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糖質過多は真の栄養失調

category - お勉強
2014/ 06/ 08
                 
糖質の害は多岐に渡ります。

血糖値を上げる、太らせるという面がとかく注目されがちですが、

非必須栄養素である糖質は一時的な快楽と引き換えに、万人に何らかの害をもたらします。

そして、太れない人にもたらされる糖質の害は厄介だと感じています。

糖質を取って太る人は理屈から考えれば糖質の取りすぎが悪いと納得してもらいやすいですが、

糖質を取って太らないという人は、まさか糖質が体調不良の原因だとは思わない事が多いからです。

本日はそんな事について考えさせられる症例を紹介します。

白石渉ら.臨床神経2014;54:518-521
『重度貧血の補正によりposterior reversible encephalopathy syndromeを生じ、血圧正常にもかかわらず脳出血を続発、脂溶性ビタミン欠乏症の関与が考えられた1例』

            

要旨:
症例は36歳女性である。即席麺やスナック菓子ばかり食べていた。4年前から下腿浮腫を自覚するも、放置していた。

来院18日前に全身浮腫と体動困難を生じ前医受診、Hb 1.4g/dLの貧血と心拡大を認め、重度貧血に伴う心不全として輸血加療され改善し前医を退院。

翌日夜に痙攣を生じ当院に救急搬送。頭部MRI画像からposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と診断した。

治療するも脳出血を続発、またビタミンA欠乏による視力障害を期に脂溶性ビタミン欠乏症が判明した。

PRESは時に輸血合併症として生じ、本症例は食習慣によるビタミン欠乏が脳出血に関与した可能性がある。



極端な偏食習慣のある36歳女性が、

栄養障害を背景に次々と脳の重症疾患にかかっていくという症例ですが、

本文を見ますと、この方の入院時の体型は身長165cm, 体重51kg, BMI 18.7であったそうです。

また即席麺とスナック菓子と言えば、糖質の塊です。

糖質が太るというのであれば、なぜこの方は糖質を食べ続けたにも関わらずこのBMIなのでしょうか。

ここにもカロリー理論では説明できない現象があると思います。

そしてこの女性は太らない代わりに徐々に体調を崩していき、

PRESや脳出血という重症脳疾患を立て続けに合併していきます。

PRESという病気は、あまり聞きなじみがないかもしれませんが、

頭部画像でみて頭の後ろ側(Posterior)を中心に可逆性(Reversible)の病変をきたす脳の疾患(Encephalopathy)を総称してまとめた症候群(Syndrome)のことで、それぞれの頭文字をとって「PRES(プレス)」と呼ばれています。

その原因も高血圧、子癇(しかん;周産期の異常な高血圧、痙攣)、血液疾患、膠原病、免疫抑制剤の内服や抗癌剤内服などさまざまですが、

大きくは血管に大きな負担がかかるような出来事が起こった時に血管の内側に異常を生じて起こるという説が言われているようです。


さて、この症例を一つ一つ振り返ってみます。

要旨には書いていませんでしたが、本文にはこの方20歳頃から引きこもりがちの生活をしていたようです。

引きこもりが糖質過多の食生活をもたらしていたのか、はたまた糖質過多の食生活が引きこもらざるを得ないような精神状態を作り出していたのか、

いずれにしても糖質過多がこの女性に悪影響を与えていた事は間違いないでしょう。

さらに33歳で両足がむくんできます。

糖質には一緒に水分を引き込む性質があるのでむくみやすくなりますし、

糖質過多の生活であれば必然的に蛋白質不足になるので、アルブミンという血液を血管内に保持するために重要な物質も少なくなります。

その結果、むくみは糖質をとればとるほどますます増悪していきます。

さらにこの方、同時期より過多月経も自覚されており、36歳には無月経となっていました。

この報告で焦点となっているように、食事が糖質に偏ってしまったせいで血液を凝固させる作用のある脂溶性ビタミンが欠乏し、月経での出血がなかなか止まりにくくなり、

重度の貧血をきたし、ついには出る血がほとんどなくなったために無月経となってしまったのではないかと思われます。

そして、重度の貧血では血液の酸素運搬能が著明に低下してしまうので、

それを補うべく心臓はたくさん脈を打たなければならなくなり、負担がかかって心不全となります。これを「高拍出性心不全」といいます。

重度の貧血はそれだけでも命に関わる状況で、さらに心不全も合併しているという事なら、早急に輸血を行うのはごく自然の流れだと思います。

しかし、この患者さんでは残念ながらそれが仇となり、血管に急激な負担がかかってPRESを発症してしまいます。

さらにPRESが治まった後も、今度は脳出血を発症してしまうのです。

ここでのもう一つのポイントは「血圧が正常であったにも関わらず脳出血を発症した」というところです。

通常脳出血というのは高血圧が放置されていて、血管に負担がかかり続けてついには耐えきれなくなって破れるという場合がほとんどです。

一般的には高齢者に多いのですが、36歳で脳出血を起こすというのはあまりにも早すぎる印象です。こうした場合通常は血管奇形や脳腫瘍、稀な感染症などの特殊な原因を考えますが、

