依存は良いことか,悪いことか
2014/06/07 00:01:00 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:7件
エリスさんよりドーパミンの使い時について御質問を頂きました.
『NHKの「クローズアップ現代」で、覚醒剤や脱法ドラッグのことをやっていました。出演の先生は、やはり脳内報酬系のことを言われていて、
例えば、努力する→入試に合格→よろこぶ→また頑張ろうという活力になる という、自分の頑張ったことが報われてうれしいというハッピーな経験は問題がない。しかし、薬物を使えばその努力もなく、そのハッピーな経験を味わえてしまう。それが危ないといわれていました。
努力もなく、安易な方法でドーパミンを出していたら、その安易な方法に依存してしまうということでしょうか。
例えば、芸能人を見て喜ぶとか、お花がきれいでうれしいとか、お笑いをみて楽しかった、というのはどうなのですか?
そういうのまで依存と言われたら、楽しいことが無くなっちゃいます。
先生の言われる「いざという時しっかりドーパミンに働いてもらう」のいざという時って、どういう時なのですか?』
今日はこの問題について考えてみます. ドーパミンは依存形成に関与する神経伝達物質で,
脳の中の脳幹という場所に存在するドーパミン神経が刺激される事で放出されます.
そもそもドーパミン刺激というのは日常生活のあらゆる場面で生じ得ます.
おいしいものを見た時,スポーツをした時,お酒を飲んだ時,買い物をする時,何かを見て笑ったり感動した時など様々です.
いわゆる何かに「ハマる」という時にドーパミン神経が強く刺激されている事になります.
そして報酬に向けて期待している時にもドーパミン神経は刺激され続けます.
例えばおいしいものを見て,食べたいという気持ちになる.この期待値が高まる時にもドーパミン神経が徐々に刺激され,実際に食べるという行動へつなげるように脳が身体へ働きかけていきます.
そして,実際においしいものを食べた時に,さらにドーパミン神経が刺激され,ドバっとドーパミンが放出される事になるわけです.
この「きっかけ」⇒「ドーパミン神経刺激」⇒「行動」⇒「報酬獲得」⇒「ドーパミン放出」⇒「満足」という流れを繰り返すことで,人は何かにハマっていくのです.
テレビで芸能人を見て喜ぶということもドーパミン刺激となり,実際に会うという報酬でさらにドーパミンは放出されます.
だからこの行為でも理論上依存は形成されうるという事になりますが,
それが良い事か,悪いことか,というのはまた別の話になります.
なぜならばそれを決めるのはその人の価値観であるからです.
例えば,勉強でもスポーツでも,上達するためには繰り返し練習する事が必要です.これはそれぞれの事を頑張る事で報酬が得られ,その報酬を再び得るためにまた努力する,これも一種の依存です.
またテレビに関して言えば,気に入った有名人を見る事が,日々の生活に活力を生み頑張れるようになるのなら,それはその人にとって良い事をしている事になりますが,
テレビを見る事で集中力がそがれ,ダラダラしてしまうという結果を産み出すのであれば,テレビへの依存は悪い事をしているということにもなるでしょう.
さらに,ある領域を極めたヒトは,その領域に関する事に依存を形成しているものです.
例えば,プロゲーマーは,ゲームに依存し,繰り返し訓練した結果のたまものだと思います.依存があったからこそ上達し,天才とか達人とか言われたりするようになったのだと思います.
この例で考えると,ゲームが人生に不要だという価値観の人にとってはゲームへの依存は悪かもしれませんが,
ゲーマーにとってはゲームへの依存は人生の活力,うるおいを与える原動力になると思います.
このように,「ドーパミンに働いてもらうべきいざという時」というのは,人によって答えが異なるものだと思います.
最近はネット中毒,スマホ中毒なるものも注目されていますが,
私で言えば,このブログを運営する上で,おそらく同様の状態になってしまっていると思います.
しかしブログのおかげで私は,毎日勉強した事を足跡に残すという行動を行うことができていますし,
様々な人達と交流して,自分の見解を更新しつつ糖質制限に対する理解を深めていく事ができています.
私にとってこの「ブログ依存」は今を生きる原動力であり,決して悪い事とは思っておりません.
ところが糖質や覚醒剤の依存の場合はどうでしょう.
「きっかけ」から「報酬」を得るまでのステップがあまりにも容易であり,容易であるにも関わらずそれと釣り合わないくらい大きな報酬がやってくるものだから,
その依存に容易にハマってしまうのです.その意味でこれらは不自然なドーパミン刺激です.
しかも,こうした容易に得られる報酬は,
本来であれば,長期的にその物質にさらされた時の害(例:肥満,認知症,廃人化)と天秤にかけて,
今報酬を得るべきか,それとも先の事を考えて今は我慢しておくべきかを,脳が意志力を発揮して冷静に判断しなければなりませんが,
報酬が大きすぎて,そうした冷静な判断を脳が下せなくなってしまうという落とし穴もあります.
