まばたきとドーパミン

2014/06/06 00:01:00 | お勉強 | コメント:2件

「糖質摂取は強制的なドーパミン刺激である」

そういう見方をすると、糖質を摂り続ける状況は、

バランスのとれた状況とは言い難いという事がわかります。

そしてドーパミンの担う働きは脳において非常に多岐に渡ります。

今回もまた、とある神経内科の雑誌を読んでいると、興味深い事が書かれていました。



『瞬きから探る脳内情報処理機構
中野珠実
BRAIN and NERVE 66(1):7-14, 2014』
「目は心の窓」ということわざがありますが、

なんと、まばたきとドーパミンにも関係がある、というお話です。

瞬き(まばたき)の事を医学的には「瞬目(しゅんもく)」と言いますが、

瞬目には大きく3つの種類があります。

① 反射性瞬目:突然の音や光、風などに誘発されて生じる瞬目
② 随意性瞬目:自分の意志で意図的に瞼を閉じる瞬目
③ 自発性瞬目:特に要因なく生じる瞬目

ヒトはおよそ3秒に1回(1分間に20回)瞬目をしており、その大半は③自発性瞬目だそうです。

③の意義は眼球が乾くのを防ぐためだと考えられていましたが、

1927年のイギリスの生理学者の実験で、眼球が乾かないようにするための瞬目の回数は1分間に3回で十分だという事が示されました。

では残り17回は一体何のために行っているのでしょうか。



そこで問題になってくるのがドーパミンです。

実はドーパミンは瞬目率を高めます。

例えばパーキンソン病というドーパミンが枯渇する病気では、瞬目が少なくなります。

また通常眉間のところを軽く指でトントン叩くと瞬目が誘発されますが、健康な人は次第に慣れて瞬目しなくなります。

ところがパーキンソン病の場合はいつまでたっても瞬目し続けます。これをマイアーソン徴候と呼びますが、

これもドーパミンの枯渇により③の働きがなくなり、①が残るために起こる現象と思われます。

それに、サルにドーパミンを増やすアポモルヒネという薬を大量に投与すると、瞬目率が5倍に増加するという実験報告もあります。

さらに精神状態によっても瞬目率は変動します。

例えば,怒っているときや緊張しているなどに瞬目率が非常に高くなる事がわかっています。

これもストレス状態から元に戻ろうとするためにドーパミンが放出される結果起こっている現象と思われます。



さて、瞬目がドーパミンを通じて脳の状態を反映している事はわかりましたが、

では、なんのために③をしているのでしょうか?

これに関して著者は非常に興味深い仮説を提唱しています。

まず著者は、世界的な映画編集者のウォルター•マーチのエピソードを紹介し、

彼が長年に渡る映像編集の経験の結果、役者が瞬目するタイミングが映画の最適なカット•ポイントの目印だ、という気づきに言及しました。

また1976年のアメリカ大統領選挙において、

当時無名の新人カーター氏が、現職のフォード氏を打ち破った時の演説で、

詳細な瞬目解析の結果、両者の瞬目はダイナミックに変動していたそうですが、

カーター氏の討論が好印象を与えている状況では、瞬目の頻度は相手より低く、

逆にやり込められている時は、瞬目が増えていたそうです。

さらに話をしている側の瞬目は、聞いている側へ無意識のうちに伝わり、

瞬目が同期するという事も示されていました。

そして最終的に瞬目には「情報の分節化」という役割があるという仮説を打ち立てられました。

私的に解釈すれば、目で見て感情とともに得られた情報をその都度整理しようとする働き、というような事ではないかと思います。



情報整理にはある程度ゆとりある時間が必要だと思いますが、

この仮説が正しいとするならば、瞬目回数が多い状態だと、情報の分節が細切れとなってしまい、

なかなか頭の中でまとまりにくい精神状態だということになるかもしれません。

別の視点でみれば、ストレス状態を元に戻そうとドーパミンを一所懸命出している状況なのだから、

情報の整理をやっている余裕がないのだろう、と考えれば割と腑に落ちます。


最後にもう一つ、興味深い事に、

自閉症スペクトラム障害では、瞬目の同期が起こらないという研究結果が紹介されていました。

という事は自閉症スペクトラム障害ではドーパミン神経系に何らかの不具合を生じている可能性が出てくると思います。

その結果がコミュニケーション障害につながっているのかもしれません。

ならば糖質摂取しドーパミンを強制的に刺激するのはなおのことよくないですね。


いやはや、脳は深いです。


たがしゅう
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コメント

No title

2014/06/06(金) 11:35:47 | URL | チュチュ #-
今回もお話も大変興味深いです
。自分ではとうてい手にとらないだろう、本の内容を噛み砕いて解説して下さって、本当にありがたいです。

ふと思ったのですが、赤ちゃんは瞬きの回数がとても少ないのですが、ご存じでしたか?
目が乾かないのかと心配していましたが、目の乾燥防止としては1分に3回でいいんですね。
反射性瞬目しか行っていないということなんでしょうか?

Re: No title

2014/06/06(金) 21:36:22 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
チュチュ さん

 コメント及び御質問頂き有難うございます。

> ふと思ったのですが、赤ちゃんは瞬きの回数がとても少ないのですが、ご存じでしたか?
> 目が乾かないのかと心配していましたが、目の乾燥防止としては1分に3回でいいんですね。
> 反射性瞬目しか行っていないということなんでしょうか?


 赤ちゃん、まばたき少ないんですか。知りませんでした。

 おそらく赤ちゃんの脳のネットワークは、まだそれほど発達していないので、

 ドーパミン神経系の複雑なシステムを必要とする③自発性瞬目はまだあまりできないのでしょう。

 ②随意性瞬目もまだ出来るほど自我が確立していないでしょうから、

 御指摘のように①反射性瞬目しかしていないから、まばたきの回数が少ないのではないかと推測します。

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