Post

        

たとえ命を救えても

category - 普段の診療より
2014/ 07/ 03
                 
糖質制限がいかに理論的に正しかろうとも、

実践しなければ益を得ることはできません。

自分の頭で考えて、納得して実践するというのが必須の作業です。

ところが世の中には自分の頭で考えずに、

主に慣習で動いている人がいかに多いかという事を思い知らされます。

私は神経内科医ですので、

脳梗塞という脳の血管が詰まる病気を診る機会が多いのですが、

脳梗塞の治療は時間との勝負といわれています。時間が遅ければ後遺症が残ってしまうからです。
            

そんな中発症から4.5時間以内であれば、t-PA(アルテプラーゼ)という強力に血液を溶かす薬も使用できるので、

運がよければ後遺症を残すことなく脳梗塞を治すことも可能な時代に入ってきました。

それでも4.5時間以内に薬を使うためにはさまざまなハードルがあります。

脳梗塞を起こした瞬間に誰かが近くにいて、すぐに救急車を呼ぶ事ができて、

なおかつ病院で検査をして、禁忌事項に該当するような条件(例:著明な高血糖、血小板低下など)がなく、

本人・家族に治療内容を説明して、効果は高いが危険を伴う治療だという事を了承してもらう事ができてはじめて使える薬です。

しかもその薬を使っても血栓が溶けない場合も少なくありません。

だから治療の質が向上したとは言え、脳梗塞は予防するに越したことはないのです。

脳梗塞の予防には、まだ脳梗塞を起こす前の「一次予防」と、すでに脳梗塞を起こした人が再発しないようにするための「二次予防」とがあります。

そしてそのいずれの予防に対しても、動脈硬化リスクを減らす糖質制限は有効であるわけです。


さて、先日脳梗塞で入院した50代の男性がいました。

糖尿病があり、かかりつけでSU剤を継続処方され、ろくに食事指導も受けていないような方でした。

この方は運よく早めに来院され、発症から3時間程でt-PAを投与し、ほぼ後遺症なく症状を改善させる事ができました。

一歩間違えれば命に関わる程大きな症状をきたした脳梗塞だったので、

これは非常に価値のある治療であったと私は自負していました。

そして再発予防のため、血液をサラサラにする薬を飲ませるとともに、

糖尿病のコントロールのため、糖質制限の選択肢も提示しました。

「やってみます」との御返事を聞いて入院中にSU剤を中止、主食半量から実践することにしました。

血糖値を随時測定して問題ないことを確認、インスリン分泌も保たれ、ケトン体の上昇も確認しました。

その後無事に自宅退院の運びとなり、引き続き私の外来で経過を見守ることにしました。


ところが、1ヵ月後やってきた際には糖尿病はよくなるどころか、悪くなっているのです。

HbA1cは急増悪し、ケトン体も消失。どう考えても糖質が制限できていないデータです。

しかし患者さんに聞けば、「米は食べていない」「パンもめんも食べていない」「お菓子もそんなに食べていない」と言います。

では何を食べたのかを尋ねても、「今日は食べていない」「昨日のことは覚えていない」といった何とも納得しがたい返事です。

あげくの果てに、「前に出してもらった薬(SU剤)をまた処方してください」と言う始末です。

やむなく私はこの患者さんへSU剤を再処方することとなりました。




なんともやるせない気分になりましたが、

たとえ運よく命を救えたとしても、

本人の気持ちが変わらなければ、

また同じことを繰り返してしまうだけなのかもしれません。

しかし、それでも私の仕事は患者さんを助けることなので、

ただ目の前の患者さんに対して全力を尽くし続けるしかありません。



たがしゅう

関連記事

            
                                  

コメント

非公開コメント
        

自分との戦い
先生のお気持ち、お察しします。
糖質制限は糖質の依存性との戦いですから、上手く続けられないという時があっても当然だとは思います。
しかし、嘘ついてまで制限してると申告した上で従来の方針に戻してくれというのは、患者を信じて指導していた先生への裏切りに等しいでしょう。
気持ちが伝わっていかないというのは悲しいですね。
まぁ、こういう風になってしまうのも含めて糖質の魔力なのかもしれませんが。。

ところで糖質制限が脳梗塞の予防になるとのことで、聞いて安心しました。
私の祖父は90を超えても特別な介助なく日常を送っていましたが、突然の脳梗塞(動脈の一つに梗塞)でt-PAも効果なくそのまま亡くなりました。

その日脳梗塞予防の薬を飲み忘れていた事とか、前日に少し無理して病院に行った事とか、あんなことしなければこうならなかったんじゃないか、と今でも思うことがあります。
こんな思いはもうしたくないし、させたくもないので、糖質制限に取り組んで広めたいと思います。

