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薬の本質とは
復習すると,アルカロイドとは「生物が他の生物から身を守るために産生した身体にとって影響が大きいアルカリ性の天然成分」の事でした.
このアルカロイドが初めて発見されたのは,
ドイツの薬剤師ゼルチュネルが1804年にアヘンから分離抽出したモルフィン、つまりモルヒネだとされています.
モルヒネは医療用麻薬として強い鎮痛効果を持ち,現在でも医療現場でがんなどによる難治性疼痛などに対して緩和ケア目的でよく用いられています.
そしてモルヒネだけではなく,中毒物質として知られるニコチン,コカインなどもアルカロイドであり,
もっと言えば,コーヒーや,お茶などに含まれるカフェインもアルカロイドです.
一口にアルカロイドといっても作用の強いものから弱いものまで幅があるという事がわかります.
その他にも医療現場で用いられるアルカロイドとしては,いろいろあります.
例えば,抗コリン薬のアトロピンと,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のフィゾスチグミンは互いに逆の作用をもたらす薬ですが,ともにアルカロイドです.
また痛風の治療薬であるコルヒチン,降圧薬のレセルピン,抗がん剤のビンクリスチン,抗不整脈薬のキニジンなど,非常に多岐に渡ります.
さらには当ブログでしばしばとりあげるセロトニンやドーパミン,ヒスタミンといった神経伝達物質も,アルカロイドと同様の構造を持つ,アルカロイド関連物質です.
一方で,薬学の歴史をひもといてみると,
薬としての存在を証明できるのは,紀元前5000年が一番最古のようですが,
古代からの歴史の中では中国医学やインド医学が大勢を占めていく中で,
日本の薬学の歴史が書物で確認できるのは平安時代に入ってからになります.
その頃用いる薬は植物など自然物の生薬由来のものがほとんどであり,
現在の西洋医学で用いるような薬はありませんでした.
そして近代医学が発達しはじめるのが,18世紀に入ってからです.
前述のモルヒネというアルカロイドの発見に続くように,その頃から急速に植物から薬効成分を抽出するという技術が高まり,薬学は発展していきました.
そしてその発展の結果,現在の西洋医学における薬が広く用いられるようになったといえます.
今回私が思ったのは,薬の本質はアルカロイドにあるという事です.
漢方の薬効にしても,西洋薬の薬効にしても,煎じ詰めればアルカロイドに由来するという事であり,
すなわち薬というのは「身を守るために生物が作りだした緊急使用的な物質」が元であるわけだから,
本来は常に内服し続けるようなものではないのではないでしょうか.
勿論,生きていく上で様々なストレスや困難が立ちはだかることはあるでしょうから,
そうした緊急使用的な物質に一時的に頼ることはアリだとは思います.
しかし,現在の薬絶対主義に関してはやはり疑問を禁じ得ません.
基本的には薬に頼らない生活を推奨し,
そしてそれでも体調を崩してしまった時に,
適切な薬を適切な期間だけ使用し,元の状態に戻ってもらえるように最善を尽くす,
そんな医者になりたいと心から願います.
たがしゅう
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