「安いなら使った方がいい」が導く無限地獄
2023/08/17 11:00:00 |
保険診療への疑問 |
コメント:2件
2020年10月1日に「東京iCDC」という感染対策にまつわる東京都公認の組織が立ち上がっています。
こちらのNoteによりますと、「東京iCDC」というのは、『感染症に関する政策立案、危機管理、調査・分析、情報収集・発信など、効果的な感染症対策を一体的に担う常設の司令塔』だとのことです。
おそらくCDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病対策予防センター)というアメリカにおける感染症対策の司令塔がモデルとなっており、また2023年5月31日には本格的な日本版CDCを設立するための法案までが成立しているという状況にありますが、
法案が成立されるよりも前に、前身となるようなiCDCという組織がすでに立ち上がっていたというわけですね。ちなみにiCDCの「i」は「感染症に特化した組織にしていく」という意味で「Infectious(感染症の)」の頭文字が表現されているそうです。
世の中は感染症を理由に国や公的機関が国民を管理する時代へと着実に向かっています。この流れに理不尽に飲み込まれなくて済むように主体的医療の基盤をなるべく早く固めていきたいと思う次第です。
さて今回は、その「東京iCDC」が行ったとあるアンケートに注目してみたいと思います。 2023年2月15日〜2月21日の期間に、東京都在住の20代~70代の都民に対して「新型コロナウイルスのワクチンに関する意識」と題してアンケートが行われています。有効回収票数は10,429とのことです。
いろいろなアンケート結果を確認することができますが、今回私が注目したいのでその中の1点だけです。
それは、すでに新型コロナワクチンを接種した人、もしくはまだ接種していないが今後接種を予定しているという人に対して接種の理由を尋ねた質問への回答で、最も多かった回答が「接種費用が無料だから(約5割)」だという部分です。
この結果は逆に言えば、新型コロナウイルスのワクチンが有料化になれば、もちろん金額にもよるでしょうけれど、同ワクチンの接種行動が見直される可能性を示していると思います。
「行動経済学」という必ずしも合理的とは限らない人間の不合理なクセや習性を踏まえた上で、経済と人間の行動の関連について考える学問分野がありますが、
ここではお金が人に影響を与えるという当たり前の事実とともに、お金というものが人間の行動に与える影響の大きさが表現されているように私には思えます。
「安物買いの銭失い」ということわざからの注意喚起もあるように、お金という非常に強力なファクターに揺さぶられ続けると結局自分が損をするという構造があることに私たちは改めて注目する必要があるのではないかと感じています。
つまり、油断していると「安物買いの健康失い」に陥る状況が眼前に差し迫っているのではないかと私には思えるのです。
このアンケート結果を見た時に、高齢者医療の中で常態化しているポリファーマシーの問題も同じ本質かもしれないと感じました。
病院に通い続ける高齢者において、いつも服用している「常用薬」の数が10剤〜20剤になっているケースは決して珍しくありません。むしろそうしたケースはありふれています。
それを当の患者が心から望んでいるのであればまだしも、多くの高齢の患者さん達から「こんなに薬を飲んでいて大丈夫か」とか、「この薬はこれからもずっと飲み続けないといけないのか」などの不安の声はしばしば聞かれます。
しかもそんなにたくさんの薬を飲んでいるにも関わらず、服用している当の本人は健康とは程遠い状態であることがほとんどです。しかし本人は「お医者様に言われた通りにこれらの薬を飲み続けるしかない」と思い込んでしまっています。
なぜそのようなポリファーマシー状態になるのかに関して言えば、まずは「先生にお任せするしかない」という患者側に染みついた受動的医療の意識、
また提供する側の医療者が施す治療が、根本原因に対処できずただひたすら表面的に症状を誤魔化し続ける「対症療法」に特化する構造をとっていること、結果的に薬の足し算はできても、引き算をすることが難しくなってしまっていることもあるでしょう。
