「酸性」である意味
2014/04/02 00:01:00 |
素朴な疑問 |
コメント:9件
糖質制限をしている時には身体ではケトン体というものが多く産生されます。
ケトン体は糖質をとらない状況において脂肪を燃焼して作られるエネルギー源のことで、「酸性」の性質を持っています。
このケトン体が増えて体が酸性の状態に傾きすぎて意識障害、腹痛、嘔吐などの症状をきたした状態の事を「ケトアシドーシス」といいます。
ケトアシドーシスはインスリンが絶対的に欠乏した状態でケトン体が増える事によって起こってくる危険な病態です。
しかし通常我々の身体では、「基礎インスリン」というものが膵臓という臓器から24時間常に少量で一定量分泌され続けていますので、
この機能が保たれている限り、インスリンが絶対欠乏状態になることはまずないのです。
しかし糖質を摂取すると血糖値が上がり、これを元に戻すために膵臓から急遽追加でインスリンが分泌されます。これを「追加インスリン」といいます。
糖質制限の事を理解するには、この「基礎インスリン」と「追加インスリン」の違いもきちんと区別して認識しておく必要があります。 糖質を摂取していなければ膵臓には負担がかからないので「基礎インスリン」は安定しますが、
長年糖質を摂取し続けて「追加インスリン」が分泌され続けると次第に膵臓が疲弊し、「基礎インスリン」も少なくなっていき、ひいてはインスリンの絶対的欠乏状態になってしまいます。
あるいは1型糖尿病のように自己免疫反応で膵臓の組織が破壊されてしまった場合は基礎インスリンも追加インスリンも含めたインスリン絶対的欠乏になります。従って1型糖尿病の方は基本的に1日1回の基礎インスリンの注射が不可欠となります。
さらにはペットボトル症候群といって、大量の糖質を含む清涼飲料水を摂取することで大量の追加インスリンが分泌され、基礎インスリンも含めて一気に枯渇するような病態でも一時的にインスリン絶対的欠乏になります(ただこの場合は時間が経てばインスリン分泌能は再開してきます)。
逆に言えばそのようなインスリン絶対的欠乏状態にさえなければ、インスリンの多面的な働き(糖質代謝・脂質代謝・蛋白質代謝)によってアシドーシス(身体が酸性に傾いていく状態)は補正され、ケトアシドーシスは起こりません。
さて、ケトン体は「酸性」の性質を持っているわけですが、
そもそもこの性質さえなければ、仮にインスリン絶対欠乏であっても、少なくともケトン体でアシドーシスになっていく事はないはずです。
はたしてケトン体が酸性である事には何か意味があるのでしょうか。
まず細胞内の環境は基本的にほぼ中性に保たれています。
よく肌は弱酸性だと言われますが、皮膚の常在菌が皮脂の脂肪酸などを分解しています。
その分解産物で皮膚の状態を弱酸性にしている事がそのメカニズムだとされています。
一方で、多くの病原菌はアルカリ性環境を好むので、
皮膚が弱酸性であることは、皮膚の常在菌が他の病源菌から身体を守ってくれている事を意味します。
ところで弱酸性の洗剤とか、肌にやさしい化粧と銘打ち弱酸性のものがあるかと思いますが、
洗剤、化粧品そのものは弱酸性であっても、その本質は界面活性剤であり、石鹸と同様にこれは脂分を根こそぎ持っていかれるために、
弱酸性の洗剤や化粧を使えば使うほど皮膚が荒れていくという悪循環が出来上がることになっていくので注意が必要です。
この辺の話については夏井先生のこちらの本に詳しいです。
まずこの点において、酸性の物質を産生することはアルカリ性に比べて身体を守ることにおいて有利に働いているということがわかります。
また、蛋白の凝集という現象がアルカリ環境下で進んでいくということを示した研究もあるようです。
蛋白の凝集とは神経変性疾患に関わる重要なメカニズムです。我々としては、できるだけ蛋白の凝集という現象を食い止めたいと思っているわけです。そのためにはアルカリの環境を改善するということが一つの有用な戦略になりそうです。
さらには、その真偽が問われているSTAP細胞が作成されたのは弱酸性という条件下でした。
こうした現象を俯瞰で見た時に、
「酸性」の物質はいざという時に身体を守るための武器あるいは防具としての役割があるような気がいたします。
そう考えると糖質制限で酸性のケトン体が常に身体の中にあることは、
大変有意義なことなのかもしれません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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糖質制限1ヶ月後
開始と同時に高血圧と、痛風で6種類の降圧剤と痛風薬の飲用をほぼやめました。
体重は-4kg、血圧も上下-10ほど下がりました。
昨日血液検査の結果・・・
中性脂肪昨年100→232
尿酸値昨年6.5→8.6
血糖値は食前107→食後100
のような結果が出ました。
肉食が多く、脂身やホルモン系も多く摂取した結果でしょうか?