日々の生活の中で報酬とそれに見合った努力,
その報酬を繰り返す事で自分はこの先どうなっていくか,先を見越せる力,
そうした事を総合的に考えて,依存をうまく利用して,
人生をうるおいあるものにしていきたいですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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タバコとドーパミン
以前、テレビでタバコを吸ってニコチンを体に入れると、脳が刺激されてドーパミンが分泌されると紹介されていました。
でも、タバコを吸い続けると、やがてニコチンなしでドーパミンを分泌できなくなるそうです。だから、タバコを頻繁に吸う方は、喫煙間隔が長くなると、イライラしてくるのだとか。
何かのアイテムを使ってドーパミンを分泌させるのではなく、体が必要と判断した時にドーパミンを分泌する状態が自然な気がしますね。
自分が楽しいと思うことをして、ドーパミンが分泌されるのは自然なことではないでしょうか?
No title
いつもブログを拝見しております。というのも、先生が認知症と糖質の関連性の記事を探していてここにたどり着くことが出来ました。
一年前、私の母はアルツハイマー型認知症と診断されました。
それを知らされたときに泣きながら原因を片っ端から調べていって、私の出した結論が糖でした。
母は普段から「お米だけあればいい」という人で、私がおかずを作ってようやく食べるといった生活をしていました。
母はお米だけでなく菓子パンが大好きで、私が躊躇してしまう甘いパンでもペロッと平らげてしまいます。控えろと言っても勝手に購入してきて食べてしまうのです。(その時ボケていません。)
そんな母に発芽玄米を主食にするよう指示し、一年が経ちました。
今は病気が発覚した時よりも頭がハッキリしていて、普通に日常生活は送れています。これは一か月病院食を食べていたので、今までの偏った食事を一回修正することができたというのも大きいと思います。
糖との関係ですが、今まで母を見ていて不可解な行動をとる前に必ず甘いものを摂取していたことに気付きました。甘いものを摂取した翌日は手が震えていることにも気づきました。
主治医からは糖についても、食事や運動といった療法についての説明は一切ありませんでした。素人がざっと調べた一通りの情報についても同じでした。主治医は画像診断専門の先生なのでそういったことには興味がないのだと思います。
そういった経歴もあってか、今の認知症専門医には疑問を持っています。
そんな中たがしゅう先生のブログに辿り着き、糖の恐ろしさを知ることが出来ました。
主治医だけでなく色んな先生にも、こういう多角的な視点を持ち合わせていてほしいと思います。
長々と失礼しました。
納得
よくわかりました。
好きなことは一人一人みんなちがう。
「いざという時」は、人によってみんなちがう。
ドーパミンを出したいタイミングは、人によってみんなちがう。
また人は飽きるから、去年の今ごろに「いざという時だった」ことが、今はどうでもよくなってるってことって、ままあります。
マイブームとか流行とか、時の人とか。
そんな中で時間のふるいにかけられても捨てられず残っていることは、自分にとっての本当に好きなこと。
それは大事にしていきたいです。
覚醒剤や糖やタバコなんかにドーパミン使われちゃったら、惜しいです。
ありがとうございました。
Re: タバコとドーパミン
コメント頂き有難うございます.
御指摘のようにタバコもドーパミンの強制刺激物質ですね.ちなみにタバコを吸っても瞬目率が急上昇するようです.
> 何かのアイテムを使ってドーパミンを分泌させるのではなく、体が必要と判断した時にドーパミンを分泌する状態が自然な気がしますね。
> 自分が楽しいと思うことをして、ドーパミンが分泌されるのは自然なことではないでしょうか?
私もそう思います.
ただ一つだけ注意しなければいけない事は,
自分が楽しいと感じている感情が,作られた感情ではないかどうかを考えるということです.
「甘いものが好き」と思い込んでいる自分の考えは,もしかしたら糖質によって作られた虚構の感情であるかもしれない,という事です.それは糖質制限をすればわかり,しなければわからない事実です.
2013年12月15日(日)の本ブログ記事
「作られた嗜好性」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-120.html
も御参照下さい.
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
糖尿病と認知症の関係はもはや医学的に明らかです.
その根源に糖質があるという事を知ったことで私は,世の中の見え方が大きく変わりました.
その事を少しずつでも伝えていきたいと考えています.
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.
Re: 納得
コメント頂き有難うございます.
> マイブームとか流行とか、時の人とか。
> そんな中で時間のふるいにかけられても捨てられず残っていることは、自分にとっての本当に好きなこと。
> それは大事にしていきたいです。
> 覚醒剤や糖やタバコなんかにドーパミン使われちゃったら、惜しいです。
同感です.
テレビとかゲームとか私も過去にハマったものがありますが,
今でもずっと好きで居続けられているものは,なかなかありません.
そんな中,ずっと大事にしているものは自分にとって本当に価値のあるものですね.
Re: タバコとドーパミン
返信ありがとうございます。
>ただ一つだけ注意しなければいけない事は,
>
> 自分が楽しいと感じている感情が,作られた感情ではないかどうかを考えるということです.
作られた感情かどうかを知るのは難しい場合もありそうですね。
当たり前のように米を食べて満腹になり、至福の感情が湧きあがってきても、それが作られた感情だと気付く人は、少ないように思います。
喜びを感じた時は、その都度、なぜそう感じるのかを自問自答する癖を付けないといけませんね。
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