頭ごなしに否定をしない姿勢
2014/08/18 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:9件
例えば理論的に理想的な健康法があるとして,
もし全ての人がそれを実践する事ができれば,医療は無用の長物になるのでしょうが,
誰しもが理想的に生きることができるわけではありません.
人間はしばしば間違う生き物だと思います.
健康法を間違う事で,あるいは間違っていなくとも理想通りにいかない場合に,
人は健康を損なう事になりますが,そういう事態を元に戻すために薬の存在は有益となります.
しかし,その薬の使用は本来必要最小限に留めるべきだと私は考えています. なぜならば,薬は毒と紙一重であり,漫然と使い続けることは,
元に戻すどころか,さらに身体をあらぬ方向へ持っていく可能性があるからです.
そういう意味では薬の使用期間もさることながら,
薬の使用量も必要最小限にしておく必要があります.
先日来,話題に取り上げているコウノメソッドでは,ヒトは年を取る毎に薬を代謝する能力が衰えていくので,
高齢者に使う薬の量は基本的にごく少量で十分だという考えです.
例えば,コウノメソッドで推奨されているウインタミン(クロルプロマジン)という薬は,
1952年にフランスの海軍外科医で生化学者のアンリ・ラボリ氏により発見されたフェノチアジン系の抗精神病薬です.
統合失調症や躁うつ病などの精神疾患に用いられる最も歴史の古い薬で,ドーパミンD2受容体への強い遮断作用がある事が特徴です.
こうした作用がある抗精神病薬の事を一般に「定型抗精神病薬」と呼んでいます.
ドーパミンが興奮しすぎた状態の人に対して用いれば,切れ味よく興奮を鎮める事ができるのでよい薬なのですが,
使われていくうちに,この定型抗精神病薬にパーキンソン症状や高プロラクチン血症,体重増加,不眠,錯乱など問題となる副作用が高頻度で出現する事がわかってきました.
その状況に対して,1990年代後半から新たに非定型抗精神病薬というものが市場に出てくるようになりました.
非定型抗精神病薬は,ドーパミンD2受容体の遮断作用が定型に比べて緩くなっていたり,加えてセロトニン2A受容体の遮断という別の作用も加わっており,
結果的に定型抗精神病薬と同じような効果をもたらしながら,なおかつ定型よりも副作用は少ないという事で注目されるようになりました.
現在でも神経内科医が抗精神病薬を使う場合,定型よりも好んで非定型抗精神病薬を使う傾向があると思います.
しかしながら,切れ味の鋭さという点では非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に遠く及びません.
コウノメソッドでは定型抗精神病薬の良さを最大限に活かし,なおかつ副作用を極小にするために,その使用量に着目しました.
通常ウインタミンの常用量は1日30~100㎎と設定されているのですが,
コウノメソッドで使用するウインタミンの量は1回4㎎です.通常の量と比べていかに少ないかという事がよくわかると思います.
これが,ウインタミンの切れ味を残しつつ,なおかつ副作用も起こさないギリギリの量なのだそうです.
その教科書のどこにも書かれていない薬の量を,臨床経験から導き出したというのが河野先生のすごいところです.
そしてその薬を認知症に適用したという応用力というのも素晴らしいですね.
例えば,ウインタミンは前頭側頭型認知症の陽性症状に対し良い適応となります.前頭葉機能が低下し,ドーパミン系の暴走が止められなくなった人に使えば,本来の状態にリセットさせる事ができるからです.
もっと言えば,ウインタミンを朝は4㎎,夕は6㎎という使い分けをしたりもするそうです.
「両方5㎎ではダメなのですか?」と問えば,それでは効き過ぎたり,効果が出なかったりするというのですから,本当にそうだとすればすごい観察眼です.
ここで特に学ぶべき事は,
副作用があるから使いにくいというイメージの定着している「定型抗精神病薬」に対し,
頭から否定せずに,その薬の良いところを最大限に引き出す方法を考えたという探求姿勢だと思います.
