材料を大事にする

2014/05/15 12:26:15 | 普段の診療より | コメント:0件

先日私が主治医をしているあるパーキンソン病患者さんの

治療方針について神経内科医が集まって話し合う場がありました。

パーキンソン病とは簡単に言うと「ドーパミンが徐々に少なくなる病気」です。

このパーキンソン病の治療に用いる標準的な薬に「L-dopa(エルドーパ)」と呼ばれるものがあります。

実はドーパミンそのものは血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB)というバリアを通過することができないので,ドーパミン自体は薬として使えないのですが、

ドーパミンの前駆物質であるドーパであればBBBを通過することができるので、その性質を利用しドーパが「L-dopa」として薬となっているわけです。

ところがこのL-dopa、内服してから薬が効くまでには個人差が大きいとされています。 その理由としては次のような事が挙げられています。

①胃の通過時間にかなり個人差がある
②胃液のpH(L-dopaは酸性条件下で溶解しやすい)
③腸管吸収部位での中性アミノ酸との競合

そのような状況が複雑に関わりあっているために、

飲んですぐに効く人もいれば、飲んでも全然効かないというバリエーションが生まれます。

先日の話し合いでのパーキンソン患者さんは、薬を飲んでも全然L-dopaが効かないという人でした。

血中濃度まで測定していましたが、1日5回もL-dopaを飲んでいるにも関わらず、薬の効果が出てこないのです。

一方でこの方は2型糖尿病と肥満もありました。

例によって私はその患者さんに糖質制限の選択肢を提示し、主食半量、その代わりチーズやナッツの間食は許可、あとは普通の病院食、という形で1ヶ月程糖質制限を実践してもらったところ、

81kgから68kgの減量に成功しました。

そんな背景があるのですが、この状況をみてある先生が、

「L-dopaが吸収されないのは、糖質制限をして高蛋白食になっているせいじゃないか?」

と言われました。

ドーパミンは蛋白質から作られますが、その前駆物質であるL-dopaはいわば人工的な蛋白質です。

③にあるように、高蛋白食下だと人工蛋白質であるL-dopaは蛋白質と競合し合って吸収が邪魔されるからというのがその理屈です。

確かに一理ある話なので、その場は私はその意見を受け入れ、蛋白質制限を加えてみようという流れになりました。

しかし、後で冷静になって考えてみると、ちょっとおかしい事に気がつきました。

蛋白質はドーパミンの材料なわけだから、

蛋白質をしっかり取る事はドーパミンの産生にとっても決して悪い事ではないように思います。

しかも蛋白質が身体で担う働きは何もドーパミン産生だけではなく、細胞増殖、新陳代謝、内部環境調整など非常に多岐に渡る役割があるので、

L-dopaとしてドーパミンを高めたいがためだけに低蛋白食にしてしまうのは、

なんだか他の事に対するデメリットの方が大きいように思えてしまいます。

また薬としてドーパミンを補う代わりに、自然に産生されるドーパミンの材料を奪うわけだから、

自然のバランスを大きく崩す事にもつながりかねません。

やはり根本原因な原因(パーキンソン病の場合は神経変性)にアプローチできなければ、

一時的にはよくても、長い目でみるとどんどん身体本来の治ろうとする力を邪魔していくことにつながると、

L-dopaもその例外ではないのだと感じました。

専門家は「パーキンソン病の薬を利きやすくするための基本は低蛋白食」と考えていますが、

糖質制限の視点でみると、それがおかしな考え方だという事がわかります


こうした反論がその場でぱっとできればよかったのですが、

正直考える力がそこまで及びませんでした。

まだまだ修行が足りませんね。

引き続き糖質制限に対する理解を深めていきたいと思います。


たがしゅう
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