過去使用はアルツハイマー病のリスク増加と関連していた(調整オッズ比1.51, 95%信頼期間1.36-1.69; さらに不安,抑うつ,不眠で調整したところこの結果はあまり変わらなかった:1.43, 12.8-1.60).処方された1日量<91の蓄積量では,相関はみられなかった.暴露の密度(91-180の1日処方量で1.32(1.01-1.74),>180の1日処方量で1.84(1.62-2.08))と薬剤半減期(短時間作用型で1.43(1.27-1.61), 長時間作用型で1.70(1.46-1.98))とともに相関の強さが増加した.
【結論】ベンゾジアゼピンの使用はアルツハイマー病のリスク増加と関連していた.仮にベンゾジアゼピンの使用が認知症のリスク増加と関連する状態の早期マーカーであったとしても,長期間の暴露でより強い相関が観察されるという事は直接の相関がありそうだという疑いを強くする.こうした薬剤の不当な長期使用は公衆衛生上の関心事として考慮すべきである.
一方,河野先生のブログにはこう書かれています.
(ドクターコウノの認知症ブログ 介護通信 2014年1月13日より引用)
コウノメソッド通りにやってくれれば、顧客満足度85%、改善率75%を保証できる。
自分のやり方をアレンジするのではなく、処方哲学、処方法則、用量、投薬タイミングすべてをメソッド通りにやってくれれば劇的改善がえられる。
(引用,ここまで)
自分のやり方に絶対の自信を持っておられる河野先生ですが,
それは時として弱点にもなりうることだと思います.
私は医師というものは基本的に謙虚であるべきだと思っています.
どんなに偉い先生であっても,間違う事はあるものだという姿勢を,
いつまでも忘れずに持ち続ける事によって,常に自分のやり方を軌道修正していく,
そういう事がとても大事になってくるのだと思います.
私はコウノメソッドを大いに参考にしますが,決して盲信することなく,
自分なりにカスタマイズして日々の診療に当たりたいと思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
コウノメソッド2014
2014年から以下の記述が新しく加わりました
◇ 認知症に関わりたいと思う医師は、コウノメソッドのみを信じればよい。コウノメソッドは数万の患者が教えてきたバイブルである。自分の方法にメソッドを加えるのではなく、完璧にメソッドどおりに処方すること
◇ ◇
ずいぶんと教条的になってしまったとの印象です
管理人のみ閲覧できます
Re: コウノメソッド2014
コメント頂き有難うございます.
私もその一文に関しては違和感を感じています.
全て自分の考えを捨てて盲信するというやり方は常に危険をはらんでいます.糖質制限もそうですが,基本を教わったら,その後の応用はやはり自分の頭で考えるべきだと思います.
コウノメソッドすごい!
Re: コウノメソッドすごい!
> ところで2013/9/3のたがしゅうblogの内容が、ドクターコウノの2014/9/8のblogに引用されていましたが、具体的にはどう変えたのでしょうか?
私の知らない所で引用されているようです.別に構いませんが.
私のカスタマイズは,差し当たり「ベンゾジアゼピン系は極力使用しない」という事です.
今後も診療経験に応じてカスタマイズはありうると思います.
Re: Re「自分なりにカスタマイズ」あるいは、「教条主義」批判と「真似(教条主義)の限界が主体性」という事の狭間で考えること(覚え書き)
コメント頂き有難うございます.考えさせられます.
ハイブリッドに関する違和感は私も感じていたところです.
「守破離」の観点で言えば,ある段階までは真似をしていればよいですが,いつかは旅立たなければならない時が来るわけです.そのための準備を着々と進める姿勢で学んでいかなければならないと思っています.
たとえ様々なものを取り入れていても,その本質がいつまでも真似であれば「破る」事はできませんね.
2014年3月6日(木)の本ブログ記事
「盲信せず考え続ける」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-202.html
も御参照下さい.
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