やせ体質の人の実例
2014/04/11 00:01:00 |
素朴な疑問 |
コメント:6件
三大栄養素のうち,唯一直接血糖を上昇させる糖質は,
他の栄養素に比べて太りやすいという性質があります.
そして今の世の中は何も考えずに食事をしていたらまず間違いなく糖質過多になる食文化です.
そう考えるとほとんどの人が肥満や過体重になっているはずですが,
実際には糖質を摂っても太らない「やせ体質」の人が確実に存在します.
カロリーでも糖質でも説明しきれない現象がそこにあるのです.
過去にも記事で取り上げました(その1,その2)が,こうした人達の中でどのような事が起こっているのかは私は非常に興味があります.
今回は雑誌Tarzanの中で,ある「やせ体質」の有名人に関する特集があったので,それを読んでみました.
それはお笑いコンビNON STYLEのボケ担当,石田明さんです.
石田さんは現在34歳,白い服がトレードマークで,身長173cm, 体重55kg, BMI 18.4のやせ型体型をされています.
また体が弱く数々の虚弱体質エピソードを自身でお笑いのネタにされています.
例えばWikipediaをみてみると,次のように書かれています.
実家が貧しく食生活に恵まれなかったため、骨年齢が72歳、血管年齢は73歳と判定されている。その他にも虚弱なエピソードが豊富である。
・スキップをしたら足の指を骨折した。
・デコピンをしたら中指を粉砕骨折した。
・医者からシッペを止められている。
・相方、井上のツッコミにより肩を脱臼した。
・写真撮影で後ろに振り返ったらアバラにヒビが入った。
・病院食で痛風になったことがある。
・蛍光灯で日射病になったことがある。
・タバコを吸ったら風邪をひく。
・手を洗うと指先から流血することがある。
・野球をしているとき、ボールを投げただけで腕を螺旋骨折した。螺旋骨折した右腕は、16本の金属のプレートとボルトで補強しているため、電磁波や静電気に過剰反応してしまう。
もしかしたらお笑いのネタとして脚色されている面もあるのかもしれませんが,
もしこれらのエピソードが本当だとしたら,かなり健康に問題があります.
特に目を引くのは骨の脆弱性(ぜいじゃくせい)です.30代の年齢にしてあまりにも骨がもろすぎます.
また止血能力も免疫力も低下しています.お笑いのネタとしてはいいですが,現実問題としては全く笑えない状況だと思います.
さらに病院食で痛風になるというのも,糖質制限の観点でみたときに興味深い内容です.
石田さんは病院食なのに痛風になってしまうという自分の体質を嘆いているかもしれませんが,実際には炭水化物50~60%という糖質過多の病院食そのものが石田さんの身体に痛風を引き起こしてしまう程バランスの悪い食事なのではないかと私は思います.
さて,特集の記事を読んでみます.
ガリ芸人に聞く,ガリの本音
(前略)
「芸人を始めた頃は47kgくらいしかなかったから,これでも太ったほうなんです.」
ひ弱そうに見えるが,実は小学校から高校まで9年間野球に明け暮れたスポーツマン.いまでも10㎞をキロ4分20秒程で走り切る体力の持ち主である.
「高校時代はインナーマッスルを必死に鍛えました.おかげで体格は小さかったけれど,球速は130㎞以上あったんです.」
(後略)
興味深いですね.やせ体型はやせ体型でも,その中でも徐々に太っているという事がわかります.
学生時代はかなりのスポーツマンであった事からは消費エネルギーはかなり多かった事が想定されます.
そしてお笑い芸人となり売れていき,運動の機会がなくなって行ったでしょうし,その後の食生活がどうなっていったかが気になるところです.
次に石田さんに対する質疑応答をみてみましょう.
Q.ガリ体質になった理由,思い当たりますか?
A.うちが貧乏で,子どもの頃あまりご飯を食べさせてもらえなかったのが原因だと思います.体質も絶対ありますよね.昔ロケで牛肉10kg食べたあと,うちに帰って体重計に乗ったら,体重がまったく変わっていませんでした.
Q.食生活を教えてください
A.朝はご飯と味噌汁に焼き魚という典型的な和食.昼は弁当,ラーメン,カレーとかですね.夜は毎日飲みに行きます.チョコレートとかスナック菓子が大好きなので,舞台の合間とか待ち時間には間食もしますよ.
Q.30代になっても体質は変わらない?
A.ちょっと変わってきた気がします.先日4本撮りのロケがあり,1日10食以上食べたら体重が3kg増えました.20代の頃だったらたぶん変わっていないと思います.でも,3kg増えた体重も2~3日で元通りになりました.
Q.もっと太りたいですか?
A.太りたいです.頼りがいのあるお父さんみたいな体型に憧れているので,あと10kgくらいは増量したい.でも,体重が増えてお腹まわりに贅肉がつくのは嫌ですね.手足が細いからどうしても脂肪がつくんですよね.
このやり取りもいろいろと興味深いです.
まず肉を10kg食べても体重が変わっていないというエピソードですが,
糖質制限の観点でみるとこれは別に不思議な事ではないですね.
基礎インスリン分泌の保たれている人であれば肉を10kg食べたところで血糖値はほとんど上昇しません.これによってインスリンの追加分泌は起こりませんので,体重が増えることはないのです.