ただもしそのように足し算型投薬を標準治療とする構造の中にいる医療者に言われるがままの状況に患者が陥っていたとしても、
もしもその投薬にかかる費用がある程度高額であれば、言われるがままの治療を受けることにブレーキがかかる患者さんだっているのではないでしょうか。
つまり「受動的医療の意識」「足し算型の対症療法中心医療」に並んで、ポリファーマシーの常態化を作る第3の要因に、「国民皆保険制度に伴う金銭負担感の希薄化」があるのではないかと思うわけです。
国民皆保険制度は全国民が平等に質の高い標準治療を受けることを可能にしているとのことで、国内の医療者から高い評価を受けているという言説が比較的目立ちますが、
実は非常に巧妙な制度だと私は思っていて、言わば日本国民であるというだけでいつの間にか契約させられているサブスクリプションサービスのようなものです。
巧妙だと思うポイントはいくつかあって、まず「給料から天引きされる」という集金形式をとることで、国民側としてはお金を出しているという意識が希薄になるということです。
また全国どこの病院でも国に担保された保険診療を受けることができるという点で、誰にも反対されない正当性の演出に見事に成功しているという部分も巧妙です。
私に言わせれば前述のように根本原因から延々と目を背けさせ続けるという点で、デメリットの部分もかなり大きいと思いますし、そのデメリットが多くの人に認識されていないからこそ、高齢者のほとんどが何かしらの理由で病院に通い続けているという事実へとつながっていると思うわけです。
もっと言えば、近年では在宅医療の進歩によって足腰が悪いなどの理由で病院に通えない高齢者にまでこの保険診療を届けることに成功しています。
もしもその国が質を担保している保険診療が短期的には助けになったとしても、長期的には不健康をもたらすものであるとするならば、何も考えずに保険診療を使い続ける人にとっては無限地獄となりうる構造です。
そしてこの無限地獄への招待に「金銭負担感の希薄化」が大きく寄与していると考えられるわけです。
「安物買いの銭失い」ということわざは、元々はお金を節約しようと思って安いものを買っていたのに、過剰になれば結果的にその行動がお金を浪費させるという逆転現象を生み出すことへの警鐘だと思います。
国民皆保険でも同じことで、元は健康になろうと思って「お医者様にお任せ」し、質が高いとされる「保険診療」を受けているのに、過剰になることでその行動がかえって健康を損なわせるという逆転現象につながるという構造を見ることができます。
その逆転現象のおかしさに「あまりお金を払っている感じがしないこと」によって最期の最期まで気づかせないようにすることに「国民皆保険制度」は成功しているように私には思えます。
しかもあくまでも「あまりお金を払っている感じがしない」だけであって、実際にはものすごい高い金額を年余に渡って前払いしているというのだから非常に巧妙なのです。厳密に言えば「国民皆保険制度」の場合は「安物買いの銭失い」でさえありません。
あえて言えば「高物先払い買いの健康失い」の状況に容易に気づかせない仕組みを作っているのが、「国民皆保険制度」だということです。
ただ私は保険診療が有害無益だと主張したいわけではありません。
救急医療をはじめとして、たとえその場しのぎであったとしても「保険診療」が患者の役に立つ場面は確かにあるということは、これまでにも何度も述べてきました。
問題は、どうすればこの負の悪循環から抜け出すことができるのかということです。
私は結局はいかに「国民皆保険制度」に基づく「保険診療」から離れて人生を完遂するかに尽きると思っています。
それは別の視点で言えば、日本国で定められたルールで多額の保険料を支払っているにも関わらず、それを自分のために使わない覚悟を持つということです。
なかなか厳しい覚悟だとは思います。冒頭で述べたようにお金の影響力は強力ですから、
自分が支払ったお金の分は何らかの形で取り返したいと考えるのは人間の性です。ましてやそれが同意した覚えのない理由で強制的に支払われているサービスであればなおのことです。
しかし冷静に考えてこの制度に巻き込まれると結果的に不健康になるという構造を見据えれば、目先の誘導に持っていかれることのないように国民皆保険制度から離れることを心がけた方がよいのは自明なのです。
