産業医が糖質制限食を伝えるのは難しい

2023/12/03 19:50:00 | 自分のこと | コメント:6件

本日は12月3日で、当ブログで恒例となった「はじめて記念日」です。

私が糖質制限食をはじめて実施したのが、2011年12月3日でしたので、それにちなんで毎年12月3日にはその年に私がはじめて経験したことに関するブログ記事を書くようにしています。

今回は厳密に言えば今年はじめてやったことではないのですが、比較的最近開始して、今年も1年間ずっと取り組んできた業務だったので、今回はそれについて書き記してみようと思います。

それは、産業医の業務です。

まず読者の皆様は「産業医」という存在をご存知でしょうか。

「産業医」というのは簡単に言えば、企業と契約してその企業の社員の健康を守るためのお手伝いをする医師のことで、医師資格とは別に産業医を行うための資格が必要です。

実は私はその「産業医」の資格を研修医の頃に取得していたのです、ずっと使う機会がない状況が続いていました。

しかし2019年10月にたがしゅうオンラインクリニックを立ち上げて以降、産業医の資格を使えるように積極的に動くようになり、

現在は、本業のオンライン診療の傍ら「産業医」の仕事も始めるようになっています。 その産業医の業務内容は基本的には法律で規定されています。

例えば労働安全衛生委員会という企業が主催する話し合いの場に出席して意見を述べさせてもらったり、

職場巡視という企業の労働環境を見回って、医師の目線から見て何か健康課題が起こりうるような問題がないかチェックしたり、

原則年に1回行われる健康診断やストレスチェックの結果を確認して、必要に応じて助言や面談を行ったり、

体調を崩した社員さんとの面談で休業が必要と判断したり、休業した社員さんの復職を定期的な面談でサポートしたりといった感じです。およそ一般的な医師の業務内容とは全然違うということがわかってもらえると思います。

それで今私はありがたいことに複数社の企業と契約を結んでいて、産業医業務を行わせていただいているのですが、

当たり前のようですが、どの企業の皆様に対しても社員の健康を守りたいと心から望んでいます。

ところがこの産業医として社員の健康を守るというアプローチが、私は極めて難しいと感じ続けています。


まず医師が病院で患者さんと出会う時と違って、基本的に産業医が社員の方々と出会う場合には、社員さんからすれば望まない出会いです。

病院に受診する患者さんは「医師に診てほしい」と思ってきていますし、元来の医師は頼りにされやすい文化も手伝って、比較的コミュニケーションはスムーズに行われます。

いや、スムーズに行われるというよりも、患者は医師の言いなりになりやすいと表現した方が現実に近いかもしれません。

ところが社員さんの場合は「医師に診てほしい」のではなく、「会社から言われたから来た」という理由で産業医と対面することが圧倒的に多いのです。

ましてや健康についての注意や指導的な内容について語らなければならない場面がほとんどなので、社員さんからすれば小言や説教を言われている感覚になっても不思議ではないシチュエーションです。

でも私には糖質制限食があります。本来であれば小言や説教に感じられるその産業医面談の場面を、

人生を劇的に改善させるチャンスに変えて見せようと意気込んで、ここぞとばかりに糖質制限食のことを伝え続けてみるのです。

すると、どうなると思いますか。少なくとも私の場合は、ほとんどの方に見事にスルーされてしまうのです。

考えてみればそれは当然なのかもしれません。社員の方にとっては基本的に「望まない面談」であるわけですから。

そこで「タバコをやめろ」とか「お酒を減らせ」とか「運動しろ」とか小言じみたことを言われるのかと思いきや、

「糖質を減らして、脂質・タンパク質を増やせ」と来たと。予想と違うことを言われたけれど、だからと言ってやってみようと言う気にはなかなかなりません。

多くの人にとって、言われる内容がどうであろうと、きっと本音を言えば、自分にとって生きたいように生きていきたいのだろうと思います。

食べたいように食べて、運動や飲酒、喫煙も好きにさせておいてほしい。基本的にそう考えている人達に、自ら病院を受診するような人達であればまだしも、それ以外のいかなるアドバイスも心に響くはずもありません。

でも私もそれであきらめるわけにはいきません。押してダメなら引いてみるという言葉もあります。

面談の場で糖質制限について強く勧めるのはやめて、今度は社内専用のブログを立ち上げて、健康情報を情報発信するということにもチャレンジしてみました。

その中で、糖質制限食の視点も織り交ぜながら、社員の方々が健康を守るために役に立ちそうな記事を書き続けてみました。

そうすると、それをしばらく続けていたある日、とある会社の上層部の方から次のように指摘を受けました。

「先生、糖質制限食の話でショックを受ける社員もいますので、あまりそのことについては触れないでください」

何ということでしょう。糖質制限食について話すなということになると、私からすれば伝家の宝刀を奪われるようなものです。

聞けば、実家が米農家の人もいるからだとか、脳がブドウ糖のエネルギー源なのに極端に勧めるのはどうかと思うとか、

今まで私がさんざん阻まれてきた常識の壁の話がここでもたくさん聞かれるようになり、私はそのブログ活動の内容でなるべく糖質制限食に触れないように配慮し、さらに更新ペースも落とさざるを得ない状況になりました。


