「欠乏症」=「欠乏」+「代謝障害」
2014/07/23 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:8件
「食べないと栄養失調になる」という話と,
「断食で健康になる」という話には,大きな矛盾があるように思えます.
世の中には食べない事で健康になる人と,不健康になる人がいるということです.
はたしてこれはどういう事なのでしょうか.あるいはどちらかが真実ではないということなのでしょうか.
私は「欠乏症」=「欠乏」+「代謝障害」という公式が成り立つのではないかと考えています.
つまりただ物質が欠乏するだけでは,欠乏に伴う症状は起こらないのではないかという仮説です.
そしてヒトの代謝を乱している最大の要因は糖質の頻回過剰摂取です. 私が糖質を頻回かつ過剰に摂取していた頃は,
自力で断食するという事など絶対無理でした.
すぐにお腹がすくし,その強烈な空腹感に耐えかねてしまうからです.
しかし糖質制限をしていると,少し頑張れば比較的容易に断食が実行できるという事が実体験でわかります.
その違いは,主たるエネルギーをブドウ糖-グリコーゲンシステムに依存しているか,ケトン体-脂肪酸システムに依存しているかの違いにあるのではないかと思っています.
つまり,高糖質食の時は主たるエネルギーをブドウ糖グリコーゲンシステムに頼っているので,
断食をするとケトン体エネルギーをうまく使う事ができず,断食をする事で低血糖症状をきたしやすくなります.
高糖質食と断食(絶食療法)は私に言わせれば対極にある食事療法で,
かたやケトン体が最小,かたやケトン体を最大となる食事療法なので,高糖質食から一気に断食を行う事が,身体に多大なる負担をかける事を意味します.
そういえば,江部先生が34歳の時,3日間断食をされた時はまだ玄米菜食の時代だったと思います.
御発言によれば断食3日目の血糖値は35mg/dLだったそうですが,ケトン体を有効に使えていたためか低血糖症状はなかったそうです.
高糖質食とはいえ,玄米菜食ベースであった分,少しはケトン体が利用しやすい状況であったのかもしれません.
一方,私が初めて断食にトライしたのは昨年夏で,すでに糖質制限に,ひいてはケトン体に身体が慣れている時期でした.
やってみた結果,断食3日目の血糖値は61㎎/dLでした.当然低血糖症状はありません.
最初は江部先生と私の体質の違いでそういう差が出たのだろう,くらいにしか考えていませんでした.
ところが私はその1週間後に8日間の断食にも続けてトライしていますが,6日目の血糖値は64mg/dLでした.
糖質制限をベースにした状態で断食をしていると血糖がかなり安定して一定に保たれるという事がわかります.
その最大の要因はケトン体-脂肪酸システムを主として使っているということだと思います.
燃費のいいケトン体を常に使っているので,ブドウ糖をエネルギーとして使う必要性がなく一定に維持する事が容易となり,
なおかつ血糖値が一定である事によって,血糖の蛋白質が消耗するのを節約します(糖の蛋白節約作用).
つまり糖質制限ベースの断食は,そこにケトン体がある限り,かなりの長きに渡って身体を安定状態に保つ事ができるという事を示唆していると思います.
ただ,「言うは易し,行うは難し」で,
たとえ糖質依存が取れていても,今までの食習慣という習慣依存の部分があります.
糖質制限ベースの断食であっても,食べ物や食べ物の情報(テレビなど)が豊富にある環境で過ごしていると,
容易にドーパミンが刺激されてしまい,食欲が掻き立てられ断食を続ける事が難しいというハードルはあると思います.
それでも高糖質食から断食する場合に比べて圧倒的にやりやすいというのは間違いないと思います.
まとめると,「食べない」というだけでは栄養失調にはならず,
「高糖質食が基本にある人が,食べないと栄養失調になる」という事ではないかと思います.
そして,もしも高糖質食の人が,断食に挑戦する場合は,
いきなり低血糖にならないようにゆっくりと食事量を減らしていく段階が必要になるのではないかと思います.
時々とりあげる幕内秀夫氏の糖質制限批判本の冒頭に次のような事が書かれています.
世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」
(講談社+α新書 134-7B) [新書]
幕内 秀夫
(p16より引用)
私はこれまで,六本木の診療所をはじめとする医療機関で何千人もの人々の食生活を見て,改善指導をしてきました.
相談に来る若い女性の多くが,「何年にもわたって生理がない」という症状を訴えていたのですが,
じつはその原因のほとんどが,「ダイエットの失敗」でした.
なかでも,糖質制限食ダイエットがなかった時代から,「ごはんを抜いたダイエット」が圧倒的に多かったことは確かです.
(引用,ここまで)
これははたしてそうでしょうか.
糖質制限の基礎理論が確立されている今だからこそ,
自信を持ってごはんを抜き続ける事ができますが,
まだその理論が確立されていない時代に,たとえごはんを抜くと経験的に体重が減りやすいという事を知っていたとしても,
永続的にごはんを抜き続けるという行為をしていた人がそんなにたくさんいたかどうかを考えると甚だ疑問です.
おそらく「ごはんを抜いたダイエットが圧倒的に多かった」というのは,糖質制限を批判したい幕内氏の主観的な解釈であり,
実際には「食事を抜いたダイエットが圧倒的に多かった」であったと考える方が自然なのではないかと私は思います.
高糖質食から一気に欠食したりするから欠乏症を起こし,
その結果生理が止まったりしているのではないかと思います.
一重に断食と言っても奥が深く,
糖質制限理論のおかげで,その奥深さが少しずつ科学的に解明されてきているように思います.
