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受け身に慣れた患者達

category - 普段の診療より
2014/ 06/ 21
                 
食事療法と薬物療法の最大の違いは,

能動的か受動的かということだと思います.

食事療法を行う場合,最初の指導は他者からあったりはするものの,

最終的には自分で理論を理解して能動的に実践するという事が必要になります.

しかしながら,薬物療法の場合は,基本的に医師から受けた処方箋の通りの内容を,

言われた通りにただ飲むだけで,あまり自分の考える余地はありません.

そして私が医師をしていて頻繁に聞く患者さんの言葉に,

「先生にお任せします」というものがあります.
            

あるいは「私たちは素人だから難しい事はよくわかりません」とも言われます.

しかし,少なくとも糖質制限の理論はそんなに難しい事ではないと思います.

先日もある患者さんへ.

糖質制限の理論をひとしきり説明し,

忘れられないように紙に書いて図で示して,

さらに参考書籍まで貸し出して,次回までに実践してもらうよう約束を取り付けていました.

再診の際に私がその患者さんへ「糖質制限やってみましたか?」と尋ねると,

「やっていますよ」と答えます.

そこで「具体的にはどのようにやっていますか?」とさらに尋ねると,

「野菜をしっかり食べるようにしています」というように,

私が指導していない内容に,いつの間にかすりかわっているのです.

そこで「この間渡した紙に,そんな事は一言も書かなかったと思うのですが…」と続けると,

「・・・確か書かれた紙はあの時もらわなかったように思うんですが・・・」と答えられます.

そんなはずはありません.

私は糖質制限を指導した全患者さんに何らかのメモを手渡していますし,

カルテにその事をいつも明記しています.

さらに「お貸しした本は読んでみられたのでしょうか.」と尋ねると,

「・・・読みましたが,私にはちょっと難しくて・・・」と答えられるのです.


ここまでのやり取りを行って直後の私の感情は

「こんなに丁寧に指導しているにも関わらず,どうして実践してくれないんだ」

「なんで何も実践していないのにわかったふりをしたり,わかっていない事をごまかそうとするんだ」


そんな怒り混じりのものでした.

しかし少し時間がたって冷静になって思いました.

この患者さんはおそらく今まで病院での治療をずっと受動的に受けてきたのであろうと,

何も考えずに薬を飲んでいればよかったそれまでの治療と違って,

食事療法は自分で実践しない限り,誰も実践してくれません.

そして能動的に食事療法の理論を理解しようとしなかったこの患者さんは,

おそらく従来の健康にいいと思われる「野菜をしっかり食べる」という食事療法をしたのでしょう.

あるいは,もしかしたら本当はその「野菜をしっかり食べる」さえ実践していなかったかもしれません.

だからこそ,「そんなメモはもらってない」とか「難しいからわからない」とか言ったのではないでしょうか.

しかし本当は「難しいからわからない」ではなく,

自分で考える事に慣れていないから,自分で考えようとしないからわからないのだと思います.



考えてみれば,そのような事はこの患者さんに限った話ではありません.

「患者の権利」というような事が声高に叫ばれて,

十分な説明を受けた上での同意を意味する「インフォームドコンセント」という言葉も聞かれるようになって久しいですが,

その実は結局,医師の誘導のままに決断をする患者さんばかりで,

自分の頭で考えられている患者さんは一体どれほどいるでしょうか.


自分の健康の事なのだから,

もっと真剣に自分と向き合って考えてもらいたいと切に願います.



たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

No title
たがしゅう先生こんばんは。
受け身の患者さんのお話ですが、多くはそのようなものだと思いますよ。
受け身という立場にいることで、これでいいんだと自分を安心させているのだと思います。それで実際に納得できるかどうかはわかりませんが。
少なくとも私はそういう生き方嫌ですけどね。

受け身で生きることに何もいいことはありませんよ。
果報は寝て待てとは実行したものが言える言葉です。
私から見れば受け身な人は患者関係なく無い物強請りだと思います。
Re: No title
タバスコ さん

 コメントを頂き有難うございます.

> 受け身で生きることに何もいいことはありませんよ。
> 果報は寝て待てとは実行したものが言える言葉です。


 「人事を尽くして天命を待つ」という言葉もありますものね.

 多くの患者は医師に自分の健康をただ委ね,自分の頭で考えず人事を尽くしていない事に気が付いていない,というのが今の医療の現状ではないかと思います.
良くなって欲しいという心が伝わらない
>自分の健康の事なのだから,
 もっと真剣に自分と向き合って考えてもらいたいと切に願います.

本当にそうですね。

私の兄嫁(糖尿病)にも、農家出身のためか伝わりません。
合併症にならなければ良いのですが・・・

切ないです・・
Re: 良くなって欲しいという心が伝わらない
長谷川 さん

> 切ないです・・


 作家で精神科医の斉藤茂太先生の言葉です.

 『自分を上機嫌に保つコツのようなものを身につけた.そのコツは,実は二つしかない.

 一つは,他人と自分をくらべて,どうのこうのと思わないようにしていることだ.

