小細工にだまされない
2014/04/12 00:01:00 |
よくないと思うこと |
コメント:6件
糖質制限が本当に世の中に広まった時には,
米を推奨する農林水産省が抵抗してくる事が予想されます.
しかしどんなに大きな組織が抵抗してこようが,
我々は常に科学的に正しい事を胸を張って主張し続ければよいだけです.
先日,日本医師会より次のようなタイトルの11ページ程の小冊子が送られてきました.
『生活習慣病のリスクを軽減する 和食のちから』
公益社団法人 日本医師会
公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構
後援:農林水産省
…抵抗の一端が垣間見えてきました.そしてこの冊子がまた非常におかしな内容になっています. 例えば,1枚ページをはぐると「脂質異常症や動脈硬化性の病気は,食生活で予防・改善できる」と題して次のような構成で記事が書かれています.
●健康寿命を伸ばすには,動脈硬化性の病気を減らすこと
●LDL(悪玉)コレステロールを減らすことと肥満予防が重要
一つ目は良いとして,二つ目の「LDLコレステロール」=「悪玉」と位置付ける事には私は反対ですが,「酸化型LDLコレステロール」ならば「真の悪玉」と位置付けられる側面があるので,まぁいいとしましょう.
問題は次の3つ目です.
●ごはんを主食とした和食がリスクを低減する
LDLコレステロールを下げ,肥満を予防するには,生活習慣の中でも食事が重要になります.
コレステロールについては,とり過ぎに気をつけ,肉の脂身や乳製品などの動物性脂肪の摂取を控えます.また,動脈硬化の予防効果がある大豆イソフラボンを含む納豆や豆腐などの大豆・大豆製品,EPAなどを含む魚や野菜を多く摂取することです.
また,砂糖などの単純糖質を減らして,食事全体の量をコントロールすることも必要になってきます.
下図は日本の40歳代男性のBMI(肥満指数)のデータですが,BMIが上がっているのは,脂肪の摂取量が増加し,食事の中の複合糖質である米類の摂取量が減少していることが,一つの要因であると考えられます.
さてみなさん,この図をよく御覧になって下さい.
この図は国民健康・栄養調査という厚生労働省の調査内容結果をもとに作図されています.
緑の線で表される米類の摂取量が年毎に徐々に低下し平成8年頃を境にがくっと低下しています.
そして青い線で表されている40歳男性のBMIが年毎に徐々に増加しているというグラフが示されていますね.
これだけ見ると米を食べなくなったから肥満の人が増えたんだと思っても仕方がないと思いますが,
よくよく考えて下さい.おかしいところがいっぱいあります.
まず,「米類摂取量」というあいまいな表記法です.
例えば緑の線のスタート,昭和38年は米類摂取量は350g/日程度に位置しています.この詳細を原文を確認してみますと,「米の平均摂取量」の事を示していることがわかります.
緑の線はどんどん下がっていきますが,例えば平成4年の時点まで追いかけると米類摂取量の数値は200g/日程度まで低下しています.
同様に平成4年調査の原文で確認してみますと,同様の数値を示すのは「米類」の摂取量となっています.
さらにがくっと下がった後の平成16年の緑の線は160g/日を示していますが,
こちらも原文を確認してみますと,……おかしいです.
「米・加工品」という項目は343.0g/日であり,160g/日程度とはなっておりません.
そう思ってグラフの下に目を向けると,注釈として次のように書かれています.
※米類の摂取量については,平成13年より「めし」,「かゆ」などの数量となったため,2.1(炊き増え率)で割り,米類の摂取量とした.
…炊き増え率?どういう事でしょうか.かゆも含まれる事になったから実際の重さより米の量は少ないから2.1で割りましょうってことでしょうか…?
確かに343/2.1=163.333…g/日となりますので,この数字を平成16年の「米類摂取量」としているのでしょう.
でもそれっておかしくないですか?
それは全てが「かゆ」だった場合の計算であって,実際には「めし」だってそれなりの割合入っているわけだから,その数字は真実を反映していません.
もっと言えば,昭和38年だって,平成4年だって,かゆは食べていたはずです.平成13年から急に計算法を変えるなんておかしくないですか?
ちなみに最新の平成24年の「米・加工品」は329.1g/日となります.
そして同じ条件で比較したら米類摂取量は350g⇒200g⇒343g⇒329.1gと実際には米の摂取量は昔と比べて近年それほど変わっていないということがわかります.というよりむしろ平成4年の200g/日が不自然にすら見えます.
