怒れる気持ちをポジティブに変換
2014/05/31 01:01:00 |
普段の診療より |
コメント:4件
糖質制限の事がわかってくると,
「そんな大事な事をなぜ今まで教えてくれなかったんだ」と,
糖質制限の事を知った人は皆,医師に対して怒りや失望,落胆など否定的な感情を抱く人も多いと思います.
確かに私自身も,江部先生や夏井先生の存在がなかったら
おそらく今でも糖質制限の事を知らずに医師を続けていたことでしょう.
ただ私の場合は幸い糖質制限を知ってすぐに舵取りを変え,軌道修正することができました.
しかし多くの医師はたとえ糖質制限を知ったとしても,治療方針を大幅に切り替えることに二の足を踏んでいる人がほとんどだと思います.
そうなると,「糖質制限の事を患者に教えない医師が悪い」という考えも沸き起こるのも無理もないかもしれませんが,
実は事はもっと複雑で,患者側に問題がある時もあるように思います. ここ最近,「これは医師と患者のどちらが悪いのだろう」と思う事が続いています.
例えば,以前本ブログで紹介したアマリールというSU剤を内服中の70代女性のその後の話です.
この方,早朝のふらつきを訴えたために早朝低血糖の可能性を疑い,
アマリールを処方した内科医へ私が減量・中止を依頼していたのでした.
その結果,その内科医はしぶしぶという感じでアマリールを半分減量し,その代わりメトグルコという薬を追加しました.
それと同時に私はその患者さんにも,「アマリールが減ることで低血糖の可能性が減る.そうしたら血糖値を直接上げる糖質の摂取を控えていかないといけない」という事を紙に書きながらしっかりと指導を行いました.
脳梗塞後という事で,半年に1回フォローしているその患者さんが半年ぶりに私の外来に来まして,
あれからどうなったのかを確認したところ,
アマリール減量後,HbA1cは6.5%から8.0%にすぐさま上昇して,内科医によってあっという間に元の量のアマリールに戻されていました.
相変わらずアマリールに頼る医者も医者ですが,行動変容しようとしない患者も患者です.
この場合,悪いのは医者でしょうか?患者でしょうか?
もう一人,80代の男性で,これまた脳梗塞後遺症で私が半年に1回診ている患者さんですが,
この方もかかりつけの医院でダオニールというSU剤が処方されています.
そしてこの方,朝方に冷や汗が出るといいます.
私は「それは低血糖の可能性があるから,冷や汗の事はちゃんと医院の先生に言って,ダオニールを中止してもらうよう頼んで下さいね」とこれまた忘れないよう紙に書きながら説明しました.
その時は「まぁ,わかりました…」とその患者さんは気のない返事をされていました.
しかしその事とは別に,その患者さんがもってきた他院での血液検査の紙を見ていると,ある事に気が付きました.
実はこの患者さん,同じ日に2つの病院で同じ内容の血液検査を受けておられます.
医療の専門分化が進み,患者さんが複数医院を受診する事が非常に多くなりました.
やれ高血圧は〇〇内科,やれ胃潰瘍は△△病院の消化器内科,膝・腰の痛みは□□整形外科へといった感じです.
こうした複数受診は患者さんは安心と思っているかもしれませんが,リスクのあるやり方だという事を知っておく必要があります.
というのはまず薬の管理が非常に難しくなるということです.
医師側がきちんと他院での薬を認識していればいいですが,
そうできずにそれぞれが薬剤の相互作用もろくに考えずにそれぞれの専門でよく使う薬を足し算的に出していくというケースがほとんどだと思います.
その問題を防ぐために院外薬局を統一したり,おくすり手帳を作って,薬剤師さんがトラブルを未然に防ぐように働きかけてくれていますが,
それでも現実を見ていると,これでもかというばかりに薬が足され続けています.
多剤内服はそれだけでリスクです.その相互作用が有名でないというだけで,実際には複雑な相互作用が身体で起こり害をきたします.
そしてこの問題は薬だけではなく,上記で紹介したように検査でも起こりうるということなのです.
よその病院でどんな検査をしているかという事を医師が逐一チェックする事などおそらくすごく稀です.
ただ,この場合は患者さんがその日2回血液検査を受けているのであれば,
「今日は一度〇〇医院で血液検査を受けましたよ」と言えば,未然に防げたトラブルだったかもしれませんが,
この患者さんはそれを言わずにただ素直に血液検査を受けたということになります.
要するにこの患者さんは医師に意見することができない,遠慮してしまう方のようなのです.
ということは,この患者さんがかかりつけ医へ「冷や汗が出るのでダオニールをやめて下さい」と言えるかどうか,ということは推して知るべしです.
はたしてこの場合,悪いのは医師でしょうか?患者でしょうか?
そう問いかけておきながら言うのもなんですが,
「医師と患者,悪いのはどちらか」とか考えるのは不毛なことだと私は思います.
要するにこの問題の根源は「世の中の大多数の人が容易に変われない脳」を持っている事だと私は考えます.
「2:6:2」の法則というのがあるそうですが,
「2割」が「変われる脳の持ち主」,「6+2=8割」の人が「容易に変われない脳の持ち主」ですが,
6割の人へ働きかけ続ける事で,「変われる脳の持ち主」の割合は3割,4割と増えていくと思います.
そして「変われる脳の持ち主」が多数派になった時,パラダイムシフトは完了します.
だから,いつまでたっても糖質制限を認めない医師を見た時に,
私たちがすべきことはその医師を糾弾することではなく,
糖質制限の正当性を周囲へ正しく伝え,「変われる脳の持ち主」を確実に増やしていく事だと私は思います.
怒れる気持ちはポジティブな原動力に変換していきたいものです.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
毎日は書かないことにするとおっしゃられても精力的に書いてくださることに感謝しております。
人にわかってもらうって大変なことですね。それは、それぞれに違う体と心を持っているからだと思います。私たちのような凡人が、人に教えても同意してもらえなくてもそれはそれで仕方ないと思います。
しかし、問題は専門職の医師が無駄と思いながら、余計な治療をしたり薬を出したりすることは違法ではないでしょうか。
今、日本はこれまでにない高齢化社会になり、今までと同じ方法で、医療を進めていくと必ず破綻や破滅を招くと思います。
どうか、糖質制限に理解のあるお医者様医療改革をお願いします。
No title
私は10年程で右目失明してからは、ポジティブに治療対応してきましたが、ネット未使用までは担当医師からは何らヒントすら貰えない場合もあります。
私の担当医は全て糖尿病学会医でしたから、可能性ないのは当然かもしれませんが!
悔しい限りです!! 今だ怒り治まらずです!!
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 今、日本はこれまでにない高齢化社会になり、今までと同じ方法で、医療を進めていくと必ず破綻や破滅を招くと思います。
同意見です。今のままでは医療は人類を破滅に導くと思います。
今でもすでに介護の供給に限界が見え、さらに団塊の世代が高齢者となる2025年問題が取り沙汰されています。
その時に備えて、それぞれが高齢になっても健康を保ち続ける事に、糖質制限は一筋の光を与えると思います。
Re: No title
御怒りはごもっともですが、
怒りという負の感情は身体に良い影響を与えません。
意識をこれからの事に向けましょう。身体を最大限に活性化させて自分の治る力を信じてみてはいかがでしょうか。その為に重要な事の一つは感情のコントロールです。
2014年1月1日(水)の本ブログ記事
「アサーティブな会話とは」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-138.html
も御参照下さい。
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