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毒と薬は紙一重
「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」という漢方薬について勉強する機会がありました.
これは柴胡,半夏,黄芩(オウゴン),黄連(オウレン),生姜,甘草,人参という7つの生薬から成る漢方薬で,
「黄」という字がつく「黄芩」「黄連」の組み合わせが「下痢」に対して有効である事から,
特に下痢が目立つ感染性胃腸炎に有効な漢方薬だと学びました.
ただし,連用による肝機能障害に注意が必要であったり,
乾燥している人や冷えている人には使いにくいという注意点があります.
そして,この薬のもう一つの特徴は「苦い」という事です.
半夏瀉心湯は漢方の中でも,「呉茱萸湯(ごしゅゆとう)」と並んで,苦みが強いとされるものなのですが,
何もない時に飲むと苦いのですが,胃腸炎による下痢などで体調を崩した時にその薬を飲むと,その苦さを感じずおいしく飲めるといいます.
このように状態によって味が変わるというのも漢方の面白いところです.
さて,黄連という生薬はもともと植物です.
具体的にはキンポウゲ科オウレン属,常緑の多年草であり、その根茎が漢方薬として使われています.
調べてみると,半夏瀉心湯の苦みは,黄連に含まれるベルベリンというアルカロイドに由来しているということがわかりました.
アルカロイドというのは,「アルカリのようなもの」という意味ですが,
『窒素原子を含み、ほとんどの場合塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称』のことを指すそうです.
アルカロイドは微生物、真菌、植物、動物を含む非常に様々な生物によって生産されますが,
ある生物が創りだすアルカロイドは,他の生物にとって有毒である,という事が往々にしてあるようです.
そしてベルベリンに限らず,ほとんどのアルカロイドは苦味を有しています.
この理由として,植物が動物から自身を防御するためにこれらの苦味物質や有毒物質を生産する能力を進化の過程で獲得したのではないかと考えられています.
よく小さな子が野菜を食べると苦いと感じて嫌がる場面がありますが,
それもおそらく,その野菜に含まれる何らかのアルカロイドが関係しているのではないかと思われます.
一方で,「良薬口に苦し」という言葉もあるように,毒と薬は紙一重でして
生物が身を守ろうとするために産生する毒に近い物質は,
うまく利用する事で効果がシャープな薬として用いられる可能性も秘めているということです.
というのは,植物が作ったアルカロイドを摂取する動物側も負けてはおらず,
進化の過程でアルカロイドを解毒する能力を発達させてきています.
だから人間は本来肉食動物であるにも関わらず,
植物を食べる事ができるように慣れてきたのだと思います.
そして使い方によって植物のアルカロイドは,半夏瀉心湯のように体調を元に戻させる薬として利用できるという事です.
そんなアルカロイドですが,医療の分野でもいろいろと応用されています.
このアルカロイドについては,後日もう少し詳しく考えてみたいと思います.
たがしゅう
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