漢方が酸化ストレスを軽減する

2014/04/17 00:01:00 | 漢方のこと | コメント:0件

漢方の勉強をしているといろいろ興味深い事が学べる事が多いです.

以前,食欲改善で有名な補中益気湯が過剰な食欲を正常化している可能性について言及しましたが,

今回はその補中益気湯が酸化ストレスの軽減にも寄与しているかもしれないという話です.

補中益気湯という漢方薬について簡単に再紹介しておきますと,

12~13世紀に活躍した李東垣によって創りだされたとされる漢方の歴史の中では比較的新しい方の薬です.

エネルギーを取り込む躯幹の中心を補い(補中),結果的に元気を出させる(益気)という働きを持ちます.

躯幹の中心には胃がありますので,つまりは消化吸収機能を立て直す薬とも言い換える事ができます.

その補中益気湯について特集された以下の記事を紹介します.

漢方調剤研究 2004 Vol.12 No.3 p46-52

「慢性腎不全に対する効果」

症例:42歳,男性

【現病歴】22歳時尿蛋白を指摘される.34歳頃から血清クレアチニン値が上昇.漢方治療を求めて来院.降圧剤と高尿酸血症用剤を服用中.

【現症】身長160.5cm,体重53kg.血圧122/82mmHg,眼瞼結膜貧血様.治療開始直前Cr 4.5mg/dL.BUN 38mg/dL,UA 8.1mg/dL,Hb 12.2g/dL.易疲労.両側腋窩・鼠径部を中心に搔痒.口角・口唇が荒れやすい.寒がり.朝,歯を磨くとむかつきやすい.

【経過】補中益気湯(煎薬)を処方.

2週後に易疲労,皮膚搔痒が改善,冷えの改善は軽度.

4週後Cr 4.0mg/dL,BUN 36mg/dL,UA 7.4mg/dL.尿中Cr,尿中BUNも低下.メチルグアニジン(MG),グアニジノコハク酸(いずれも血中・尿中)低下.MG/Crの低下から活性酸素抑制が示唆された.この間,他療法や食事は一定.

補中益気湯



緩徐に進行するとされる慢性腎不全が,補中益気湯の服用で疲労感や掻痒感などの自覚症状とともに改善してきたというケースですね.

腎臓の働きが低下すると,身体の中にたまった毒素を尿として外へ排泄することができなくなり,「尿毒症」と呼ばれる状態になります.

文中に出てきたメチルグアニジンは尿毒症毒素とも言われる毒素の一つなのですが,

このメチルグアニジンは腎機能を反映するクレアチニンから作られます.

そして実はこの「クレアチニン⇒メチルグアニジン」に代謝される際に活性酸素の一つ「OHラジカル」が関わりますが,

このラジカルを取り除くと,この代謝スピードが100分の1くらいに落ちます.

その結果,クレアチニンがメチルグアニジンになりにくくなり,メチルグアニジン/クレアチニン(MG/Cr)の比が小さくなります.
すなわち,補中益気湯に活性酸素を消去し,酸化ストレスを下げる効果があるかもしれないというわけです.上図はその事を示しています.


通常,慢性腎不全でクレアチニンの値を下げるのは困難と言われている中で,

元気を出させるにとどまらず,このような活性酸素消去作用も示唆されるという補中益気湯,

しかも食事を何も変更していないのに,そういう効果があるというのですから驚きです.

糖質制限でさらに酸化ストレスリスクを下げれば,もしかしたらもっと効果が期待できるのかもしれません.

ともあれ,漢方治療の奥深さをまた一つ知ることができました.



たがしゅう
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