無駄な酸化ストレスを受けないために
2014/09/06 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:2件
CTスキャンという検査があります。
放射線を利用して身体の断面図を撮影することができる検査です。
日本では1975年に国内最初のCTスキャンが導入されました。
非常に高価な医療機器で、昔は大病院にしかない貴重なものでしたが、
技術の進歩に合わせて、我が国ではものすごい勢いで普及して行き、
米国や英国などの先進諸国と比べても圧倒的に普及率が高く、今や日本全国どこに住んでいても検査が受けられるという、
世界有数のCT大国となっています。
我々神経内科医の診療においても、CTは必須の医療機器でして、
直接開けてみるわけにはいかない脳に対して、傷つけることなく迅速に脳の画像情報を手に入れる事ができるとあって普段より重宝しています。
しかし一方で、CT検査によって生じる放射線被曝は、がん発症リスクを高めると言われています。
放射線は酸化ストレスリスクを高める要因の一つであり、その影響は無視できません。
ただ、例えばある人ががんになって、過去にCT検査を受けた事があったとして、
それがCTによる放射線被曝のせいであるという因果関係を証明するのは極めて難しい事です。
なぜならば、酸化ストレスのリスクを上げるのは放射線だけではなく、
喫煙、飲酒、過度の運動、精神的ストレスや、勿論糖質過剰を中心とした食生活の偏りによっても酸化ストレスは増加します。
たとえ放射線で酸化ストレスのリスクが上がっていても、
放射線のせいだけでがんができたという事はまず証明できないと思います。
そう考えると、気軽にCTを撮るというのは考えものです。
ある科の患者さんは、進行がんで手術ができるかどうか微妙な状況でしたが、
患者さんが手術を希望されなかったという事で、3ヶ月に1回CT検査を受けて様子を見ましょう、というマネジメントを受けていました。
しかしそれってどうなんでしょう。私からしたらがんを育てているだけにしか思えません。
しかるべき情報を与えているというのが大前提ですが、手術をしないという選択をした患者さんの意志は尊重されるべきだと思います。
上記の医師のマネジメントは、まるで「ちゃんとフォローしていましたよ」という自己保身のための証拠作りのようです。
この場合、患者さんが希望しない限りCTを再撮影しない、というのが正しいマネジメントではないかと私は思います。
また少しでもがんのリスクを下げたいのであれば、
「とりあえずCT」の風潮も極力慎むべきです。
例えば、頭が痛いというので脳の中が心配だという主訴で我々の神経内科を受診されるケースはよくあります。
そう言われると我々は頭のCTを取らざるを得ない状況に追い込まれます。
ところが、その原因の多くは脳に構造上の異常をもたらさない「CT正常」の頭痛です。
「突発」「増悪」「最悪」という頭痛の三大赤旗徴候があれば、すぐにでもCTを撮る価値がありますが、
そうでなければ「とりあえずCT」より「とりあえず糖質制限」の方がよほど価値があると思います。
自分の身を守れるのは自分です。
長い人生の中で、CT検査というのは結構大きな酸化ストレスリスクです。
医師の言いなりになるのではなく、その検査は本当に必要なものなのかと、
一緒に考え、正しく酸化ストレスと向き合えるようにしていきたいですね。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
アメリカの医療ドラマ「ER」でCTや超音波は予算の無駄だというシーンがあって随分な言い方だなと当時は思ってたんでが、今となっては一理ある思いますね。
副作用や医療費を考えても無駄な検査は極力省かないとだめですね、三割負担(高齢者は一割でしたっけ?)というのも見直したほうがいいですね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
日本の国民皆保険制度は世界的に高く評価されていますが,誰でも平等に医療が受けられやすくなるメリットを与える反面,こうした無駄な医療を受けやすくなるデメリットも抱えています.
アメリカのように自費診療にすれば,「とりあえずCT」の風潮は減るでしょうが,その代わり貧しい人が受けるべき医療を受けられなくなってしまうというリスクが生じます.
制度でどうこうしようとするのには限界があります.患者それぞれが「自分の頭で考えて」行動するのが一番と思います.
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