経験がエビデンスを作る
2014/07/30 00:01:00 |
漢方のこと |
コメント:2件
漢方というのは徹底した経験医学です.
エビデンスという言葉もなかったずっと昔から
自然に存在する動植物や鉱物に含まれる生薬について
徹底的に実験を繰り返す事で出来上がった治療法です.
科学が確立されていない中,何千年という気の遠くなるような時間を.
ある生薬を食べてはどうなるかを調べ,また別の生薬を食べては調べ,
その結果ダメな生薬の組み合わせは淘汰され,最終的に生き残ったのが今出回っている漢方薬です.
生き残った漢方薬には,生き残ったなりの理由があるもので,
そうした漢方薬の有効性が,西洋医学の理論で少しずつ解明されてきています.
今回はこむら返りに対して有効性がある「芍薬甘草湯」を取り上げたいと思います. こむら返りについて少し復習しますと,要するに神経の過剰興奮による筋肉の痙攣という事でした.
筋肉の収縮が短い時間に何度も繰り返され過ぎている状態,とも言い換えられるかもしれません.
そんな状態を起こさないようにするためには,血流を保つ事が大事だという事は以前の記事に記載した通りですが,
すでに起こってしまったこむら返りを抑えるためには,
神経の興奮を抑え,筋肉を弛緩させる処置を行う必要があるわけです.
「芍薬甘草湯」という漢方薬は,数ある漢方薬の中でかなりシンプルな部類の薬です.
その名の通り,「芍薬」と「甘草」という二つの生薬から構成されています.
例えば,以前紹介した葛根湯は,「葛根」「麻黄」「桂枝」「芍薬」「生姜」「大棗」「甘草」の7つの生薬から構成されています.
一般的に漢方薬は長く飲まないと効かないと思われがちですが,
構成生薬の数が少なければ少ないほど速く効くという特徴があり,
「芍薬甘草湯」は即効性がある漢方薬です.飲んで数分でこむら返りが治まると言われています.
ではなぜ「芍薬甘草湯」がこむら返りにいいのかという事に関しては,
近年いろいろな事がわかってきています.
まず「芍薬」に含まれるペオニフロリンという成分は,
カルシウムイオンの細胞内への流入を抑制する働きがあると言われています.
カルシウムが細胞内に入る事で筋肉収縮のためのアセチルコリンが放出されてしまうので,
芍薬はこの流れを上流でせき止める事になるわけですね,
また「甘草」については以前の記事でも紹介しましたが,主成分はグリチルリチンでした.
グリチルリチンはコルチゾール作用やミネラロコルチコイド類似作用などによって最終的にカリウムを細胞外へ排出させますので,
甘草は筋肉の収縮を早く終わらせるように仕向けるわけですね.
実はすごい事にこの「芍薬」+「甘草」の組み合わせはこむら返りに対して,
「1+1=2」以上の相乗効果が生み出されるという事です.
実はグリチルリチンだけではそこまで即効性のある効果は期待できないのですが,
芍薬と組み合わさる事によってその即効性が発揮されるようなのです.
なぜそのような相乗効果が生まれるかという事は未だにわかっていません.
わかっていないのに,こういう組み合わせがすでに発見されているのです.これってすごいことですよね.
言い換えれば,エビデンスはなくとも,良い治療がすでに発見され,実際に患者さんの苦しみを和らげてきたという事になります.
ただこの芍薬甘草湯,注意しなければならない事があります.
即効性があるという事は,裏を返せば副作用が出やすいという事なので,
芍薬甘草湯を使い過ぎると甘草の副作用の一つ,「偽性アルドステロン症」が起こりやすいということはよく知られています.
従って,私が芍薬甘草湯を処方する時は,頓服が基本です.
即ち,予防的に飲んでもらうのではなく,痛い時だけ飲むという使い方をしてもらい副作用のリスクを最小限にします.
予防はあくまで血流の改善が第一義,それでもよくならない場合にカルシウムとマグネシウムの補充を考慮します.
一方でエビデンスがないとは言うものの,
東洋医学の理論で,こむら返りは「お血」の徴候と言われています.
「お血(瘀血)」というのは,西洋医学的に解釈すると「血液の流れが滞っている状態」の事を指します.
こむら返りの要因に循環障害があるという事を踏まえれば,
科学とはかけ離れたところから始まった東洋医学の理論も,あながち的外れではないという事もうかがえます.
これはほんの一例ですが,漢方には今の科学で解明されていないだけで,
西洋医学にはできない治療の可能性が秘められています.
糖質制限のエビデンスが不足している事がよく批判されますが,
すべてのエビデンスはエクスペリエンス(経験)から始まるという事をわすれてはいけません.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
今回のエントリーにはタイトルがついてないんですが
なんかタイトルがないと、ちょっとカオスな感じがしますね(笑)
失礼しました
Re: No title
御指摘頂き有難うございます。修正しておきました。
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