少し関係ありませんが、祖父の脳梗塞の際は本当に医師は大変な思いをしているものなのだと後になって感じております。
と言いますのも家族が医師からt-PAの説明を受けた際、その時は治療しない事なんて考えもしませんでしたから、そのままt-PAをお願いしたのですが、
説明の際、「脳出血の危険」などと併せて「効果があったとしても今までと同じような生活が送れるかはわからない」という旨の事を繰り返し言ってくれました。

非常に高齢で且つ重い脳梗塞でしたから、治療の結果重い後遺症が残った場合、家族も苦労するという事を想定してくれた上で、自然にまかせ治療をせず見送るという道もあるんだという事を暗に示してくれたのだろうと後になって気づいたんです。

記事のタイトル「たとえ命を救えても」とはまた意味が違いますが、重大な決断に立ち会い患者と家族の事を考えるということは大変なことだと、心に刻まれました。
Re: 自分との戦い
mina さん

コメント頂き有難うございます。

> 非常に高齢で且つ重い脳梗塞でしたから、治療の結果重い後遺症が残った場合、家族も苦労するという事を想定してくれた上で、自然にまかせ治療をせず見送るという道もあるんだという事を暗に示してくれたのだろうと後になって気づいたんです。

とても大事な視点だと思います。

命を助けるだけが医療の全てではありません。

家族の死に直面した時に、それをどう受け止めるかを決めるのは個人の価値観です。どんな形であっても生きていてほしいと思うのか、無理せず自然に見送るのか。絶対的な正解はないと思います。

ここでも「自分で考える力」を持っていないと、こんな大事な決断でさえ『先生にお任せします』という残念な判断になってしまいます。

2014年6月21日(土)の本ブログ記事
「受け身に慣れた患者達」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-310.html
も御参照下さい。
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
感想
90を越えてもいつまでも長生きできる、という幻想。
医療への過大な期待と医師への圧力。
死への準備をしてこなかった。
高齢者医療は、若年や中年期までと大きく異なること。

を患者家族の方は振り返っていただきたい。


特に、無駄な医療行為で40兆円に迫る医療費がかかり、国民に負担をかけていることを、医療者も患者家族も理解してほしい。

国家破産の危機が一部から言われていますが、医療費は主因の一つです。

Re: タイトルなし
ゆりママ さん

いつも有難うございます。

ただ今回はそちらに参加する予定はないのです。

申し訳ありません。また別の機会に検討させて頂きます。
Re: 感想
ghy さん

コメント頂き有難うございます。御指摘の通りだと思います。

自分で考える力を皆が養えば、少しずつでも世の中は変えられるのではないかと考えています。
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
アレルギーについて
糖質制限を始めた頃、貨幣状湿疹が悪化し、結果、自家感作性皮膚炎となりました。
糖質制限をすることでアトピー等皮膚疾患もよくなるということだったので、アマニ油を飲みながら糖質制限も並行して経過をみました。滲出液が出る処はプラスモイストを使ってましたが、発汗もあり皮膚症状が悪化し、皮膚科に罹りました。
糖質制限で一週間に3kgほど落ちたのですが、脂肪分解の過程でアレルギー発症ということも考えられるのでしょうか?元々、アトピーはないけれど花粉症ありのアレルギー体質です。
リノール酸(ごま油)の摂取量が増えたことも要因かな、と思ってます。
先生の【脂質メディエータ―によるアレルギー制御】も読みました。今回は脂質メディエーターが促進に働いてしまったのでしょうか。
自家感作性皮膚炎と糖質制限を検索しましたが、私が尊敬している先生方のブログ等では記事を探せなかったのでコメントさせて頂きました。
元々貨幣状湿疹があったのだから、関係性はないのではないかと言われるかもしれませんが、低脳な頭だけでは、関係あるように感じられます。
今後は、糖質制限を継続することで皮膚状態の改善を祈ってます。
皮膚科・アレルギーの先生で糖質制限に理解ある方が出て来ることも祈ってます。
長々とすみませんでした。
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: アレルギーについて
aki さん

 コメント頂き有難うございます.

> 糖質制限を始めた頃、貨幣状湿疹が悪化し、結果、自家感作性皮膚炎となりました。

 アレルギーに関しては一筋縄にはいかない事も私も患者さんで経験しています.

 どうして糖質制限によってアレルギーが誘発されるのか,今の私では残念ながらうまく説明する事ができません.私自身に実体験もないので,現時点では理論を元に当事者にいろいろ考えて頂くしかないかもしれません.

 ただアレルギー以外にも糖質制限だけでは十分ではない病態はあります.

 がんや認知症,パーキンソン病,脊髄小脳変性症,筋委縮性側索硬化症などがそれに当たると思います.

 そうした病態に対して糖質制限に加えて一工夫を加えるという必要性に,私の想いは及んでいます.整理ができたら一度記事にしたいと思います.