ところがこの患者さんでは、そういった原因はみられず、しかも血圧は常に140mmHg以下であったにも関わらず、脳出血を多発しています。

血液を凝固させる脂溶性ビタミンが欠乏していたという事もあるでしょうけれど、

私なら、糖質過多を繰り返す事で酸化ストレスが高まり、血管にアミロイドが沈着し、血管自体の耐久性がかなり弱まっていたのではないかと推測します。

大変な症例だったであろうと思いますが、このように学べる事がたくさんあります。

報告して下さった先生には心から敬意を表する次第です。


最後にふと私は思ったのですが、

この患者さんは糖質過多の食生活をしていた結果、脂溶性ビタミン不足になって様々な病気を発症したというのですが、

例えば断食をする事でも脂溶性ビタミン不足になりえるように思います。

ところが、断食でむくんだとか、痙攣を起こしたとか、脳出血を起こしたなどという話は不思議と全く聞きません。

つまり「食べない事では欠乏症は起こらないが、食べる事で欠乏症が起こる」という変な話になってきます。

そうするとビタミン欠乏症を発症するためには、ただ足りないというだけでは実は必要十分ではなく、

何か別の要素が加わる事によってはじめて発症するのではないかと、

その可能性の一つとして糖質過多による代謝障害の合併があるのではないかという気がしてくるのです。


この辺り、まだまだ謎が多いですが、

少なくともどうやらヒトの身体は、

足りなければ補えばよい」というような

そう単純な仕組みにはなっていないということは間違いなさそうです。


たがしゅう
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コメント

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アミロイドについて
以前、アミロイドについてコメントがあったとおもいますが、インスリン注射をしているⅠ型糖尿病の方はどうなんでしょうか?インスリン注射と同時にアミリン(islet amyloid polypeptide, IAPP)という蛋白質が分泌されますか?
でもアミロイドを形成するプロアミリンが蓄積されないので、アミロイドは沈着しないんでしょうか?
質問ばかりで申し訳ありません<(_ _*)>
Re: アミロイドについて
もうあかん さん

 御質問頂き有難うございます.

> インスリン注射をしているⅠ型糖尿病の方はどうなんでしょうか?インスリン注射と同時にアミリン(islet amyloid polypeptide, IAPP)という蛋白質が分泌されますか?
> でもアミロイドを形成するプロアミリンが蓄積されないので、アミロイドは沈着しないんでしょうか?


 これは大事な視点です.

 実は1型糖尿病の方の場合は,アミロイドは蓄積されません.

 アミリンが形成されるのは,あくまでランゲルハンス島のβ細胞からインスリンが自己分泌される時だから,というのがその理由であるようです.

 そのため,病理の先生は解剖した方のランゲルハンス島にアミロイドが蓄積されているかどうかで,生前1型糖尿病であったか,2型糖尿病であったかを判別できるそうです.

 ただこれはランゲルハンス島のアミロイドだけの話ですから,

 その他の様々なアミロイド蛋白については当てはまらないでしょう.

 2013年11月5日(火)の本ブログ記事
 「アミロイドと2型糖尿病」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-78.html
 も御参照下さい.
好酸球性胃腸炎
初めまして。少し前にメッセージに送ってしまったのですが、すみません。こちらにコメント再度送ります。
私は糖質制限歴6年です。最近はいろいろな方法があって興味深く実体験してみています。たがしゅう先生のブログも全部読破しようという最中です。
薬剤師なのですが、先日好酸球性胃腸炎と診断されている中学生の少年に会いました。小学校2年生のころから、貧血だの不調があって、今はすぐ胃痛や下痢になるそうです。アレルギー検査で、肉や卵に少し出ているようですが、かかりつけ医は制限しなくていいと言うそうです。でもお母さんは怖くて、あまり食べさせていないとのこと。プレドニンともう一つ薬も飲んでいます。
私は初めて出あった病態ですので、どんな食事をしたらよいのかわからないのですが、でも、たがしゅう先生のブログを読めば読むほど、脂質タンパク質を控えて炭水化物をすすめていいとは、思えません。
育ち盛りで、学校も楽しい年頃なので、なにか気の利いたことを言ってあげたかったのですが、食事のアドバイスがありましたら伺いたいと思いコメントさせて頂きました。お忙しい所恐縮です。
Re: 好酸球性胃腸炎

森 由美 さん

 御質問頂き有難うございます。

 好酸球性胃腸炎は私にとってあまりなじみのない病気でしたので、

 インターネットで軽く調べましたが、要するに「原因不明で好酸球が関わるアレルギー性の胃腸炎」という事のようですね。

 経験はありませんが、高脂質食(ケトン食、糖質制限食)が有効である可能性は十分にあると思います。

 まず、糖質制限をすることで、花粉症や気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性の病態が良くなるという純然たる事実があります。

