作られた痛み
2014/04/19 00:01:00 |
お勉強 |
コメント:8件
痛みというのは日常診療でよく遭遇する症状です。今日はこの「痛み」について勉強します.
神経内科,80(4):413-460,2014
特集 「慢性疼痛」
痛みは医学用語で「疼痛(とうつう)」と言いますが,大きくは「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」の3つに分けることができます。
「侵害受容性疼痛」は痛みを感じる感覚神経の末端にある侵害受容器が、何らかの刺激を受ける事で発生します。
例えば、転んで怪我をした時に痛む場合や、風邪で炎症を起こしてのどが痛い場合などが「侵害受容性疼痛」です。
「侵害受容性疼痛」は一般的に、生体にとって危険な状況から回避したり、あるいは病気を気づかせたりする大切な生体警告信号と言われています。
一方、「神経障害性疼痛」は侵害受容器が刺激を受けていないにも関わらず痛みを発生させてしまう神経の機能異常、いわば神経の故障です。
また「心因性疼痛」はそうした上記のいずれもないにも関わらず痛みを生じる状態の事です.
「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」は慢性的な経過をとる事が多く,「侵害受容性疼痛」のように警告信号のような意味合いがなくただただ痛むという病的な痛みです.
こうした「慢性痛」のメカニズムには不明な点も多いですが,
痛みの刺激が繰り返される事によって,感覚神経が故障して痛みを感じない程度の軽い刺激でも痛みとして増幅して脳へ伝えてしまうという事が指摘されています.
神経が故障する原因には末期がんや糖尿病,手術の後遺症,抗がん剤処置,帯状疱疹などが挙げられますが,
それだけではなく,「ストレス」も「慢性痛」に深く関与しています.
実は「ストレス」がかかると「ドーパミン」という神経伝達物質が放出されると言われています.
そしてこのドーパミンは「下行性抑制系」という脳幹から下行して脊髄の後角という場所で痛みを制御するシステムを賦活させる事がわかっています.
すなわち,ストレスがかかってもドーパミンが通常通り放出されてさえいれば,多少の痛みは我慢できるのですが,
ストレスが繰り返されてドーパミンが分泌され続けた結果,ドーパミンが枯渇してしまった時には,痛みを抑制する「下行性抑制系」の働きが不十分になり,痛みの原因になるというわけです.
冒頭の「心因性疼痛」というものには,こうしたメカニズムが関わっている可能性が高いです.
ちなみにドーパミンが欠乏するパーキンソン病では痛みを訴える患者さんが多いのですが,それもこのメカニズムのためだと言われています.
一方で糖質を摂取しても,血糖値が上昇して,ドーパミンが放出されます.
ドーパミンを出し続けるという観点でみれば,「糖質の頻回過剰摂取はストレスを繰り返しているようなもの」なのです.
そうやって糖質を摂取し続ければ,ドーパミンを放出する神経に負担がかかり続けます.あたかもインスリンを出し続ける事によって膵臓が疲弊していくがごとくです.
その結果,ドーパミンが枯渇すれば,私たちの身体は常に痛みを感じてしまう身体になってしまうというわけです.
こうなればその痛みは警告信号などではなく,糖質によって「作られた痛み」となってしまいます.
「痛み」という一見かけ離れたように思える症状にさえ,
糖質の関与がある可能性が見えてきました.
まさに糖質は「万病の元」です.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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神経障害性疼痛
今朝、自宅に来る新聞の折り込み広告を見ていたら、テレビコマーシャルでも時々見る武田鉄矢さんの「神経障害性疼痛をお医者さんに相談しましょう」の紙広告が入っていて、タイムリーで驚きました。ファイザー製薬とエーザイ製薬の広告です。疼痛治療薬を売るために?患者さまに広告してるの?
処方箋薬も売り込む時代なんですね。(商魂たくましい。見習わなくては。)笑
Re: 神経障害性疼痛
コメント頂き有難うございます.
