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認知症を「治している」医者を知る

category - 認知症
2014/ 08/ 15
                 
この夏,きよすクリニック以外に,

もう一つのクリニックへ見学に行きました.

本ブログでも時々紹介しているコウノメソッドを考案された,

河野和彦先生のいる名古屋フォレストクリニックです.

コウノメソッドは認知症診療に新しい価値観を与えた革命的な診療方式で,

私自身も神経内科医として認知症の患者さんと接する際に,その恩恵を少なからず受けています.

しかし必ずしも全てがうまくいくとは限らないというのが実情です.

そんな中,提唱者の河野先生が一体どのような診療をされているのかということを,

私はどうしても自分の目で確かめておきたかったのです.
            

そんな河野先生は,「認知症は治せる」という事を公言されています.



医者は認知症を「治せる」~かかりつけ医に実践してもらえるコウノメソッド~ (廣済堂健康人新書) [新書]
河野和彦 (著)


しかし,その「治せる」という言葉の意味は一般的な医師の考えるそれと少し違います.

例えばアルツハイマー型認知症は,アミロイドベータやタウと呼ばれる異常蛋白が脳に蓄積する事により,

神経細胞に不可逆的な変化をきたし脳機能を低下させる,それ故認知症は治らない病気だと考えられていますが,

河野先生が言う「治せる」の意味は,その不可逆的な変化を元に戻せるという意味で「治せる」と言っているのではありません.

残った神経細胞の働きを最大限に活かすこと,そして有害となってしまっている薬の副作用の弊害を可能な限り取り除くこと,

そのことによって,症状が実際によくなることを「治せる」と称しているのです.

言い換えれば患者目線の「治せる」であって,医師目線の「治せる」では決してないのです.


河野先生が常に臨床の現場で数えきれない程の数の患者さんと真正面から向き合うことで,

悪戦苦闘を繰り返しながらも,その認知症が「治る」瞬間を何度も目の当たりにされてきたということ,

その結果,編み出された方法論がコウノメソッドであって,ただ闇雲に提唱したようなものではないということが,

今回の見学を通じて知る事が出来たように思います.


河野先生はとにかくよく患者さんを観察されています.

ユーモアのあるトークで相手を和ませたりされながら

ここぞという時に患者さんの表情を残すために急にデジカメで写真を撮られますが,

それでも何ら空気の乱れる事のない独特の雰囲気作りをされています.

そしてその写真も1年後など次の診療に活かされていくのです.


また,診療の効率化が素晴らしいです.

例えば認知機能を調べるスクリーニング検査である改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,

通常実施するのに10~15分程度かかるのですが,河野先生は4~5分で終えられます.

かと言って,適当にやっているというわけでもなく,特別手を抜いたような印象は持ちません.

無駄な説明や間を省けばそういう事もできるようになる,ということなのですね.



さらに,私が見学でお邪魔したのは3時間程度という短い時間ではありましたが,

その短い時間でも噂に違わず,全国各地から患者さんが訪れておられました.

とある患者さんは,前医でアルツハイマー病と診断されますが,

どんどん悪くなっていく病状に納得ができず家族に連れられはるばる大阪から受診され,

問診,診察,そして頭部CTの所見からピック病だと河野先生に言われました.

そして「大丈夫,治るよ」と言われて,その言葉を聞いて御家族は涙を流して喜んでおられました.

その現場を目の当たりにし,これは医者として非常に価値のある仕事をされている,と感じました.


他にも参考になる点がいくつかあり,是非とも今後の自分の診療にも活かそうと思いました.



ただ一つ,糖質制限に関して言えば,河野先生は,

否定はしないものの,積極的に取り入れるというわけでもなく,

一歩引いた傍観者的スタンスであるように見えたのが正直少し残念ではありました.

私自身は糖質制限とコウノメソッドは,認知症がまだまだ急増していくこれからの時代の救世主となりうることを確信しています.

予防に糖質制限,治療にコウノメソッドを取り入れる事によって,

認知症という病気には十分に立ち向かっていけると考えています.

今回の経験を糧に,また精進していきたいと思います.


たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

コウノメソッド
名古屋フォレストクリニックにも行かれたのですね。たがしゅう先生の学ぶ姿勢・積極性に脱帽します。
小生もたがしゅう先生の言うように、糖質制限で糖尿病や認知症を予防し、仮に認知症になってしまったらコウノメソッドで治すが、良いのではないかと思っています!
Re: コウノメソッド
もうあかん さん

 コメント頂き有難うございます.

 興味のある事には自然と体が動きますね.そのおかげで学べるという事も非常に多いです.
治らない病?
コウノメソッドに詳しくはありませんが、江部先生や夏井先生も時々話題にしていますね。
河野先生のブログも見たことがありますが、何かコミカルな感じで患者も楽しそう?な感じがしますね。患者さんの変化に驚きます。

糖質制限もコウノメソッドも、治らないと言われていたものを治すというのが驚きですね。
ただ、糖質制限で糖尿病を(ほぼ完全に?)予防出来るのに対して、認知症は様々な予防法が叫ばれますが、まだ決定的なものはないのが心配な気もします。

ウコンの成分を用いた認知症の根治薬を作っているようですが、出来るのでしょうかね。。
セイゲニストはカレー粉を食べて認知症の予防!ですかね(笑)
コウノメソッドについて
 河野和彦Drが長谷川式を5分でやられるのは、講演会の動画で拝見しました。私もこれに刺激されて、やってみようと頑張っています。

 一方で、コウノメソッドに対する批判もあります 

http://toipsy.blog.fc2.com/blog-entry-441.html
Re: 治らない病?
mina さん

コメント頂き有難うございます。

> 糖質制限もコウノメソッドも、治らないと言われていたものを治すというのが驚きですね。

確かにそういう点では共通していますね。

ただ糖質制限とコウノメソッドの違いに、「根本原因にアプローチできているかどうか」という点があると思います。
コウノメソッドは言わば「究極の対症療法」だと私は評価しています。薬の副作用部分や残った神経機能をフル活用する環境作りなど、無駄を極力排除した治療戦略です。

一方の糖質制限は、糖尿病ほど確実ではありませんが、認知症の成因として現在最も有力な仮説である「アミロイド仮説」の、アミロイドの蓄積を防ぐメカニズムにつながることが示唆されています。

2014年2月3日(月)の本ブログ記事
「根本的な原因に対処しなければ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-171.html
もご参照下さい。

認知症予防に効果があると報告されているカレーのクルクミンにはそこまでのインパクトはありません。

そういう意味で私は、認知症予防にはカレー粉よりも糖質制限ですね。
Re: コウノメソッドについて
精神科医師A 先生

コメント頂き有難うございます。

コウノメソッド批判の構図は、糖質制限に対する日本糖尿病学会のそれと似ている印象です。

ここには書きにくい裏事情も知った上で、私はコウノメソッドの方を支持します。ただ、この点に関してはそれぞれが判断すればよいと思います。