今月18日にはA1cを含めた検査も行います。
A1cは昨年数値で
NGSPが6.3、JDSが5.9と高めの数値です。
検査までに注意することはあるのでしょうか?
Re: 糖質制限1ヶ月後
御質問頂き有難うございます。
体重と血圧の改善は順調ですね。
> 昨日血液検査の結果・・・
> 中性脂肪昨年100→232
> 尿酸値昨年6.5→8.6
> 血糖値は食前107→食後100
> のような結果が出ました。
> 検査までに注意することはあるのでしょうか?
糖質制限開始後まもない時期は尿酸が上昇しやすいです。
ケトン体体質になり尿中ケトンが出て尿が酸性となります。その結果酸性物質である尿酸が尿中に排泄されにくくなる事がメカニズムの一端と考えられています。
しかし通常の糖質制限(スーパー糖質制限食)を続けていると尿から腎臓でのケトン体の再吸収効率が高まり、だいたい2〜3ヶ月程度で尿中ケトン体は出なくなります。
なので、もし痛風発作を起こしたことがなければそのまま様子見でもいいのですが、痛風発作を起こしたことがある、もしくは心配な場合は、一時的に尿をアルカリ化する作用のある「クエン酸(ウラリット)」を内服するのも一法です。
中性脂肪は食事の影響を強く受け、食後3〜4時間後は食事由来の中性脂肪も入って高値になります。
糖質制限下なら基本的に空腹時の中性脂肪は低値または正常です。もしも空腹時にも関わらず上記の数値であれば、さすがに脂質の取り過ぎである可能性もあります。その場合は少しだけ脂質制限も加えて下さい。
あとのデータは全く問題ないと思います。
歯周病
大体というのは私にとって内容が難しかったりすると頭が痛くて読めない時があるのですが・・・。
今回は質問といいますか、リクエスト的なことといいますか・・・。
私の記憶ちがいでなければ今まで歯周病と糖質制限の関係について書かれたものがなかったと思うのですが、先生はどう思われますか?
糖を摂らないんですから虫歯にはなりにくいとして・・・。歯周病はどうでしょうか?
そもそも、何をもって歯周病とするのかもよく知りません・・・。
と言いますのは私は、まあ比較的厳密に糖質制限している(2年ぐらい)方だと思うのですが、
通っている歯医者はかなり歯周病に力をいてているらしくダメ出しばかりなんです。
検査をしてBOPという歯茎からの出血があるとダメらしいんです。
歯が動揺しているなどの症状は全くありません。
糖質制限をしていたら歯周病にならないなんて話も聞きますが、
そもそも普通の歯医者に行けば歯が抜けかける等の症状が出るまで歯周病だと診断されないという話も聞きます。
日本人の80%が歯周病だと言われながらです・・・。
また機会があればご意見をお聞かせ下さい。
Re: 歯周病
いつも御覧頂いて有難うございます。
> 今まで歯周病と糖質制限の関係について書かれたものがなかったと思うのですが、先生はどう思われますか?