求められていないことを無理やり勧めるのは、いわゆる「おせっかい」というものです。

しかし面談での発言はともかく、ブログを読むかどうかは社員の自由でもあると思うけれども、それでも「おせっかい」だと感じてしまう人がいるということになれば、私はどうすればいいのでしょうか。

どうやって社員の健康を守っていけばいいのでしょうか。

そもそも病院での診療場面においてでさえ、糖質制限食について患者さんに伝えるのは困難を極めるという経験が私にはありました。

産業医の業務の中で糖質制限食を伝える作業はそれ以上にハードルの高い行為であることは、

私はこの数年の産業医活動経験を通じて身にしみて感じることになりました。

今はただ、なるべく社員へストレスを与えることなく、ただ社員が主体的に私の情報発信について関心をもつ日が来ることを信じて待つ、と。

そして私自身も完全に相手が関心を持つのを待つだけに徹するのではなく、相手の反応を見ながらなるべくさりげない援助、さりげない情報提供を心がけるより他にないのかもしれないと今は思っています。

せっかくまだ病気になっていない未病の段階で、病気になることを未然に防ぐことができるかもしれない産業医としての企業社員へのアプローチでしたが、

どうやらそう簡単にはいかないようです。

でもいつか、企業全体で糖質制限食に取り組むのが当たり前の文化が生まれて、

全員の健康状況がワンランク上がって、企業の生産性も高まるということが実現できたとすれば、

それはどれだけ素晴らしいことかと思います。

いつか糖質制限食に取り組む企業を作り、他の企業から羨ましがられてどんどん真似されるようになり、

社会の健康への取り組みが大きく見直される日が来ることを願って、

私は糖質制限推進派の産業医であり続けようと思います。

勿論、糖質制限が合わないというタイプの社員も見逃さずに、

その人にとっても良い方法を対話的に一緒に考えていける医師でもありたいと思います。


たがしゅう
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コメント

2023/12/05(火) 12:28:39 | URL | JN #-
突っぱねることが出来ないのであるならば、そんな企業は相手にせず産業医を辞退するのが正しいことかと思います。

Re: タイトルなし

2023/12/06(水) 12:18:06 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
JN さん

 コメント頂き有難うございます。
 確かにご提示の選択肢もありますね。
 一方で今は無理でも、1年後、3年後、5年後には状況が変わるかも知れないことへの淡い期待もあります。

 私の負担になり過ぎない程度に、不確実性に耐えながら、いざという時には伝家の宝刀を抜く覚悟で、関わり続けてみようと思います。

2023/12/06(水) 16:56:55 | URL | JN #-
コメント失礼いたします。

たがしゅうさんのブログを楽しみにしておりますので可能な限りで結構なのですが、日々アップしていただいたら嬉しく思います。

Re: タイトルなし

2023/12/06(水) 17:26:42 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
JN さん

 コメント頂き有難うございます。
 そのように言って頂けると励みになります。
 できる限り頑張ります。

2023/12/09(土) 09:34:26 | URL | 栗田三江 #U7CTLDyk
たがしゅう先生


会社上層部が糖質制限指導を止めるように言う・・・。これって折角糖質制限を知る機会がある社員の方々にはお気の毒な事だと考えます。



糖質制限するか否かは個人の判断なのですが、未だに間違った知識で糖質を「必須栄養素」だと誤解しているヒトが居ます。間違い栄養学を鵜呑みにされているヒトも居ます。その方々に正しい食を叫べるのか糖質制限推進派の医師でしょう。



先生は柔軟でいらっしゃるから、正論を正面から叫ぶ大人気(おとなげ)無い事されません。そこが長い目でみて糖質制限の真実が浸透していく事になるような気がします。



私は年度はじめに国家試験受験講義とは別に講義中、マイクを持って糖質制限の話をします。親しくなった学生さんには個人的に言う事も。


糖質制限食の大切さって身を持って感じないと受け入れにくいのかもしれませんが、アタマから否定するヒトって残念だなあと思うのです。

くんだみえ

Re: タイトルなし

2023/12/09(土) 11:01:07 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
栗田三江 さん

 コメント頂き有難うございます。
 
 そうですね。糖質制限食推進についてはさんざん色々な経験をしてきました。
 正論を叫び続けることの不毛さを身に染みて感じてきました。
 途中で対話というものに出会い、相手を尊重することの意味と関わり方についても学習と実践を繰り返してきました。 

 だからと言って事態が打開できるほど世の中は単純ではないし、
 それでも何とかしてその場にとどまり続けることの意味はあるということなのかもしれないと今は理解しています。

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