脂肪を減らして太るという事実
2014/06/19 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:7件
重症筋無力症という神経難病があります。
「重症」という枕詞がついていますが、いわゆる「病状が重い」という意味ではなく、実は「重力の性質を持った」という意味なので、
軽症の重症筋無力症もあれば、本当に「重症」の重症筋無力症もあるので、誤解を生みやすい病名です。
これは簡単に言うと、筋肉を動かすための「神経」と、動かされる「筋肉」の間(これを医学的には神経筋接合部と言います。)に不具合を生じて、筋力が低下してくる病気です。
その原因が「アセチルコリン受容体抗体」という自己抗体だという事までわかっていますが、
なぜそんな自己抗体が作られてしまうのか、ということまではわかっていないので、
現時点でこの病気を根治させる方法はまだ見つかっていません。 そこで治療としては、自己抗体が作られないように免疫を抑える薬を使用したり、筋肉を動かすアセチルコリンという神経伝達物質を増やす薬を使ったりするのが基本になります。
そして免疫を抑えるのに使用される薬のうち、中心的な役割を果たすのが「ステロイド」という種類の薬です。
このステロイド、確かに強力に炎症を抑える働き(抗炎症作用)を持っていますが、
反面、副作用が多いことでも知られています。その最たるものが「太る」ことです。
さて、私の患者さんで、60代の重症筋無力症の方がいるのですが、
その方は、病気の勢いを抑えるためにプレドニンという名前のステロイド薬を15mg/日使用しています。
この15mgという量は言わば中くらいの量で、副作用を出してもおかしくない投与量です。
本当は減らしてあげたいのだけど、減らすと病勢が再増悪し、再び筋力が衰えてしまうと入院を余儀なくされてしまいます。
だからやむをえず15mgを使っていますが、この方も案の定太ってしまわれるのです。
そこで糖質制限推進派の私としては当然、減量のために糖質制限を勧めます。
理屈も分かってくれて、ある程度私に信頼をおいて下さっている方なので、実践しようとはなさるのですが、
どうしても糖質の誘惑に負けてしまい、肥満のまま一進一退の日々が続きました。
そうこうしていると、ステロイドの別の副作用である「骨粗鬆症」が顕在化し、
先日、腰椎の圧迫骨折を起こされてしまいました。
当然この副作用のことも把握していたので予防の薬は投与していたのですが、それでも骨折してしまいました。
肥満に伴う骨への負担増加が一因としてあった可能性は否定できません。
ともあれ、腰部の激痛をきたし動けなくなってしまったこの患者さんは、整形外科へ入院される事になってしまいました。
私にとってはまずい展開です。何しろ入院したらほとんどの医師、栄養士が糖質制限など知らない/もしくは糖質制限に反対であるという人ばかりですから、
入院したら普通に米が出される事は必至でしょう。
私はせめてものアドバイスとして「米は少し残すくらいでやってくださいね」と言って、患者さんの入院を見送りました。
この患者さん、しばらくはやせられなかったのを悔やんでか、私のアドバイス以上に主食をほとんど食べない形で入院中頑張っておられました。
しかしそれも数日、整形外科の入院主治医や看護師達より「米をちゃんと食べてください」という総攻撃(?)を受けて、
なくなく主食を食べることにしたそうです。ただしその代わりの処置として、
「高度肥満者用の食事」というメニューに変更されることになりました。
それはいったいどんな食事なのかと申しますと、
カロリーをかなり控えめにして、なおかつ脂質の割合をぐんと落とした内容の食事です。
言ってみれば「逆ケトン食」です。私に言わせれば栄養バランス最悪です。
その食事に変更されて2週間、患者さんの体重は2kg増加していました・・・。
この状況をみて、その指示を出した医師、提案した看護師、メニューを作った栄養士はおかしいと思わないのでしょうか。
そうした人達は「脂肪が太る原因」と信じて疑わないから、こうした事実をみても「ステロイドを飲んでいるからだ」と自分たちの都合の良い解釈をして終わってしまうのかもしれません。
こうなれば早く退院して、今度こそしっかり減量に取り組んでもらう事を願うばかりです。
「郷に入っては郷に従え」とは言うものの、
聞いていて苦々しい思いがする話でした。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
いつもブログを読ませていただいております。
今回のお話、心情よくわかります。
私の弟が糖尿病による顔面神経麻痺で、
この春に10日入院したのですが、
ステロイド処方に加えて出された食事が
米をがっつり食べさせる入院食で、
あげくインスリンの投与量を増やされました。
この入院以降、糖質制限にたどり着き、
今では家族全員で糖質制限をしておりますが、
たまに弟は「入院時に米が出たんだけど…」
と、米に対しての未練を言うことがあります。
糖質に対する意思が弱い人間にとっては
入院食は「医者の免罪符」になってしまうので
ホント困りますね。
まさに本末転倒
私は通所介護に勤務しています。
つい先日、重症筋無力症を患っている利用者さんの
話題が出たので、個人的にタイムリーな記事でした。
で、まさに本末転倒。
主治医や看護師はなんのために痩せさせたかったのか。
ヒモジイおかずで、ご飯はバクバク(と言っても少ない)食べさせられ、
なおかつ体重は増加。。。ほんと、何考えてるのかと。
これ患者からクレーム出たら、何て答えるんでしょうか?