 もう一つは,お金が足りないかもしれないとか,あの一言はひどいなあとかいうような

 心を暗くすることは,できるだけ忘れてしまうようにすることである

 この二つを身につけるだけで,人生の悩みのほとんどは消えてなくなってしまうに違いない.』
No title
このところ糖質制限推進派がおかしな方向に向かっていっているようで心配です。江部先生が言うから間違いないとか、夏井先生がそう言うんだから、というセイゲイストが多いですが、それもひとつの受身的態度であろうと思います。

江部先生や夏井先生の功績に異を唱えるつもりは微塵もありませんが、江部先生のブログ上で糖質オフ食品やレストランの宣伝を目にするたびに、「余計なものを引く」よりむしろ「足す」ほうに貢献してるように感じます。また、夏井先生のブログで人工甘味料が肯定的に捉えられていてびっくりしました。(ましてや「ウソも方便」って…) そしてともに、血糖値と体重だけにこだわりすぎに思います。(あと、飲酒を正当化しすぎです。)

砂糖、人工甘味料、穀物(とくに小麦)が脳神経に及ぼす害がもっと叫ばれてもいいはずです。

なので、ここ最近、私はむしろ下記のブログで勉強しています。
かくちゃん http://ameblo.jp/jykdkk/
あおい歯科 http://ameblo.jp/aoi-shika/
お二方とも糖質制限経験者ですが、いまはその動向に懐疑的です。

あと、たがしゅう先生もすでにご存知のカプリンチョ先生と川本先生。
カプリンチョ先生 http://低糖質.com/review/
川本先生 http://hukujin.exblog.jp/
いまなお糖質制限支持派ですが、アプローチや説明が多角的で納得できます。

もちろん、たがしゅう先生のブログも引き続き拝読していきますし、糖質制限も続けるつもりです。ようは、ひとつの説を盲信しないということです。

たがしゅう先生は比較的お若いようなので大変でしょうが、どうか批判的かつ柔軟な思考をぜひ持ち続けて下さい。

(コメント内容に差しさわりがあるようでしたら非公開にして頂いて結構です。)
Re: No title
Jo さん

 率直な御意見を頂き有難うございます.

> ようは、ひとつの説を盲信しないということです。

 それは私も同意見です.

 どんなに偉い先生の言う事でも盲信せずに,一度自分の頭の中に取り入れて考えてみる必要があると思います.それは江部先生,夏井先生とて例外ではありません.

 2014年3月6日(木)の本ブログ記事
 「盲信せず考え続ける」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-202.html
 も御参照下さい.

 ただし,糖質制限という世界を教えて下さった江部先生,夏井先生の両先生への敬意だけは私は決して忘れません.

 その上で,いろいろな意見を取り入れて,自分の中で納得ができる糖質制限の形へ昇華させていきたいと考えています.
絶対は無い
非糖尿で糖質制限歴2年30代男性です。

他人の知識や技術なり、何かを取り入れる際は、
その時点では受け身になるのではないでしょうか。
後は体験なりして、自分で考えて今後どうするか、
この時点で主体になるわけで。

『糖質を食べる人』からすれば、
『糖質を食べない人』は大多数が異質に映ると思います。
目的はどうあれ、糖質制限を続けることって自分なりの拘りがあるわけで、
実行していない人からすれば、変わった人(考え方)と感じとられます。

何かの数値に拘るのだって、それが解りやすかったり、
測りやすい等の理由があるはず。
穀物や甘味料、たまに食べるの大いに結構。
正しい、間違いを絶対と決めつけること自体が危険なのだと思います。
拝見して
おはようございます。
江部康二先生と夏井睦先生のブログを拝見しました。先生方は、糖質制限初心者や続けるのが苦しいと感じる人にも敷居が高くならないように、高血糖を避けるためのナンチャッテ食材やレストラン、工夫、考え方を伝えてくださっているのだと思いました。
紹介するのと奨励するのとは、違うし。

自分なりのパターンで糖質制限ヘルシー&ビューティー生活を確立したからよかったけれど、今、糖質制限の情報を取り入れようとするとA論、B論あって、たいへんということなんですね。
Re: 絶対は無い
ラックマン さん

コメント頂き有難うございます。

> 他人の知識や技術なり、何かを取り入れる際は、
> その時点では受け身になるのではないでしょうか


それはそうですね。

以前紹介した「守破離(しゅはり)」の概念が参考になります。

私自身も、一番最初は細かい事は抜きにして、夏井先生のおっしゃっていた「主食を抜くと体調がいい」というのを真似する所から始めています。

しかし、その後江部先生をはじめとした様々な先生方の見解を学ぶ事で、自分なりの糖質制限、ひいては食事というものとの向き合い方とその理想が徐々にわかってきており、「守」から「破」の段階へ向かいつつあります。

2014年3月6日(木)の本ブログ記事
「盲信せず考え続ける」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-202.html
も御参照下さい。

ただ、記事で紹介した患者さんは「守」の段階にすら入っていません。

受け身そのものが問題なのではなく、受け身に慣れた事で自分の頭で考えなくなってしまっている事が問題だと私は感じています。
Re: 拝見して
エリス さん

コメント頂き有難うございます。

> 糖質制限初心者や続けるのが苦しいと感じる人にも敷居が高くならないように、高血糖を避けるためのナンチャッテ食材やレストラン、工夫、考え方を伝えてくださっているのだと思いました。

そうですね。いろいろな考え方があっていいと思います。

ただし、たくさんある考え方の中で、どこに自分の落とし所を求めるかは、それぞれが自分の頭で考えなければならないと思います。

少なくとも「何かあったら誰が責任をとるのか」と言うような人は、やってはダメですね。