私には「米の食べが少ないからもっと食べよう」という結論に持っていくためにグラフを加工しているようにしか思えません.
あと,糖質制限を理解している方ならわかるように,肥満の原因は何も米だけではなく,トータルの糖質量が問題です.
ただ,昭和38年は炭水化物と食物繊維の記載がなく,熱量,脂肪,タンパク質の記載がありましたので,そこから逆算して出した炭水化物量は388.9g/日です.糖質の量はわかりません.
また平成4年は食物繊維の記載がないため,糖質量の計算ができません.
従ってやむを得ず炭水化物量で推移をみるとこうなります.
炭水化物388.9g/日(昭和38年)⇒273.0g(平成4年)⇒266.1g(平成16年)⇒259.8g(平成24年)
これをみると,昭和38年は別としても,近年は炭水化物の摂取量の減少程度はわずかです.
少なくともあのグラフ程急降下のイメージは受けないはずです.
何が言いたいかというと,このような細工をしなければ和食の正当性が主張できない,ということなのです.
本当に和食が正しいのであれば,このような小細工をする必要は全くないはずです.
それに文章の中で,「脂肪の摂取量が増加し」とありますが,これもおかしいです.
オレンジ色の線を見てもらうと,昭和38年のグラフの出始めが低いとこから始まっているから脂肪の摂取量が年々増えているように見えるかもしれませんが,
よく線を追いかけていくと脂肪の摂取量は近年減少傾向となっている事がわかります.
前述のように昭和38年の調査はやや不十分な調査ですし,この時代は家電製品が普及し始め,冷蔵庫や洗濯機がようやく浸透してきたばかりの時代です.生物(なまもの)が多い脂質やたんぱく質食品は自ずと今より少なかったことでしょう.
そのデータを持ち出し,脂質の摂取量が増加してきたと印象づけるわけです.
それはまさに脂肪を悪者にし,太るのは米を食べないからだとイメージづける意図があるように思えてなりません.
この冊子にはまだ問題点がありますが,それはまた次の機会に書きたいと思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
困ったものですね
お国の統計はかなりおかしなところがあります。
どの項目に入れるかで、統計がまるで違った結果になってしまいます。
さらに意図的なものが入ると統計の意味を成しません。
各分類の詳細な内訳がオープンになってないと、
引用の論拠とならないのですから要注意ですね。
困ったものです。
騙されるほど国民は馬鹿じゃない
突っ込みどころ満載の医師会のグラフだと思います。
それじゃあ、昭和38年~平成23年の間に、自動車保有台数はどう上がったとか、スナック菓子の出荷量はどう上がったとか、平均寿命はどう延びたかとかも、一緒にグラフに貼りつけて欲しいです。
Re: 困ったものですね
コメント頂き有難うございます。
> どの項目に入れるかで、統計がまるで違った結果になってしまいます。
> さらに意図的なものが入ると統計の意味を成しません。
その通りですね。
使う人の意図で与える印象をいかようにも変えることができるのだから、統計というのは怖いものです。
しかしこのようなデータのトリックは少し考えればわかる事です。考える手間を惜しまず、与えられたデータだけを妄信しないようにしたいですね。
Re: 騙されるほど国民は馬鹿じゃない
コメント頂き有難うございます。
米だけを切り抜いて、しかも加工して表示するという所業……作成者の意図が丸見えです。
そのような事をする人を信用できるわけありませんし、逆に言えばそうでもしない限り米の有用性を示せないという事でもあります。それが何を意味するか、それぞれが自分の頭で考える必要がありますね。
小麦のこと
農林水産省より巨大な存在。穀物メジャーの圧力のほうが心配ですね。小麦は商品として先物市場で世界的に取引されていますので、糖質制限の対象として、小麦が俎上に上がれば、「いかにパン食が体によいか」というキャンペーンが登場するように思います。
牛肉を食べる習慣を世界に根付かせたのは穀物メジャーが家畜飼料としての穀物のマーケット拡大戦略というのは有名な話ですので、日本国内だけで完結する話ではなさそうです。
さらに、キリスト教において、パンはキリストの体の象徴ですから、米どころの話ではすまないでしょうね。
糖質制限を行うことで、別の世界が見えてくる経験をした人は、先生がおっしゃる「自分で考えることの重要性」を自分の身の周りから実践していくしかないと思います。
Re: 小麦のこと
コメント頂き有難うございます.
おそらく近い将来,食を取り巻く社会の環境も大きく変わることでしょう.その時にどうすべきか,常に自分の頭で考えられるように十分に勉強しておく事は大事ですね.
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