その上でどうしてもやむなき状況(急に意識を失って倒れる、急激な頭痛や胸痛に見舞われるなど)に限って保険診療に頼らせてもらうと、
逆に言えば、それ以外の状況では極力保険診療は使わないこと、これまでに支払った保険料はサンクコストだと理解して、保険診療を本当に必要とする人のための寄付だと位置付けること、
そういう意識を持って生きていくことが、少なくともいつの間にか不本意なポリファーマシーに巻き込まれないために大事なことだと私は思います。
同様の理由で、「無料であるうちはワクチン接種を受けたい」と考えるのはやめた方がいいと私は思います。
そういうところから、私達の医療へのお金の使い方を見直していく必要があるのではないでしょうか。
ちなみに私のオンラインクリニックでは保険で扱われている薬を自費負担で処方したりしていますが、
それが本来のあるべき医療の姿に近いと私は考えています。
自分の健康課題に対して、緊急時を除いて他人のお金がやすやすと使われるべきではないと考えるからです。
病気を誰にでも起こりうる災害のように位置づけるのではなく、
自分自身の反映そのものだと捉え直し、基本的には自分自身が自分の健康や病気を受け止めて、
医療に任せずに自分自身で整える努力を行なって、その上でどうしても自分では病気を整えられないという人が、
必要な額を支払って、必要な医療を受けるという考えの方がバランスが良いのではないかと思います。
そうすれば新薬の高額化にも少しは歯止めが効くようになるかもしれません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
なるほど。
お世話になっております。
なるほど。タダだから打つ、ですか。
しかしそうした考えを持つ人はワクチンが有効と信じてはいないかも知れないけれど接種によって自らの健康を損ねる可能性があるということには思い至っていないと思います。
もし健康を損ねる可能性があるのなら流石にタダでも打たないんじゃないでしょうか?
つまりたがしゅう先生がおっしゃるワクチンの無料化は接種を決める十分条件ではないように思います
。
私は最初に新型コロナワクチンが人類初のmRNAワクチンと聞いた時、何故だかもの凄く不安を覚えました。そして素人なりに色々調べたりしました。
無料だから接種する、という人は恐らく国が推奨するワクチンにこれまでのワクチンで想定されていた以上の副反応や健康を損なうような害等の可能性を疑ってもみなかった人だと思います。
そういう意味ではワクチンの成分を調べた訳でもないのに無責任な安心論を展開し、国民に接種を推奨してきた専門家と言われる人々や政府・厚労省は罪深いと思います。
Re: なるほど。
コメント頂き有難うございます。
> もし健康を損ねる可能性があるのなら流石にタダでも打たないんじゃないでしょうか?
> つまりたがしゅう先生がおっしゃるワクチンの無料化は接種を決める十分条件ではないように思います
確かにそうですね。
御指摘のように、いくら無料でも害があるかもしれないと思えば必ずしも打とうとは思わないと思います。
ただ多くの人は専門家やメディアからのワクチンに関する一方的な情報発信を受け、害についての認識が極めて乏しいものになっていたと想像します。良い悪いというより社会のために打つべきもの、会社が指示するから従わざるを得ないものという形で、その害についての認識が乏しい状況で選択をしていたのではないかと想像します。そういう状況で「無料」というブースターがかかると、「これを受けない理由はない」という判断になりやすいのかもしれないと思います。
医療の言いなりになると、こうした医療側が害を害だと認識しないことで、あるいは害ではなく「(ワクチンが)効いている証拠」などと解釈を置き換えられてしまうことで、その害を一手に引き受けてしまうリスクを負うことになると私は思います。そんな偏った医療側の価値観によって、知らないうちに害を引き受けてしまう人が少しでも少なくなることを願うばかりです。逆に言えばそうした害のリスクもわかった上で接種する人の選択は尊重されてしかるべきだとも思います。
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