確かに歯についてはまだ取り上げた事はありませんね。
実は歯についての知識は私は乏しくて、記事に取り上げる程の考察がなかなかできません。医学と歯学は似ているようで結構畑が違うのです。
私が今歯について言えるのは歯を大して磨かなくても歯の舌触りがツルツルになってきたということくらいでしょうか。
ただ全体的な体調がよくなってきているのに、歯だけ悪くなるという事はまずないと私は踏んでいます。
ケトン食の長期安全性と歯科医 長尾周格先生
こんにちは。今回のテーマは酸性についてですね。とても興味深く拝見しました。最近、考えていることがあります。世間では糖質制限の長期的な安全性について議論されていますが、私はそんなことよりもケトン食の長期安全性の方が興味があります。小児てんかんの治療でも約2年間と聞きましたが、それは厳密な食事制限に耐えられるリミットが2年程度だからなのか、子供は成長期にあるので身長が伸びないなどの弊害を回避するためなのでしょうか?ケトン体が強陽性になるようなケトン食を長期に続けるとどうなるのかということについてはとても興味があります。糖質制限を勧めるお医者さんの中にもプチ糖質制限や緩やかな(マイルドな)糖質制限が良いという方がいっらしゃいますが、むしろ、プチケトン食やマイルドなケトン食こそが良いのではないかと思いますが、先生はどのようにお考えになりますか?お忙しいところ、大変恐縮ですが、宜しくお願い致します。
あと、コメント欄で歯の話題が出ていましたが、歯に関しては歯科医 長尾周格先生のブログが興味深いかもしれません。
http://ameblo.jp/elm-dental/entry-11807602316.html
有難うございます
有難うございます。それは仰る通りですね。
糖質制限や歯ブラシ修行に励みます。
>carpediemさん
有難うございます。
長尾先生も仰るように総合的にみて健康でなければならないというところは同じようですね。
当然と言えば、当然です。
逆に言うと食事療法だけでも歯周病はコントロールできないということでしょうか。
今回の話とは関係ないですけど・・・
興味深かったのは、長尾先生は良く噛んで食べることを推奨されていますが、
読み方を変えると「肉を噛み砕き過ぎると酸化しやすくなる」という理屈をブログから頂きました。
またじっくり読ませて頂きます。
Re: ケトン食の長期安全性と歯科医 長尾周格先生
御質問頂き有難うございます.
> ケトン食の長期安全性の方が興味があります。
> 小児てんかんの治療でも約2年間と聞きましたが、それは厳密な食事制限に耐えられるリミットが2年程度だからなのか、子供は成長期にあるので身長が伸びないなどの弊害を回避するためなのでしょうか?
いわゆる古典的ケトン食の長期安全性を示した論文はまだないと思います.でも個人的には古典的ケトン食の長期安全性もあまり問題ないと思います.
小児てんかんにおける2年間という期間はあくまで目安であり,医学的にそれ以上続けられない理由があるわけではありません.実際に昨年,古典的ケトン食療法に取り組んでいる病院の小児科を訪れた際に4年以上古典的ケトン食を続けて問題なく成長していっているお子さんにもお会いしました.
ただ古典的ケトン食は簡単に言うと,「糖質制限+蛋白質制限」であり,糖質制限は良いとして蛋白質制限の弊害があるかどうかということが問題になるかと思います.一般的には体重1kgあたり1gの蛋白が確保できていれば問題ありませんが,もしもそれを下回る場合は一定の留意が必要かもしれません(例:筋力低下がないか,など).
ちなみに古典的ケトン食を経験した小児てんかんの患児の多くは,発作消失が得られたら修正アトキンス食などのより制限の緩いケトン食へ移行していくようです.それは古典的ケトン食をやめた後でも,そのようにすればその発作抑制効果の維持が可能になるからです.
2013年9月7日(土)の本ブログ記事
「ケトン食 やめたらどうなる?」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-9.html
も御参照下さい.
No title
少し古い記事ですが、その後どうなってるのか興味があります。
どなたかご存じないでしょうか。夏井先生の為にも・・(笑)・・。
「外傷時におけるエネルギ-基質としてのケトン体の研究」
http://kaken.nii.ac.jp/d/p/02670544/1991/3/ja.en.html
Re: No title
情報を頂き有難うございます.
> 「外傷時におけるエネルギ-基質としてのケトン体の研究」
興味深い研究ですね.是非入手して読んでみたいと思います.
外傷とは違いますが,私の実体験の中ではケトン食下で風邪が治りやすいというものがあります.
そう考えると,ストレス侵襲下でもケトン体は何らかの有益性を発揮している事が予想されます.
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