> テレビコマーシャルでも時々見る武田鉄矢さんの「神経障害性疼痛をお医者さんに相談しましょう」の紙広告
製薬会社のイメージ戦略ですね.
確かに,医者が処方する薬を製薬会社がCMで患者へ売り込むなんておかしな話ですが,医師へのサブリミナル(潜在)効果も狙っているのかもしれませんね.実際このCMの薬の評判は割といいです.
しかし所詮薬は薬.根治療法ではなくあくまで対症療法に過ぎません.
根治の為には生活を見直すしかなく,その見直さなければならないものの中心に糖質があると私は思います.
加茂先生
湿潤治療の夏井先生、糖質制限の江部先生、認知症の河野先生達と肩を並べる、慢性疼痛治療の真のスペシャリスト、加茂先生のブログです。
たがしゅうさんに、必ずプラスになると思いますよー
Re: 神経障害性疼痛
”医者が処方する薬を製薬会社がCMで患者へ売り込む”のは、子宮頚がんワクチンのよくない前例があります
Re: 加茂先生
情報を頂き誠に有難うございます.
Re: Re: 神経障害性疼痛
コメント頂き有難うございます.
> このCMのおかげで、単なる関節痛にすぎないのに、「この広告にあるように神経障害性疼痛ではありませんか」とたずねてくる、理解力に乏しい患者がいて困ります。
そうですね.
何しろ「ビリビリ」「ジンジン」「チクチク」=「神経障害性疼痛かもしれません」ですからね.ざっくりとし過ぎています.
患者さんの解釈と医学的な事象はしばしば乖離がありますよね.私がよく出会うのは「しびれ」だという患者さんが,「感覚障害」を意味しているのではなく,実際には「運動麻痺」の事を指しているというケースです.
> ”医者が処方する薬を製薬会社がCMで患者へ売り込む”のは、子宮頚がんワクチンのよくない前例があります
子宮頚がんワクチンの問題は深刻ですね.
子宮頚がんの原因となるヒトパピローマウイルスの発見は2008年のノーベル医学生理学賞に選ばれる程の功績だったのに,このような事態になるとは思いもよりませんでした.
関連情報が多すぎてフォローしきれていませんが,問題のある薬剤を安易に選択しないようしっかり考えて行かないといけませんね.
腰痛・トリガーポイント
いつも情報発信ありがとうございます。勉強になります。
約1年続いた腰痛がようやく軽快してきました。
わたしはハリでトリガーポイント治療を受けました。
こりを探してハリを刺すので、痛いハリです。
効果はありましたが、痛いので3回くらいだけ受けてあとは自分で
運動しました。
糖質制限をはじめてから腰痛が始まったので、「なぜ?」と思いましたが、仕事のストレスがすごくかかっていたので、ドーパミンの枯渇にあてはまります。動作が遅くなり、言葉も出にくくなりました。
今はドーパミンを出すよう趣味や遊びも大切にしています。
Re: 腰痛・トリガーポイント
コメント頂き有難うございます.
鍼は私はあまり詳しくありませんが,非常に興味はあります.
実はこの記事で紹介した神経内科の専門誌の中にも「慢性疼痛に対する鍼治療」と題してそのメカニズムがいろいろと考察されていました.少し内容は難しかったのですが,とにかく鍼の効果が科学的に解明されつつあるようです.
> 糖質制限をはじめてから腰痛が始まったので、「なぜ?」と思いましたが、仕事のストレスがすごくかかっていたので、ドーパミンの枯渇にあてはまります。動作が遅くなり、言葉も出にくくなりました。
重要な示唆に富む御経験です.非常に参考になります.
ということは,それまでドーパミンを酷使しているような状況の人は,糖質制限導入期に痛みの増悪に注意しなければならない,という事かもしれません.一度記事にさせて頂きたいと思います.
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