また,1日10食で3kg太ったというエピソードは,
流石に10食中に含まれる炭水化物で3kgもの体重増加をきたしていますが,
おそらく石田さんは基礎インスリン分泌が低いのでしょう.糖新生が亢進して消費エネルギー増大するため,すぐに元の体重に戻ってしまうのではないかと想像します.
一番興味深いのは,現在の石田さんは明らかに糖質過多の食生活をしているということ,そしてそれによってお腹周りに贅肉がつき始め47⇒55kgの体重増加をきたしているということです.
やせ体質の人でも糖質過多の食生活をし続ける事で,少ないながらも肥満へと身体は向かっているということです.
しかもそれと同時に,太っている人では考えられないスピードで骨が弱っているという事です.
つまり糖質を摂取することであまり太らない代わりにその他の身体の害を受けているという一例だという事がわかります.非常に興味深い事実です.
この「その他の身体の害」というのは,人によって違うと私は考えています.
例えば,人によっては動脈硬化が非常に速く進行したり,人によっては原因不明のめまいをきたしたり,人によっては精神に異常をきたしたりしているのだと思います.
だからやせ体質の人も,糖質制限をやる意義は大いにあると私は思います.
そして,石田さんの食生活は糖質制限を知る前の私の食生活と大差はありません.
同じものを食べていても,ある人は太らず,ある人は太っていくという違いが生まれるということです.
この現象はカロリー理論でも,糖質理論でも説明しきれませんが,
私はこの違いは腸内細菌叢の違いによってもたらされていると思います.その違いがいわゆる「体質の違い」の本質ではないかと思うのです.
よく太った人は食べ過ぎだと非難されますが,同じものを食べてもエネルギーを得られるか得られないかは腸内細菌叢に左右される部分が大きいので,非難される筋合いはないと私は思います.ましてや自己管理不足などというレッテルを貼るのはもってのほかです.
逆に言えば,腸内細菌叢を変えることができれば,体質の改善も可能になると考えられます.
ただし,これは容易な事ではないようです.また腸内細菌叢についてはまだまだわかっていない事も多いです.
ともあれ,様々な示唆を与えてくれる興味深い特集でした.
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
糖質摂取とやせ・肥満
うろ覚えですが、ゲーリー・ペートス氏の『ヒトはなぜ太るのか?』でも、「貧困層でも太った人と痩せた人が、貧困層以外の環境と同等の割合で存在する」という記述があったと思います。
私の知り合いでも糖質制限しても一向に体重が減らない(100kgオーバーにもかかわらず)者がいました。
腸内細菌叢との関係、興味深いです。
石田さんの場合は、「体重を増やす=筋肉を増やす」ことだと思われますので、やはり細胞の材料であるタンパク質と脂質の積極的摂取が必要かと私も思います。
Re: 糖質摂取とやせ・肥満
コメント頂き有難うございます。
「糖質を摂れば太る、糖質を控えればやせる」とは言いますが、
それだけにとどまらない糖質の害、ひいては糖質の本質に気が付く事ができたら、今まで見えなかったいろいろな事が見えてきますね。
No title
骨粗しょう症というのも血糖値変動が骨の再生を阻害してる可能性がありますね。夏井先生のHPにコメントされてる歯科医の方も虫歯は血糖値変動によるカルシウム濃度の低下から来るではないかとおっしゃっていました。また歯磨き中吐き気が来るのも糖質の影響で喉の粘膜が弱ってるせいと書かれていて、祖父の煙草が嫌いで嫌いで口内炎が治りにくく猫舌の自分には当てはまりすぎてて怖いぐらいです。
慢性疲労症候群というのもあるんですね、自分にはこれも糖質の悪影響としか思えないですね。「原因不明」このワードがあったら要注意ですね。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014040401002095.html
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
様々な原因不明の病気が糖質制限をする事で良くなって行く姿を私は実際に見ています。
まさに糖質の害が様々な病気の根源的な要因となっている事を考えさせられる次第です。
2014年3月20日(木)の本ブログ記事
「原因が分からない人にこそ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-216.html
も御参照下さい。
虫垂
半年ほど前から江部先生の本を読んで糖質制限継続中のものです。
たがしゅう先生の記事も毎日読ませて頂いています。
腸内細菌叢の件ですが私も最近気になっていましたところ、
つい先日このような記事がありました。
無用の長物と考えられていた虫垂の免疫学的意義を解明
~炎症性腸疾患の制御に繋がる新たな分子機構~http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140410/
虫垂にも立派な役割があったなんて大変驚きです。
Re: 虫垂
コメント頂き有難うございます.
> 無用の長物と考えられていた虫垂の免疫学的意義を解明
> ~炎症性腸疾患の制御に繋がる新たな分子機構~http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140410/
興味深い内容ですね.
虫垂炎を起こすと虫垂のみが切除する手術がなされる事があります.
しかし虫垂に免疫学的に重要な機能があるのだとすればこれもできるだけ避けたい所です.ということは虫垂炎術後の人では炎症性腸疾患の発症率が高いのでしょうかね.
では,虫垂炎を起こさないようにするためにはどうすればよいか…,一度考えてみたいと思います.
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