きっとステロイドが~のくだりで済ませるんでしょうね。
最近、糖質制限実践派の母と2人で流行っているフレーズ。
知人「ねえ、どうすれば、そんなに痩せて維持できるの?」
母 「(糖質を)食べなければ痩せますよ。」
知人「それが、なかなか出来ないのよね。」
母 「間食や寝る前に(糖質を)食べなければいいですよ。」
知人「解ってるんだけど、我慢出来なくて。」
母 「(解ってるんなら、どうしてやらないのかしら)」
私は最初聞いたとき、ニヤニヤが止まりませんでした。
みんな、やるべきことは知っているけど、正しいやり方を知らないだけ。
以前は知り合いに糖質制限を勧めていましたが、今は母も私もだんまりです。
真剣に話を聞いて実践してくれる人にだけ説明してます。
そういう人が殆ど居ないのも事実ですが。。。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> たまに弟は「入院時に米が出たんだけど…」
全国の入院可能な医療機関のほとんどが糖質制限を導入していないというのが現状です。
現在私が糖質制限を指導していて困る事の一つです。「じゃあなぜ入院食には米が普通に出るのか」と聞かれた時に、「病院ごと、栄養学ごと間違っているからだ」という本当の事を言ってもなかなか理解して下さる人はいません。
今はとりあえず「新しい食事療法なので病院として対応しきれていない」と話し、主食半量を提案することが多いです。
まさに、地道な普及活動が大事になってくると思います。
Re: まさに本末転倒
コメント頂き有難うございます。
> 母 「(解ってるんなら、どうしてやらないのかしら)」
「わかっちゃいるけどやめられない」は中毒の構造です。
糖質以外にも、様々なストレス反応が人間の意志力を阻む様々な阻害因子となります。それに気付かない限りその人は中毒の虜となり、そこから逃れる事が出来なくなってしまうでしょう。
2014年6月3日(火)の本ブログ記事
「長期的な目標を達成するために」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-292.html
も御参照下さい。
管理人のみ閲覧できます
辛いのは誰か
糖質をやめたいのに誘惑に負けてやめられない、
いざ糖質制限を始めたら周囲から批判され、
痩せると言われてまずい食事を食べさせられて太る・・・
糖質制限は糖質の依存から抜け出せればなんてことないのに、名前からしてまずそうな高度肥満者の食事なんて、患者にとって苦行でしかないでしょう。。(見たことないから知りませんが。)
百歩譲って痩せるとしても、続けようなんて気は起きないでしょうね。
患者のやる気を削ぐばかりで、患者の精神面の落ち込みを考慮すると、回復を遅らせる要因にもなりそうです
患者さんは入院しててどんな思いを巡らせてるんでしょうかね。。先生の言うことを信じていてくれればいいですね
Re: 辛いのは誰か
コメント頂き有難うございます.
> 糖質制限は糖質の依存から抜け出せればなんてことないのに、名前からしてまずそうな高度肥満者の食事なんて、患者にとって苦行でしかないでしょう
私もそう思います.
エネルギーは足りないわ,でも糖質の依存性の影響はしっかり受けるわで苦行以外の何ものでもないと思います.
それでも気づかない医療関係者です.パラダイムシフトが起こるまでは自分の身体は自分で守るしかないと思います.
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