人のイメージというのは怖いもので,一旦こうと決めつけてしまったらなかなか軌道修正が難しいところがあったりすると思います.
糖質制限を学んでいくと薬絶対主義を見直すようになり,
人によっては薬絶対拒否の考えへとつながりかねません.
完璧人間にとってはそれでよくても,世の中の人のほとんどは薬に頼らざるを得ない場面ってあると思います.
「毒と薬も使い様」という気持ちを持って,
いざという時には薬に頼ってもよい,しかしその量と期間はできるだけ必要最小限にとどめる,
そういう姿勢で私は診療していきたいですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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依存症
Re: 依存症
情報を頂き有難うございます.
依存症の問題は様々な方が取り扱っておられるようですね.
コウノメソッド 購読しました
河野先生の本を読めば読むほど いろいろ分かった気がします。義母は実はアルツハイマーではなかったんじゃないか・・義母も娘も薬の副作用が主に出ているのではないか・・など。ますます家庭での観察および思考が必要な時代だなぁと感じました。頭から否定しているのではなく、違和感を感じたら疑ってみるのも必要かもと思います。言われたとおりにアリセプトを服用しておりました。結果、悪化の一途でした。正直、後悔が残ります。今義母は施設でほぼ寝たきり状態です。いろいろ考えさせていただきそのきっかけを与えてくださったこと感謝申し上げます。
Re: コウノメソッド 購読しました
コメント頂き有難うございます.
医師側の立場で言えば,「よくなるように」という気持ちで診療するのと,「よくならなくても仕方がない」という気持ちで診療するのとでは雲泥の差です.
認知症に関して言えば,多くの医師はおそらく後者の気持ちです.コウノメソッドはそうした事態に対して問題提起をしていると私は感じています.
決して医師を盲信する事なく,それぞれの頭で考えて頂きたいと思います.
アリセプトについて
5mg, 10mgを投与してよくなった老人は誰もいません。逆に内服を中止してよくなった症例は大勢います
コウノメソッドの内容をみると、その疑問がかなり解決しました
Re: アリセプトについて
コメント頂き有難うございます。
> 5mg, 10mgを投与してよくなった老人は誰もいません。逆に内服を中止してよくなった症例は大勢います
同感です。
ただアリセプト自体は絶対悪というわけではなく、その投与量に注意が必要なのだ、という点は誤解のないようにしたいですね。
コウノメソッドの処方について
最近読んだ、「予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」」という本の中に、リスパダールとセレネースを使った場合の血清サブスタンスP濃度を比較した試験結果がありましたが、セレネースの方が有意に低かったという結果が出ています。
やはり、セレネースの方が嚥下障害を引き起こしやすいといことではないでしょうか?
この本の結論は、非定型抗精神病薬の方が定型抗精神病薬よりも安全だということです。
母が誤嚥性肺炎になったので、非定型・定型にかかわらず抗精神病薬の嚥下障害という副作用に関心があります。
母の主治医はコウノメソッド実践医です。
Re: コウノメソッドの処方について
御質問頂き有難うございます。
> 最近読んだ、「予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」」という本の中に、リスパダールとセレネースを使った場合の血清サブスタンスP濃度を比較した試験結果がありましたが、セレネースの方が有意に低かったという結果が出ています。
> やはり、セレネースの方が嚥下障害を引き起こしやすいといことではないでしょうか?
原文を確認していないので推測になりますが、おそらく常用量での比較なのではないかと思います。
一般的には定型抗精神病薬の方が、非定型抗精神病薬よりも副作用が多いとされてます。
常用量から量を減らしていけば薬の副作用リスクも少なくなりますが、その分効果も減っていきます。
その副作用が最小で、効果が最大になる最適の用量を経験的に導き出したのがコウノメソッドだと思っています。
ただ、それでも薬の本質は対症療法で、言い換えれば「時間稼ぎ」です。時間を稼いでいる間に本質的な原因にアプローチできなければ薬を使い続ける羽目になりますし、御指摘のとおり、たとえ少量であろうとクスリはリスクだと思います。
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