 また私が経験した症例では、特発性好酸球増多症という病気を持つ患者さんがいましたが、

 この患者さんは、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、耐糖能障害、逆流性食道炎、うつ病、慢性心不全、肥満症、腰椎圧迫骨折といった、糖質過剰摂取で起こってくる他の病態をたくさん持っていました。

 そのような状況の中で、特発性好酸球増多症だけ他の原因で起こったということは考えにくく、「特発性好酸球増多症も糖質過剰摂取が原因で起こった」と考えるのが自然ではないかと思います。

 したがって糖質の過剰摂取は好酸球が関わる病気の発症にも関わっている可能性があります。

  2014年3月11日(火)の本ブログ記事
  「偶然ではなく必然に」
  http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-207.html
  も御参照下さい。

 また、肉、卵にアレルギーがあるという事ですが、

 私は肉、卵アレルギーの犯人は肉、卵そのものではなく、糖質の過剰摂取によって乱された免疫系の方だと思っています。

 アレルギー学はものすごく難しいので、正直私の頭では理解しきれないのですが、事実から逆算して考えればそう言えるのではないでしょうか。

 そうでなければアレルギー性の病態が糖質制限によってことごとく良くなっていく理由が説明できないと思います。

 そんなわけで、好酸球性胃腸炎に対して糖質制限,やってみる価値は十分あると私は思います。
No title
たがしゅうさん

自分もアレルギー性鼻炎と30年ほど付き合ってますが、本当に良くわからない病気だなと実感します。ただ糖質制限が最も効果的かつ安上がりであるのは間違いないと考えます。また夏井医師のHPでも話題になってましたが、糖質摂取後すぐ緩い便が出るというのもアレルギーに近い気がします。どちらも大量の水分を浪費し、思考能力を破壊する点なんか特に。
Re: No title
SLEEP さん

コメント頂き有難うございます。

> 糖質摂取後すぐ緩い便が出るというのもアレルギーに近い気がします。

私の印象では、糖質摂取による排便への影響は個人差が大きくて一概には言えないように思えます。

糖質制限での排便への影響も然りです。おそらくそれぞれの人で異なる腸内細菌叢を持っている事が関与しているのでしょうけれど、残念ながらそこはまだ突き詰められていません。

ただ糖質制限での排便の不調の多くは一過性であり、無事にケトン体質に切り替われば落ち着いてくる事が多いようです。ある種、便の状態は体調を推しはかる一つのバロメータとしての役割を持っているような気がします。
ありがとうございました
好酸球性胃腸炎とアレルギーについて、ありがとうございました。
胸が少しスッとしました。

先生の特発性好酸球増多症の患者さんのカルテに並んでいる病名は、まだ何と無く糖質過剰摂取に繋がります。

しかし原因がなんだかよくわからない、どうしたらそういう病態になるの?という訴えに出くわすと悩みます。

私の主人は、若い頃からトイレが近く、本人曰く過活動性膀胱じゃないかと。
友人の女性も子供の頃からそれが悩みで、今は薬で症状が抑えられているといいます。
二人ともよくいる40代で、普通にお母さんのご飯やおかずをモリモリ食べてきた世代で、今の若者ほどジャンクフードは食べていないと思います。

調べてみると、脳からの伝達が何らかの原因でストップする、骨盤底筋のゆるみ、前立腺肥大、加齢。
うーん、人間以外の動物には、こういったことはないのではないだろうか。

私も、糖質制限支持側ですが、何でもかんでもそれに繋がるわけではないのだと思います。
でも、やっぱり食事だろうかと考えてしまいます。
薬ではなく食べ物で改善されれば、そんな良いことはありません。
可能性はありますか?

質問続きになってしまい、申し訳ありません。
普通のお医者さんに聞いても投薬か骨盤底筋体操かなんかを勧められるがせいぜいです。

投稿はペンネームに変えました^_^
Re: ありがとうございました
ナナモリ さん

御質問頂き有難うございます。

過活動膀胱も病因不明の病態です。

私は泌尿器科の事はまだそんなに詳しくありませんが、こういう病因不明の病気にはとりあえず糖質制限を試してみればいいんじゃないか、というスタンスです。

糖質制限のせいで過活動膀胱が悪くなるという具体的な理由を今パッと思いつきませんし、万が一悪くなったら元の食事に戻せばいいだけの話です。他に糖質制限をしてはいけない理由がなければ、気軽に実験してみてはどうかと思います。

> 私も、糖質制限支持側ですが、何でもかんでもそれに繋がるわけではないのだと思います。
> でも、やっぱり食事だろうかと考えてしまいます。


確かに何でもかんでも糖質のせいと考えるのは短絡的だとは思いますが、

糖質制限をすることであらゆる病気が改善しても不思議ではないとは思います。別の言い方をすれば、それだけ糖質の害は根源的で多面的だと私は考えています。