私は将来臨床にも使えるように,
正しい断食を追求していきたいと思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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糖質制限ダイエット
ケトン体質の人が断食をするのと、高糖質体質の人が断食をするのは、ダメージ感が違う(そういう表現で適切かは分かりませんが)
っていうのは、並みのダイエット法が流行ったらいちおう試してきた私には合点がいきます。
今、私は糖質をわざわざには摂らない生活ですが、1日食べないことが1日断食と言えるなら、全く困難なことではないと思えます。結果的に1食2食抜けちゃった日でも、なんともありません。
糖質制限をしていると、おなかがすかないんですよね。肝臓がコンスタントに糖新生を働いてくれるのでしょうね。ありがたいです。
脂肪を控えてキノコやカロリーの低いものを中心にした食事法、低インシュリンダイエットでGI値の低いものを選んだりする食事法では、おなかがすいて体力が出なくなるものでした。糖質を制限するわけでないから、食後高血糖のあとのひどい空腹感はラクではありませんでした。
私も、幕内先生の新書は読みました。幕内先生が一番心配するのは、成長期の身体をつくることが大事な時期の女子が、中途半端な知識で糖質制限ダイエットをすることなんだと思いました。
Re: 糖質制限ダイエット
コメント頂き有難うございます.
「ケトン体をうまく使える状況にあれば,食べない状態が続いても長く現状維持できる」という事をエリスさんも実際に体感されているようですね.
> 幕内先生が一番心配するのは、成長期の身体をつくることが大事な時期の女子が、中途半端な知識で糖質制限ダイエットをすることなんだと思いました。
確かに誤った知識で糖質制限(例:低糖質+低脂質)するのは,問題だと思います.
私が患者さんに伝える時はその点十分に配慮しますが,自己判断で糖質制限をされる方はその辺りは十分勉強した上で実践してもらいたいものです.
仮に勉強せずに始めたとしても,やりながら軌道修正していってほしいものです.自分で考える事さえ怠っていなければ,それができるはずです.何を隠そう私がそうでした(最初私は米,パン,めんだけを食べて,お菓子は普通に食べていましたので).
なお,成長期のこどもが糖質制限をする事自体は私は否定しません.
シーベリー
No title
まだ大きな病気にはなってませんが
健康のことを考えて3か月前から
3食糖質制限をやり始めました。
(…といっても厳し過ぎない程度です。)
このまま続けていきたいと思っていますが、
気になることが1つ。
今まで全くニキビとは無縁だったのに、
最近顔中にニキビが発生しました。
脂性肌になってしまったようなんです。
これは糖質制限と関係があるのでしょうか?
化粧品や生活習慣は変えていません。
食生活だけ糖質制限に変化しただけなので、
急な食生活変化でホルモンバランスや
内臓や腸内関係に異常が発生したのか、
悪玉コレステロールが増殖したか、
・・・といろいろ考えてしまって不安です。
今後も糖質制限を続けていきたいので、
この脂性肌&ニキビ大発生で
考えられることがあれば、
ご助言いただけるとありがたいです。
Re: シーベリー
コメント頂き有難うございます。
果物に含まれる果糖は、確かに血糖値は上げませんが害もあります。
また果物にはブドウ糖も含まれているので、摂りすぎには注意が必要です。
2013年11月16日(土)の本ブログ記事
「果物の甘い罠」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-89.html
も御参照下さい。
Re: No title
御質問頂き有難うございます。
診察していないので推測になることをご了承下さい。
例えば糖質制限前にコレステロールを抑えた食事をしていた人の場合、
自分の肝臓でのコレステロール合成能が高まっている事があります。
通常内因性8割、食事性2割と言われているところが、内因性9割、食事性1割になっていたりするかもしれません。
そこにスーパー糖質制限食で、十分な脂質摂取をして食事性3-4割になったりすると、
9割に高まった内因性脂質合成と併さり、一時的に脂質過多になる可能性はあると思います。その結果がにきびの悪化につながった、という可能性はあると思います。
もしもそうであれば、食事量を減らすか、食事回数を減らすかというのが対策になってくると思います。
ただ、そうした状態も半年〜2年くらいで肝臓での合成量も落ち着いてくるので、にきびが落ち着いてきたらまた食事量を戻すという調節をしてもよいかと思います。
断食
幕内栄養管理士がちょうど断食(食事抜き1週間)をされているようです。
取材や講演が1週間無く自宅にいる時間ができたからだそうです。今は回復食期間(ペットボトルの甘酒+お吸い物)でこれを1週間続けるそうです。
高糖質食と低糖質食の人の断食中に起こる体調変化はとても興味があるところです。たがしゅう先生が断食をされたとき、体の不調はありましたか?
幕内氏の糖質制限に対する批判は氏の考える「粗食」から始まっていようですね。
米食を擁護し砂糖と油を徹底的に悪者にする。
糖質+油(脂)が健康を害していることに気づけなければ真の健康にたどり着けないように思います。
幕内氏には断食ついでに1週間ぐらい糖質制限を試してほしかったなって思いますね。批判をされるならまずは自分で経験してみるって大事なことですもの。
回復食に甘酒をチョイスされているところが糖質依存度をあらわしているようにおもえました。
Re: 断食
御質問頂き有難うございます。
> たがしゅう先生が断食をされたとき、体の不調はありましたか?
初回の断食で3日目あたりに時折軽い立ちくらみはありましたが、普通に外来できました。
2回目の8日間断食の時はもう少し楽に過ごせましたが、流石にその先仕事に支障が出ないかどうかが不安になって一時中断しました。
その頃の記録は残してあるので、いずれブログで紹介しようと思っています。
高糖質食からの断食と、低糖質食からの断食は、似て非なるものだと思っています。
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